令和5年改正旅館業法(宿泊拒否事由の追加等)とカスタマーハラスメント

1 はじめに

 令和5年12月13日、旅館業法の改正法が施行されました。旅館業法は、国民生活の向上等の観点から、同法第5条に定める一定の場合を除き、宿泊しようとする者の宿泊を拒んではならないと規定しています。しかしながら、昨今の新型コロナウィルス感染症の流行により、➀感染防止対策への実効的な協力の求めを行うことができない、➁いわゆる迷惑客について、営業者が無制限に対応を強いられた場合には、感染防止対策をはじめ、本来提供すべきサービスが提供できない、等の意見が寄せられていました。
 そこで、上記の情勢の変化に鑑み、今回の法改正がなされました。今回の改正事項を大きく分けると、以下の4つです。
➀ 宿泊拒否事由の追加
➁ 感染防止対策の充実
➂ 差別防止の更なる徹底等
④ 事業譲渡に係る手続の整備
 特に➀は、今後の実務に与える影響も大きいと思われます。そこで、本記事では、➀宿泊拒否事由の追加について、概要とポイントを解説します。

 

2 宿泊拒否事由の追加と特定要求行為

(1)旅館業法第5条第1項第3号(特定要求行為)

 今回の改正により、宿泊拒否事由として3号が追加され、カスタマーハラスメントに
当たる特定の要求を行った者の宿泊を拒むことができることとされました。具体的な条文は、次のとおりです。

【旅館業法第5条】

 営業者は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
一 宿泊しようとする者が特定感染症の患者等であるとき。
二 宿泊しようとする者が賭博その他の違法行為又は風紀を乱す行為をするおそれがあると認められ        るとき。
三 宿泊しようとする者が、営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する  宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき
四 宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。
  ⇒なお、三号における省令に定めるものを繰り返す行為を、「特定要求行為」といいます。

(2)旅館業法施行規則第5条の6

 旅館業法第5条第1項第3号をうけて、厚生労働省令(旅館業法施行規則第5条の6)で定めるものは、次のとおりです。
 次の各号のいずれかに該当するものであって、他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのあるものとする。

一 宿泊料の減額その他のその内容の実現が容易でない事項の要求(宿泊に関して障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成二十五年法律第六十五号)第二条第二号に規定する社会的障壁の除去を求める場合を除く。)
二 粗野又は乱暴な言動その他の従業者の心身に負担を与える言動(営業者が宿泊しようとする者に対して障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律第八条第一項の不当な差別的取扱いを行ったことに起因するものその他これに準ずる合理的な理由があるものを除く)を交えた要求であって、当該要求をした者の接遇に通常必要とされる以上の労力を要することとなるもの

(3)旅館業法第5条第1項第3号の適用ポイント

ア. 上記(1)(2) において、旅館業法第5条第1項第3号及び旅館業法施行規則第5条の6をご紹介させ ていただきましたが、一読して理解することは困難であると感じた方も多いのではないでしょうか。 そこで、同法同号のポイントをご説明させていただきます。

イ.旅館業法第5条第1項第3号のポイントを表にまとめると以下のとおりとなります。

【旅館業法第5条第1項第3号の適用のポイント(厚生労働省作成研修ツール「令和5年12月13日から旅館業法が変わります!」3頁表参照)】

社会的障壁の除去の求め それ以外の求め
要求内容が過重でない負担 法第5条第1項第3号の対象外(※) 法第5条第1項第3号の対象外(※)
要求内容が過重な負担 法第5条第1項第3号の対象外(※) 法第5条第1項第3号の対象

(※)但し、方法が粗野又は乱暴な言動その他の従業者の心身に負担を与える言動を交えた要求であり、当該要求をした者の接遇に通常必要とされる以上の労力を要することとなるものであって、他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのあるものの場合は、法第5条第1項第3号に該当し得ます。

ウ.上記イの表をもう少し説明させていただきます。
 まず、対象となっている顧客の要求行為について、それが➀要求内容が過重な負担か否か(縦軸)、➁社会的障壁の除去の求めか否か(横軸)、をチェックします。そして、➀○(過重な負担である)かつ➁×(社会的障壁の除去以外の求め)の場合、法第5条第1項第3号の対象(特定要求行為)となり得ます。
 もっとも、➂(➀×(過重な負担ではない)又は➁○(社会的障壁の除去の求め)に該当するとしても)方法が粗野又は乱暴な言動その他の従業者の心身に負担を与える言動を交えた要求であり、かつ、当該要求をした者の接遇に通常必要とされる以上の労力を要することとなるものであって、他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのあるものの場合、法第5条第1項第3号に該当し得ますので、注意が必要です。

エ.「負担が過重」か否かの判断方法
 なお、「負担が過重か否か」は、営業者において、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断していく必要があります。

【考慮すべき要素】

・事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
・実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
・費用・負担の程度
・事務・事業規模、財政・財務状況
(厚生労働省作成研修ツール「令和5年12月13日から旅館業法が変わります!」3頁参照)

オ.特定要求行為に対して宿泊を拒む方法
 営業者が、宿泊しようとする者から、旅館業法施行規則第5条の6に該当する要求(特定要求行為)を求められ、その要求に応じられない場合は、次の手順で宿泊を拒否するようにしてください。
 具体的には、➀「そうした要求には応じられないが、宿泊自体は受け入れること」を説明してください。そして、➁こうした説明を行ってもなお、当該要求を繰り返し求められる場合は、宿泊を拒むことができます。
 (厚生労働省作成研修ツール「令和5年12月13日から旅館業法が変わります!」3頁参照)

 

5 具体例

 厚生労働省作成研修ツール「令和5年12月13日から旅館業法が変わります!」において、特定要求行為の具体例がいくつか紹介されていますので、そのご紹介と若干のコメントをさせていただきます。

(1)具体例➀

 「宿泊しようとする者(※)が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、宿泊料の不当な割引や不当な慰謝料、不当な部屋のアップグレード、不当なレイトチェックアウト、不当なアーリーチェックイン、契約にない送迎等、他の宿泊者に対するサービスと比較して過剰なサービスを行うよう繰り返し求める行為」 
(厚生労働省作成研修ツール「令和5年12月13日から旅館業法が変わります!」4頁引用)
 求める行為の例として、宿泊料の不当な割引や不当な慰謝料、不当な部屋のアップグレード、不当なレイトチェックアウト、不当なアーリーチェックイン、契約にない送迎が挙げられていますが、当然ながらこれらのサービスに限らず、他の宿泊者に対するサービスと比較して過剰なサービスを行うように繰り返し求めていれば、特定要求行為に該当し得ます。
 ※「宿泊しようとする者」とは、
・これから1泊目の宿泊をしようとする者
・既に1泊以上宿泊していて2泊目以降の宿泊をしようとする者
のいずれも含みます。

(2)具体例➁

 「宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、自身の泊まる部屋の上下左右の部屋に宿泊客を入れないことを繰り返し求める行為」 
(厚生労働省作成研修ツール「令和5年12月13日から旅館業法が変わります!」4頁引用)
 宿泊客を入れない対象として、上下左右の部屋を挙げていますが、当然ながら、要求内容が過重であれば、上下左右の部屋に限りません。

(3)具体例➂

 「宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、特定の者にのみ自身の応対をさせること又は特定の者を出勤させないことを繰り返し求める行為」
(厚生労働省作成研修ツール「令和5年12月13日から旅館業法が変わります!」4頁引用)
 特定の者を対象としていますが、当然ながら一人とは限りませんし、性別も問いません。

(4)具体例④

 「宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、土下座等の社会的相当性を欠く方法による謝罪を繰り返し求める行為」  
(厚生労働省作成研修ツール「令和5年12月13日から旅館業法が変わります!」4頁引用)
 社会的相当性を欠く方法として土下座を挙げていますが、社会的相当性を欠く方法であれば、土下座に限りません。なお、土下座を要求する行為は、強要罪に該当し得ますので、警察への通報も検討する必要があります。

(5)具体例⑤

 「泥酔し、他の宿泊者に迷惑を及ぼすおそれがある宿泊者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、長時間にわたる介抱を繰り返し求める行為」
(厚生労働省作成研修ツール「令和5年12月13日から旅館業法が変わります!」5頁引用)
 長時間にわたる介抱を繰り返し求める行為が対象となりますので、短時間であれば該当しないことになります。ただ、どの程度であれば長時間になるのかについて、明確な時間が決められているわけではなく、ケースバイケースで判断する必要があります。

(6)具体例➅

 「宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、対面や電話、メール等により、長時間にわたって、又は叱責しながら、不当な要求を繰り返し行う行為」
(厚生労働省作成研修ツール「令和5年12月13日から旅館業法が変わります!」5頁引用)
 手段として、対面や電話、メールが挙げられていますが、これだけに限りません。

(7)具体例➆

 「宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、要求の内容の妥当性(ア)に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が不相当なもの(イ)を繰り返し行う行為」
(厚生労働省作成研修ツール「令和5年12月13日から旅館業法が変わります!」5頁引用)
 カスタマーハラスメントの判断基準と同様に、以下の(ア)(イ)のいずれかに該当すれば、特定要求行為に該当し得ます。

【カスタマーハラスメントの判断基準】

(ア)要求の内容が妥当でなければアウト!
(イ)要求を実現するための手段・態様が不相当なものであればアウト!

 

6 まとめ

 以上が、令和5年改正旅館業法の概要です。同法改正に関する対応やカスタマーハラスメントについてお悩みの旅館業を営む経営者様は、ぜひこの分野に詳しい弁護士にお尋ねください。

 

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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