ライブイベントやコンサートの座席に関する不当表示とその予防策

1 はじめに

 令和5年2月15日、消費者庁は、コンサートの提供事業者3社に対して、この3社が共同して提供したコンサートに関する表示について、景品表示法上の優良誤認表示に該当するとして、措置命令を行いました。
 この措置命令は、対象となった表示が、人気ロックバンド「L’Arc~en~Ciel(ラルク アン シエル)」の30周年記念ライブに関するものであったこともあって、広く報道されました。しかし、法的に重要なのは、この事案が、コンサートの座席に関する景品表示法違反で措置命令が出された日本初の事例だということです。そこで、本記事では、この事案の詳細を解説したうえで、コンサートの座席に関する表示が景品表示法違反とならないための予防策について検討します。

 

2 事案の解説

(1)事案の概要

 事業者は、オフィシャルウェブサイトにおいて、「会場の座席レイアウトはこちら」と記載して、以下の図を掲載していました(図は消費者庁ホームページから引用)。

企業

 これによって、事業者は、あたかも、SS席を購入すれば1階アリーナ席、S席を購入すれば1階スタンド席、A席を購入すればバルコニー席又は2階スタンド席に座ってライブを鑑賞できるかのような表示をしていました。
 しかし、実際には、SS席を購入しても1階スタンド席に座る場合がありました。また、S席を購入しても主に1階スタンド席後方にしか座れず、かつ、バルコニー席か2階スタンド席後方に座る場合がありました。さらに、A席を購入してもバルコニー席には座れず、かつ、主に2階スタンド席後方にしか座れませんでした。

表示 実際
SS席 1階アリーナ席 1階アリーナ席
1階スタンド席
S席 1階スタンド席 (主に)1階スタンド席後方
バルコニー席
2階スタンド席
A席 バルコニー席
2階スタンド席
(主に)2階スタンド席後方
※バルコニー席には座れず。

 消費者庁は、このような表示が、実際よりも著しく優良であると誤認させる表示(景品表示法上の優良誤認表示)に該当するとして、事業者に対して措置命令を出しました。

(2)打消し表示について

ア 注意書きについて

 事業者は、先ほどの図の下方に、「座席図はイメージとなります。」「ステージや座席レイアウトは予告なく変更になる場合がございますので、あらかじめ了承ください。」という注意書きを記載していました。しかし、それでも景品表示法違反であると判断されています。このような注意書きは、景品表示法違反の予防策にならないのでしょうか。

イ 打消し表示の留意点

 このような例外や条件などを記載した注意書きのことを、「打消し表示」と呼びます。打消し表示は、適切な「方法」「内容」で行う必要があります。すなわち、事業者が打消し表示を行う場合、一般消費者が見落とさないような方法で、かつ一般消費者が内容を正しく理解できるような文言で行う必要があります。

ウ 適切な打消し表示といえるか?

 この事案で行われた打消し表示は、先ほどの図をご覧いただければわかる通り、文字のサイズがかなり小さいです。また、文字の色はグレーで、決して目立つ色合いとは言えません。そのため、この打消し表示を見落としてしまう一般消費者も相当数いたと考えられます。
 また、会場レイアウトの図では、どのエリアにどの種類の席があるかが明確に区分されています。そのため、一般消費者が「ステージや座席レイアウトは予告なく変更になる場合がございます」という注意書きを見ても、アリーナ席であるはずのSS席が1階スタンド席に変更になるというようなことは想定しづらいでしょう。
 以上の点を踏まえ、消費者庁は、この事案の注意書きが、方法的にも内容的にも適切な打消し表示ではなかったと判断したのだと考えられます。

 

3 コンサートの座席に関する表示が景品表示法違反とならないための予防策

 まずは、どの位置に何席設置できるのかを念入りにシミュレーションしたうえで座席チケットの販売を行うのが大前提です。チケット販売後に座席に変更が生じなければ、景品表示法違反にもなり得ません。
 しかし、そうは言っても、実際に機材を置いてみないと分からないこと等もあると思います。チケット販売後に座席に変更が生じる可能性があるのであれば、その旨を一般消費者にもはっきりとわかる方法と内容で表示しておくことが重要です。
 そこで参考になるのが、「注釈付きチケット(注釈付き指定席)」です。注釈付きチケットとは、機材等の関係でステージや演出の一部が見えづらい可能性がある席のチケットのことで、ライブチケット等で広く用いられているものです。注釈付きチケットは、商品であるチケットの名称自体に「注釈」と記載しておくことで、一般消費者に対して、通常の座席のチケットではないことを明らかにしています。そして、一般消費者が注釈の内容を確認した上で購入してくれるので、表示と実際との乖離が生じず、景品表示法違反にならないのです。
 注釈付きチケットのように、販売後に座席が変更になる可能性のある分のチケットは、名称自体を他のチケットと区分しておくことで、景品表示法違反を防ぐことができます。

 

4 まとめ

 以上の通り、ライブイベントやコンサートの座席に関する表示も、景品表示法違反になり得ます。今回ご紹介した事案で、チケット販売会社だけでなく、企画会社やマネジメント会社に対しても措置命令が出されている点も見逃せません。
 また、仮に景品表示法違反にはならなかったとしても、ライブイベントやコンサートは、参加者が熾烈なチケット争奪戦を制して参加している場合が多く、また期待度も高いため、座席が変更になる等のトラブルがあれば、クレームSNSでの炎上にもつながりやすいです。
 ライブイベントやコンサートの座席に関する表示に関するご相談は、ぜひこの分野に詳しい弁護士にご相談ください。

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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