期間限定表示に関する景表法上の留意点
目次
1 はじめに
「今月限り●%オフ!」、「〇日までポイント●倍!」、「今だけ●●プレゼント!」のように、期間を限定したうえで、通常よりも安い価格であることや、通常以上のポイントが付与されること、通常ではもらえないプレゼントがもらえること等を訴求する表示をよく見かけます。こうした表示は、「期間限定表示」と呼ばれます。
期間限定表示は、「今だけお得」感を一般消費者に感じさせるという点に顧客誘引効果があります。では、このような期間限定表示を行う場合、景品表示法上注意すべき点はあるでしょうか。
2 期間限定表示が景品表示法違反になる場合
期間限定表示は、上述の通り、一般消費者に「今だけお得」と感じさせるいう点に顧客誘引効果があります。そのため、実際には「今以外もお得」であるにもかかわらず、「今だけお得」であるかのような表示をすることは、当該商品等の取引条件について、一般消費者に実際よりも有利であると誤認させていることになります。つまり、期間限定表示をしながら実際には期間限定ではない場合、その期間に関する表示が、有利誤認表示として景品表示法違反になり得ます。
3 期間限定表示の景品表示法違反事例
(1)株式会社キャリアカレッジジャパンの事例
通信講座の受講料について、「1万円割引 6月1日→6月30日まで」等と記載することにより、あたかも所定の期間に受講申込みをした場合のみ1万円引きになるかのような期間限定表示をしていました。しかし、実際には、平成22年5月25日から平成26年7月31日までのほとんどの期間において、1万円引きのキャンペーンを実施していました。 |
この期間限定表示が、有利誤認表示として景品表示法違反にあたるとして、措置命令が出されました。これは、消費者庁が初めて期間限定表示について措置命令を行った事案とされています。この事案を皮切りに、期間限定表示に対しては、継続的に措置命令が出されています。
(2)フィリップ・モリス・ジャパン合同会社に対する措置命令
商品Aについて、「今ならアプリ・Webで会員登録すれば4,600円off」、「会員登録キャンペーン期間:2015/10/31まで」等と記載し、あたかも当該期間に商品Aの購入に伴い会員登録を行った場合に限り、当該値引きが適用されるかのような期間限定表示をしていました。しかし、実際には、平成27年9月1日から平成29年9月30日までほとんどすべての期間において、商品Aについて当該値引きが適用されていました。 |
この期間限定表示が、有利誤認表示として景品表示法違反にあたるとして、措置命令が出されました。
4 キャンペーン内容のマイナーチェンジ
(1)キャンペーン内容を少し変えればよい?
では、期間限定表示が有利誤認表示に該当するのを回避するために、キャンペーン内容を期間ごとにマイナーチェンジするのはどうでしょうか。たとえば、4月には「今だけ!50%オフキャンペーン」という期間限定表示をし、5月には「今だけ!49%オフキャンペーン」という期間限定表示をする場合です。これだと、たしかに、50%オフキャンペーンは4月にしか行っていませんし、49%オフキャンペーンは5月にしか行っていませんので、嘘はついておらず、有利誤認表示として景品表示法違反になることはないかのようにも思えます。
(2)一般消費者の認識
しかし、景品表示法違反に該当するかどうかは、表示全体から一般消費者が受ける認識によって判断されます。
50%オフと49%オフの差は、いずれも大幅な値引きであって、一般消費者にとってその1%の差が大きな意味を持つとは思えません。一般消費者は、4月に「今だけ!50%オフキャンペーン」という期間限定表示を見た場合、「4月だけ50%オフで、しばらくはこれと同程度の割引率で購入することはできないのだろう」という認識を受けます。そうであるにもかかわらず、5月にも50%と同程度の割引率(49%オフ)で商品を購入できるわけです。つまり、4月の期間限定表示から一般消費者が受けた認識と実際とが異なることになるため、有利誤認表示として、景品表示法違反になる可能性が高いといえます。
(3)参考となる違反事例
ア 株式会社セドナエンタープライズに対する措置命令
株式会社セドナエンタープライズは、例えば以下のように、当日限定のキャンペーンを、日替わりで表示していました。
・5月10日に、「限定5/10(月)23:59まで ケア4点セット13,728円相当プレゼント+最大1,000ポイント進呈」と表示。 ・5月11日に、「限定5/11(火)23:59まで ケア4点セット14,728円相当プレゼント+最大1,000ポイント進呈」と表示。 ・5月12日に、「限定5/12(水)23:59まで ケア4点セット13,728円相当プレゼント+最大1,000ポイント進呈」と表示。 ・5月13日に、「限定5/13(木)23:59まで ケア4点セット14,728円相当プレゼント+最大1,000ポイント進呈」と表示。 |
各日のキャンペーン内容は、ケア4点セットと1,000ポイントのプレゼントです。ケア4点セットの合計額と組合せは微妙に変更されていました。しかし、ケア4点セットのうち2点は常に同内容で、合計額も1,000円(1割未満)しか変わりません。そうすると、一般消費者としては、同一のキャンペーンが継続していると認識します。そのため、これらの表示が、キャンペーン期間に関する有利誤認表示にあたるとして、措置命令が出されました。
イ フィリップ・モリス・ジャパン合同会社に対する措置命令(前掲)
先ほどご紹介したフィリップ・モリス・ジャパン合同会社の事例でも、実は、期間中に値引き額が変更されていました。しかし、消費者庁は、値引き額の変更前後で別のキャンペーンが行われたとは認定せず、値引きの前後で同一のキャンペーンが継続されていたと認定しました。
(4)まとめ
このように、キャンペーン内容のマイナーチェンジは、期間限定表示が有利誤認表示に該当するのを回避するための有効な策とはいえません。実質的にも、キャンペーン内容を1円や1%だけ変更すれば景品表示法違反を免れられるという状況を、消費者庁が放置するとは思えません。
事業者としては、あるキャンペーンの期間終了後に別のキャンペーンを実施する場合は、一般消費者に同一のキャンペーンだと認識されないよう、キャンペーン内容を大きく変更する必要があります。
5 最後に
訴求力の高い期間限定表示ですが、有利誤認表示に該当するような期間限定表示を行ってしまうと、措置命令を受けることになり、事業者の信用が失墜します。現に、先ほどご紹介した株式会社セドナエンタープライズは、上述の措置命令を受けた後、破産を余儀なくされています。
「期間限定キャンペーンが景品表示法違反にならないか心配だ」という事業者の方は、ぜひ一度、広告法務分野に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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