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治療費の未払いと回収方法
目次
1 治療費の未払いの現状と原因
診療報酬の増加が望めない昨今、治療費の未払いを放置することは、医療機関の経営を圧迫し、存続すら脅かす大きな要因となっています。そのため、未払い治療費の回収と防止策は、重要な経営課題の1つといえるでしょう。
その原因としては、通常の営利企業と異なり、治療費の未払いを理由として診療を拒否することはできないとされている(応召義務)こと、患者の自己負担割合の増加、医療過誤や病院対応への不満による支払拒否等が考えられます。
2 治療費の未払い金発生の防止策
治療費の未払い金発生の防止策としては、次の方法が考えられます。
① 入院時の場合
連帯保証人、身元引受人を付けるようにする。
② 債権管理(消滅時効)
治療費は、3年の短期消滅時効期間しか認められておりません(民法170条1号)。ですので、債権管理に特に注意するとともに、消滅時効期間を徒過しないように、治療費の一部を支払ってもらったり、債務確認書等へ署名押印してもらう(いずれも「承認」となります)、又は未払い治療費の訴訟提起(「請求」)を行う等して、時効中断手続きをとるようにしてください。
3 治療費の未払い金の回収方法
回収方法には次のような方法があります。
① 病院からの督促
来院時に督促する、電話により督促する、文書により督促する、訪問により督促する等が考えられます。特に、文書による督促にも、普通郵便、内容証明郵便、顧問弁護士の法律事務所の封筒を利用する等、様々なパターンが考えられます。
いずれも何度も繰り返し督促するのがポイントです。
② 弁護士による債権回収交渉
弁護士に債権回収を依頼し、直接交渉してもらう方法です。
③ 裁判所を利用した手続
民事調停の申立て、支払督促の申立て、少額訴訟の提起、通常訴訟の提起等が考えられます。相手が患者であることを考えると、まずは民事調停を利用するのが一般的かもしれません。
④ その他
善管注意制度を利用することが考えられます(健康保険法第74条第2項、国民健康保険法第42条第2項)。保険者が未収金を徴収して、病院に支払ってくれる制度です。サービサーへの入金案内業務の委託も考えられますが、実際の回収業務まではできないのが難点です。
4 具体的な対応
(1)上記3の①から③を順にとっていくことが多いと思われますが、事案によっては、実効性の有無、費用対効果、消滅時効期間等を考慮して、適宜、最適な回収方法を選択していく必要があります。
(2)また、債権管理のフローチャートや債権管理シートの作成をするとよいでしょう。
(3)なお、医療過誤ないしその可能性を理由として治療費の支払いを拒否している場合、医療機関の方で、現実に医療過誤があると判断した場合には、治療費を減免して対応することを検討してもよいでしょう。医療賠償保険を使用される場合は、保険会社と対応を協議する必要があります。
医療機関としては、医療過誤の認められる事案と認められない事案とを選別し、対応していく必要があります。
(4)なお、後々の対応を考えて、具体的な交渉経過を記録にしておくことが重要です。
また、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会の4団体で構成する4病院団体協議会(四病協)が、平成21年2月に、「未収金発生防止マニュアル・回収マニュアル」を作成しているので、ご興味のある方は、参考にしてください。
治療費の未払い問題に関してお困りの病院・クリニック経営の方は、この分野に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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