ステルスマーケティング規制の概要(令和5年10月1日施行)

1 はじめに

 令和5年10月1日から、ステマ規制が施行されます。日本では、これまでステマに対する規制が存在しなかったため、広告業界におけるステマ規制の影響は大きいと考えられます。この記事では、ステマ規制の内容を解説します。

2 ステマ(ステルスマーケティング)とは

 ステマ(ステルスマーケティング)とは、広告であることを隠した広告のことです。

【例】
・事業者自身が、一般消費者を装って、Googleの口コミに高評価と付ける。
・インフルエンサーが、スポンサーからお金をもらっているにも関わらず、そのことを隠して自主的な投稿であるかのようにして、そのスポンサーの商品のいいところを言う。

 

3 なぜステマを規制するのか?

 では、なぜステマを規制する必要があるのでしょうか。
 通常の広告の場合、一般消費者は、その広告を広告であると認識しています。そのため、一般消費者は、広告の表示内容に、ある程度の誇張・誇大が含まれることはあり得ると考え、商品を選択する上でそのことを考慮に入れることができます。
 一方、ステマの場合はどうでしょうか。ステマの場合、一般消費者は、その広告(ステマ)を広告であると認識しておらず、第三者の表示だと誤認しています。そのため、一般消費者は、その表示内容にある程度の誇張・誇大が含まれることはあり得るとは考えません。その表示内容をそのまま受け取ってしまうのです。その結果、一般消費者の自主的かつ合理的な商品選択が妨げられてしまいます。これが、ステマの問題点です。
 そして近年、消費生活のデジタル化の進展に伴い、特にSNS上の広告において、消費者に近い立場であるインフルエンサー等によるステマの問題が顕在化するようになりました。諸外国ではステマ規制がすでに導入されていたこともあり、日本でもステマ規制が導入されることになったのです。

4 景品表示法におけるステマ規制の位置づけ

 日本において、商品の表示全般を規制しているのは、景品表示法という法律です。今回導入されたステマ規制は、景品表示法においてどのように位置づけられているのでしょうか。
 景品表示法には、以下の通り大きく3種類の不当表示規制があります(同法5条)。

・優良誤認表示(1号)
・有利誤認表示(2号)
・指定告示に基づく表示(3号)

 そして、3号の指定告示として、これまで6つの告示が定められていました。具体的には、以下の通りです。

・無果汁の清涼飲料水等についての表示
・商品の原産国に関する不当な表示
・消費者信用の融資費用に関する不当な表示
・不動産のおとり広告に関する表示
・おとり広告に関する表示
・有料老人ホームに関する不当な表示

 今回、第7の指定告示として、ステマ告示が制定されました。これがステマ規制です。

5 ステマ規制の内容

(1)ステマ告示で規制されるステマ

 ステマ告示が規制するステマの要件は、以下の2つです。

Ⓐ事業者が自己の供給する商品または役務の取引について行う表示(事業者の表示)であって
Ⓑ一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

 その詳細な内容は、ステマ運用基準で説明されているため、以下ではステマ運用基準をもとに説明します。

(2)Ⓐ事業者の表示

ア 事業者の表示とは

 事業者の表示に該当するのは、「事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合」、すなわち、「客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合」です。
 以下では、事業者が自ら表示を行う場合と、事業者が第三者に表示をさせる場合とに分けて検討します。

イ 事業者が自ら行う表示

 たとえば、事業者自身のSNSアカウントで行う表示が「事業者の表示」に該当するのは当然です。では、事業者の従業員等がSNSアカウントで行う表示は、「事業者の表示」に該当するのでしょうか。例えば、以下のようなケースです。

【事例】
①弊社販売部門の甲部長が、X(Twitter)の甲個人のアカウントで、弊社の缶ビールの写真とともに、「これ美味いわ。」と投稿していました。大丈夫でしょうか?
②弊社経理部門の乙が、乙個人のアカウントで①の投稿をしていた場合はどうでしょうか。なお、乙は、弊社缶ビールの販売や開発に一切関与していません。

 ステマ運用基準によると、「事業者と一定の関係性を有し、事業者と一体と認められる従業員や、事業者の子会社等の従業員が行った事業者の商品……に関する表示」については、「従業員の事業者内における地位、立場、権限、担当業務、表示目的等の実態を踏まえて、事業者が表示内容の決定に関与したかについて総合的に考慮し判断する」とされています。
 そして、該当する例、該当しない例として、それぞれ以下のように整理されています。

事業者の表示に該当する例 事業者の表示に該当しない例
商品の販売を促進することが必要とされる地位や立場にある者(例えば、販売や開発に係る役員、管理職、担当チームの一員等)が、当該商品の販売を促進するための表示 当該商品の販売を促進することが必要とされる地位や立場にはない者が、当該商品に関して一般消費者でも知りうる情報を使うなどし、当該商品の販売を促進する目的ではない表示を行う場合

 これによると、先ほどの事例①は、事業者の表示に該当することになります。一方、先ほどの事例②は、事業者の表示に該当しません。

ウ 事業者が第三者をして行わせる表示

 事業者が第三者に表示をさせた場合、それは「事業者の表示」に該当するのでしょうか。ステマ運用基準では、「客観的な状況に基づき、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合」には、事業者が表示内容の決定に関与したといえ、事業者の表示には当たるとされています。そして、その判断に際しては、以下の点を踏まえて総合的に判断されます。

・表示内容についての情報のやり取りの有無、内容
・表示内容に関する依頼・指示の有無
・表示内容に対する対価提供の有無、内容、主な提供理由
・対価提供に関する過去及び今後の関係性、その継続性

 たとえば、事業者が第三者に対して自らの商品を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合は、基本的に「事業者の表示」には該当しません。ただし、無償で提供した商品が高額な場合、表示内容について黙示的な指示があったと判断され、「事業者の表示」に該当する可能性があります。
 また、新聞・雑誌発行、放送等を業とする媒体事業者(インターネット上で営む者も含む。)が自主的な意思で企画、編集、制作した表示については、通常、事業者が表示内容の決定に関与したといえないことから、事業者の表示とはなりません。ただし、媒体事業者の表示であっても、事業者が表示内容の決定に関与したとされる場合は、事業者の表示となります。この判断の際には、正常な商慣習を超えた取材活動等である実態(対価の多寡に限らず、これまでの取引実態と比較して、事業者が媒体事業者に対して通常考えられる範囲の取材協力費を大きく超えるような金銭等の提供、通常考えられる範囲を超えた謝礼の支払等が行われる場合)にあるかどうかが考慮要素となります。

(3)Ⓑ一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

 一般消費者にとって事業者の表示であることが、㋐明瞭となっている場合、又は㋑社会通念上明らかである場合は、Ⓑに該当しないので、ステマ規制に違反しません。以下、㋐と㋑に分けて検討します。

ア ㋐事業者の表示であることが明瞭となっている場合

 事業者の表示であることが明瞭となっているかどうかは、第三者の表示であると一般消費者に誤認されないかどうかを、表示内容全体から判断することになります。具体的には、以下のような場合は、事業者の表示であることが明瞭になっているとはいえず、ステマ規制に違反します。

・事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイトサイトに当該事業者の表示であることを記載していない場合。
(ただし、複数の商品又は役務の価格情報や内容等を比較するアフィリエイトサイトにおいては、アフィリエイトサイト自体が一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっている限り、一般消費者が第三者の表示であると誤認することはないことから、掲載されている全ての商品又は役務について、それぞれ当該事業者の表示であることを記載する必要はないとされています。)
・文章の冒頭に「広告」と記載しているにもかかわらず、文中に「これは第三者として感想を記載しています。」と事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合。
・動画において事業者の表示である旨の表示を行う際に、一般消費者が認識できないほど短い時間において当該事業者の表示であることを示す場合も、事業者の表示であることが明瞭になっていないので、アウトです。
・一般消費者が事業者の表示であることを認識できない文言を使用する場合。
(具体的には、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」等の文言はOKです。一方、「AD」、「アンバサダー」等は、一般消費者にとって分かりやすい文言ではないので、避けたほうが無難でしょう。)

 

イ ㋑事業者の表示であることが社会通念上明らかな場合

 具体的に、以下のような場合は、事業者の表示であることが社会通念上明らかであるといえます。

放送におけるCMのように広告と番組が切り離されている表示を行う場合。
事業者の協力を得て制作される番組放送や映画等において当該事業者の名称等をエンドロール等を通じて表示を行う場合。
新聞紙の広告欄のように「広告」等と記載されている表示を行う場合。
商品又は役務の紹介自体が目的である雑誌その他の出版物における表示を行う場合。
事業者自身のSNSのアカウントを通じた表示を行う場合。
社会的な立場・職業等(例えば、観光大使等)から、一般消費者にとって事業者の依頼を受けて当該事業者の表示を行うことが社会通念上明らかな者を通じて、当該事業者が表示を行う場合。
事業者自身のウェブサイト(期間限定で一般消費者に表示されるウェブサイトも含む。)における表示を行う場合。

 ただし、事業者自身のウェブサイトであっても、ウェブサイトを構成する特定のページにおいて当該事業者の表示ではないと一般消費者に誤認されるおそれがあるような場合には、第三者の表示は、当該事業者の表示であることを明瞭に表示しなければなりません。
 たとえば、媒体上で、専門家や一般消費者等の第三者の客観的な意見として表示をしているように見えるものの、実際には、事業者が当該第三者に依頼・指示をして特定の内容の表示をさせた場合は、「当社から○○先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。」といった表示をすることが考えられます。

6 ステマ規制に違反した場合

 ステマ規制に違反した場合、消費者庁や都道府県から、措置命令を受ける可能性があります。措置命令を受けた場合、消費者庁等のウェブサイトで公表され、広く報道されてしまいます。そのため、会社の信用を大きく毀損する可能性があります。
 ただし、課徴金の対象ではありません

7 施行日

 ステマ規制は、令和5年10月1日から施行されます。
 アフィリエイト広告等、事業者が施行日前に第三者に行わせた表示であっても、その後、表示の作成者である第三者と連絡がつかず、事業者が表示を管理できない状態にあるなど施行日後において事業者の表示と判断される実態を欠いている場合には、本告示の対象となることはありません。
 しかし、事業者が施行日前に第三者に行わせた表示であっても、施行日後も、当該表示の作成者と連絡がつくなど事業者が表示を管理できる状態にあるなど施行日後において事業者の表示であると判断される実態にある場合は、施行日後の表示が本告示の対象となる可能性があります

8 今後のポイント

 第三者(インフルエンサー、アフィリエイター等)と契約する場合、「PR」等の表示を行うことを義務付けるようにした方がよいでしょう。また、その表示を怠った場合は、報酬や手数料を支払わない又は返還請求する旨も規定しておきましょう。
 第三者(インフルエンサー、アフィリエイター等)と契約した後も、当該第三者に任せっきりではなく、投稿内容を確認するようにしましょう。投稿前に確認できるのがベストですが、それが難しい場合でも、投稿後速やかに確認するようにしましょう。そのための体制・業務フローを構築しておくことが重要です。そして、ステマ規制に違反する投稿を発見した場合は、速やかに、当該第三者に対してその投稿を削除・訂正するよう求めましょう。
 また、事業者自身や事業者の従業員のSNSアカウント等で広告を行う場合は、広告であることが分かりやすい文言を、分かりやすい方法で表示しましょう。たとえば、長時間の動画の冒頭だけに「広告」の表示をしても、冒頭部分をスキップする視聴者も多いので、不十分と判断される可能性があります。

9 まとめ

 ステマ規制についてお困りの事業者の方は、ぜひ景品表示法・広告規制に詳しい弁護士にご相談ください。

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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