景品表示法における管理措置指針の概要と社内体制整備について
目次
1 はじめに
景品表示法は、事業者に対し、景品類の提供や表示に関する事項を適切に管理するために必要な体制整備その他の措置を講じることを義務付けています。そして、内閣総理大臣は、事業者が講ずべき措置について、必要な指針を定めることとされています。この指針を、管理措置指針といいます。
この記事では、景品表示法における管理措置指針について解説します。
2 管理措置指針の基本的な考え方
(1)必要な措置が求められる事業者
管理措置指針において、措置が求められる事業者は、景品表示法の違反主体となりうる事業者です。
(2)事業者の規模や業態等による相違について
各事業者は、その規模や業態、取り扱う商品又は役務の内容、取引の態様等に応じて、不当表示等を未然に防止するために必要な措置を講じることとなります。したがって、各事業者によって、必要な措置の内容は異なることとなります。
規模について言うと、事業者の組織が大規模かつ複雑になれば、不当表示等を未然に防止するために、より多くの措置が必要となる場合があります。他方、小規模企業者やその他の中小企業者においては、その規模や業態等に応じて、不当表示等を未然に防止するために十分な措置を講じていれば、必ずしも大企業と同等の措置が求められる訳ではありません。
3 事業者が講ずべき7つの管理措置の内容
(1)景品表示法の考え方の周知・啓発
事業者は、不当表示等の防止のため、景品表示法の考え方について、表示等に関係している関係従業員等に対して、その職務に応じた周知・啓発を行わなければなりません。ここでいう関係従業員には、表示等の内容を決定管理する役員及び従業員が含まれるのはもちろんですが、決定された内容に基づき一般消費者に対する説明(商品説明、セールストーク)を行うことが想定される者も含みます。
また、事業者が表示等の作成を他の事業者に委ねる場合、当該他の事業者に対しても、その業務に応じた周知・啓発を行うことが求められます。
(2)法令遵守の方針等の明確化
事業者は、不当表示等の防止のため、自社の景品表示法を含む法令遵守の方針や法令遵守のためにとるべき手順等を明確化することが求められます。
もっとも、例えば、個人事業主等の小規模企業者やその他の中小企業者においては、その規模等に応じて、社内規程等を明文化しなくても法令遵守の方針等を個々の従業員(従業員を雇用していない代表者一人の事業者にあっては当該代表者)が認識することで足りる場合もあります。
(3)表示等に関する情報の確認
事業者は、景品類を提供しようとする場合、違法とならない景品類の価額の最高額・総額・種類を確認しなければなりません。また、事業者は、商品又は役務の長所や要点を一般消費者に訴求するために、その内容等について積極的に表示を行う場合には、当該表示の根拠となる情報を確認することが求められます。
この「確認」がなされたといえるかどうかは、表示等の内容、その検証の容易性、当該事業者が払った注意の内容・方法等によって個別具体的に判断されます。例えば、小売業者が商品の内容等について積極的に表示を行う場合には、直接の仕入れ先に対する確認や、商品自体の表示の確認など、事業者が当然把握し得る範囲の情報を表示内容等に応じて適切に確認することは通常求められます。しかし、全ての場合について、商品の流通過程を遡って調査を行うことや商品の鑑定・検査等を行うことまでを求められるものではありません。
また、事業者がアフィリエイトサイトを用いた広告をする場合には、そのアフィリエイトサイトの表示内容の根拠を確認することが求められます。
(4)表示等に関する情報の共有
事業者は、その規模等に応じ、上記(3)のとおり確認した情報を、当該表示等に関係する各組織部門や他の事業者が必要に応じて共有し確認できるようにすることが求められます。不当表示等は、部門間や事業者間での連携不足が原因で生じることも多いため、そうならないための対策を講じる必要があります。
(5)表示等を管理するための担当者等を定めること
事業者は、表示等に関する事項を適正に管理するため、表示等管理担当者をあらかじめ定める必要があります。なお、表示等管理担当者は、専任の担当者である必要はありません。
そして、表示等管理担当者を定めるに際しては、以下の事項を満たすことが求められます。
①表示等管理担当者が自社の表示等に関して監視・監督権限を有していること。 |
(6)表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置を採ること
事業者は、上記(3)のとおり確認した表示等に関する情報を、表示等の対象となる商品又は役務が一般消費者に供給され得ると合理的に考えられる期間、事後的に確認できるようにするための措置を採ることが求められます。資料の保管方法は、紙媒体に限られず、電子媒体による保管でも構いません。
(7)不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応
事業者は、特定の商品又は役務に景品表示法違反又はそのおそれがある事案が発生した場合、その事案に対処するため、次の措置を講じることが求められます。
①当該事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。 ②上記①における事実確認に即して、不当表示等による一般消費者の誤認排除を迅速かつ適正に行うこと。 ③再発防止に向けた措置を講じること。 |
②の不当表示等による一般消費者の誤認の排除に当たっては、不当表示等を単に是正するだけでは、既に不当に誘引された一般消費者の誤認がなくなったことにはならずに、当該商品又は役務に不当表示等があった事実を一般消費者に認知させるなどの措置が求められる場合があります。
4 管理措置指針と「相当の注意を怠った者でないと認められるとき」
事業者は、優良誤認表示又は有利誤認表示を行った場合、消費者庁長官から課徴金納付命令を受けます。ただし、事業者が、優良誤認表示又は有利誤認表示に該当することを知らず、かつ知らないことにつき相当の注意を怠った者でないと認められるときには、課徴金納付命令は出されません。
そして、事業者が、管理措置指針に沿うような措置を講じていた場合には、「相当な注意を怠った者でない」と認められ、課徴金納付命令が出されない可能性が高いと考えられます。
5 管理措置指針に関する行政指導
(1)指導及び助言
消費者庁長官は、事業者が講ずべき措置に関して適切かつ有効な実施を確保するために必要があると認めるときは、当該事業者に対し、必要な指導及び助言をすることができます。この指導及び助言は、違反行為が実際になくても行うことができます。なお、この指導及び助言に従わなかったとしても、そのことが公表されることはありません。
(2)勧告及び公表
消費者庁長官は、事業者が講ずべき措置を正当な理由なく講じていないと認めるときは、当該事業者に対し、必要な措置を講ずべき旨の勧告をすることができます。ここでいう正当な理由は、もっぱら一般消費者の利益の保護の見地から判断され、事業者の事業経営上または取引上の観点だけから見て合理性または必要性が認められても、それだけでは正当な理由があることにはなりません。そのため、正当な理由があると認められるのは、事業者が表示の根拠となる資料を保管していたが、それが災害等の不可抗力で失われた場合等に限られると考えられます。
また、消費者庁長官は、当該事業者が勧告に従わない場合、その旨を公表することができます。
6 最後に
「管理措置指針に沿った社内体制を整備したい」、「消費者庁から勧告を受けてしまった」という事業者の方は、ぜひこの分野に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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