コンプガチャの禁止とその対策
目次
1 はじめに
平成23年半ば以降、オンラインゲームにおいて、有料ガチャによって絵柄のついたアイテム等を販売し、異なる絵柄の特定の組み合わせを揃えた利用者に対し、特別のアイテム等を提供するイベント(いわゆる「コンプガチャ」)が流行しました。
しかし、消費者庁は、翌平成24年、コンプガチャがいわゆる「カード合わせ」(懸賞景品制限告示第5項)に該当するとして、コンプガチャは景品表示法上全面的に禁止されることを明らかにしました。
そのため、現在では、純粋なコンプガチャを行っている事業者はいないと思われます。しかし、近年でも、コンプガチャに類する仕組みがカード合わせに該当するとして、行政指導を受けている事例が存在します。
そこで、本記事では、まずはコンプガチャがカード合わせとして禁止される理由を解説し、次にコンプガチャに類する仕組みがカード合わせに該当するとして行政指導を受けた近年の事例を紹介することで、景品表示法違反とならないための留意点を解説します。
2 コンプガチャが禁止される理由
(1)カード合わせとは
カード合わせとは、
①二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組み合わせを提示させる方法を用いた |
のことです。
懸賞制限告示第5項により、カード合わせは全面的に禁止されています。なぜなら、このような方法の懸賞は、それ自体に欺瞞性が強く、また、子ども向けの商品に用いられることが多く、子どもの射幸心を煽る度合いが著しく強いからです。
以下では、コンプガチャが上記①~③を満たすか検討します。便宜上、③から検討します。
(2)③景品類の提供
ア 景品類とは
景品表示法における「景品類」とは、Ⓐ顧客を誘引するための手段として(顧客誘引性)、Ⓑ事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する(取引付随性)、Ⓒ物品、金銭その他の経済上の利益(経済上の利益)のことを指します。
イ Ⓐ顧客誘引性、Ⓑ取引付随性
コンプガチャによって提供されるアイテム等は、有料ガチャで得られた異なる種類の複数のアイテム等を揃えることを条件にして提供されます。したがって、コンプガチャで提供されるアイテム等は、有料ガチャという取引に顧客を誘引するための手段といえ、Ⓐ顧客誘引性が認められます。また、コンプガチャで提供されるアイテム等は、有料ガチャという取引に付随して提供されるものといえるので、Ⓑ取引付随性も認められます。
ウ Ⓒ経済上の利益
提供を受ける者の側からみて、通常、経済的対価を支払って取得すると認められるものは、Ⓒ経済上の利益に含まれます。
コンプガチャで提供されるアイテム等は、その獲得に相当の費用を掛けるという消費者の実態を踏まえると、提供を受ける者の側から見て、金銭を支払ってでも手に入れるだけの意味があるものだと認められるので、「通常、経済的対価を支払って取得すると認められるもの」として、Ⓒ経済上の利益に該当します。
エ 小括
以上の通り、Ⓐ~Ⓒをすべて満たすので、コンプガチャで提供されるアイテム等は、景品表示法における「景品類」にあたります。
(3)①二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組み合わせを提示させる方法を用いた
ここで言う「符票」は、紙片に限られませんので、端末の画面上に表されるアイテム等も、「符票」に該当します。コンプガチャは、こうした異なる種類のアイテム等を組み合わせるので、①「二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組み合わせを提示させる方法を用いた」ものに該当するのです。
(4)②懸賞による
「懸賞」とは、偶然性を利用する方法や、特定の行為の優劣や正誤による方法のことを言います。コンプガチャでは、有料ガチャという偶然性を利用する方法によって、コンプリートするアイテムを集めることになるので、②「懸賞による」ものに該当するのです。
(5)小括
以上の通り、カード合わせの要件である①~③をすべて満たすため、コンプガチャがカード合わせに該当するとして、全面的に禁止されることになったのです。
3 コンプガチャに類する仕組みについての行政指導例
コンプガチャの禁止を受け、現在では、純粋なコンプガチャを提供行っている事業者はいないと思われます。しかし、コンプガチャに類する仕組みが、「カード合わせ」に該当するとして行政指導を受けた例は、近年でも存在します。たとえば、以下のような事例があります。
【令和3年度の行政指導】 |
【平成27年度の行政指導】 「異なる●種類のレアアイテムを揃えた者に対し、ゲームを有利に進めていくことが可能となる特定のアイテムを提供する」というオンラインゲーム内の企画 |
4 対策
(1)カード合わせへの該当を回避する方法
上記①~③を満たすと、カード合わせに該当してしまうのですから、①~③のうちどれかを満たさないような企画設計にしておくことで、カード合わせへの該当を回避することができます。
たとえば、コンプリートするアイテム等を、ガチャによって収集するのではなく、選択して購入できる設計にすれば、②「懸賞による」ことにはなりませんので、カード合わせへの該当を回避できます。
また、有料ガチャの景品を、1点券、2点券、5点券というように点数制にし、合計点が一定の点数に達すると、点数に応じてレアアイテムをもらえるという企画であれば、カード合わせに該当しません。なぜなら、1点券という同じアイテムを複数組み合わせることでもレアアイテムを入手することができるので、①「異なる種類の符票の特定の組み合わせを提示させる方法を用いた」ことにはならないからです。
(2)まとめ
オンラインゲームの利用者にはSNSの熱心なユーザーが多いこともあり、オンラインゲームは、ひとたび法律違反があると、炎上が発生しやすい分野です。オンラインゲームの景品企画についてのご相談は、ぜひ一度、この分野に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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