中小企業の自社株式の買い取り
目次
1 はじめに
自社株式の買取とは、株式会社が発行した株式を株主から取得することです。自社株式の買取は、次のような目的で行われます。
2 自社株式の買取の目的
中小企業が自社株式を買い取る目的は様々ですが、事業承継を円滑に進める、相続等で分散する株式を取得して会社の経営権を強化する等のために行われることが多いと言えます。株主総会で会社の意思を決定する場合、普通決議であっても、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数の賛成が必要であり、容易ではありません。この点、自社株式は議決権行使ができないので、自社株式の買取により、経営者の議決権割合を高めることができます。
3 自社株式の買取の方法
(1) 合意による買取
ア 株主全員に対して買取の勧誘を行う場合
会社が株主との合意により自社株式を取得する場合、株主総会の決議によって、①取得する株式の数、②株式の取得と引き換えに交付する金銭等の内容及び総額、③株式を取得することができる期間を定める必要があります(会社法156条1項、2項)。
そのうえで、実際に自社株式を取得する際は、①取得する株式の数、②株式1株を取得するのと引き換えに交付する金銭等の内容及び数もしくは額またはこれらの算定方法、③株式を取得するのと引き換えに交付する金銭等の総額、④株式の譲渡しの申し込みの期日を定め、株主に対し、当該事項を通知します(同法157条1項、158条)。
通知を受けた株主は、譲渡しの申し込みをしようとするときは、会社に対し、その申し込みに係る株式の種類・数を明らかにし、会社は、④の期日に、株式の譲受を承諾したものとみなされます(同法159条)。
最後に、株主名簿の名義書換は、会社が自ら行います(同法132条1項2号)。
イ 特定の株主から取得する場合
会社が特定の株主から取得する場合、上記と同じく、①取得する株式の数、②株式の取得と引き換えに交付する金銭等の内容及び総額、③株式を取得することができる期間を定めることに加えて、④その株主の氏名も決議する必要があります(同法160条1項)。この決議は、特別決議が必要です(同法309条2項2号)。
また、他の株主は、自分の持つ株式も買い取ることを株主総会の議案に追加することを請求することができます(同法160条3項)。
実際に取得するに際しては、株主全員に対して取得の勧誘をする場合と同様に、会社は、①取得する株式の数、②株式1株を取得するのと引き換えに交付する金銭等の内容及び数もしくは額またはこれらの算定方法、③株式を取得するのと引き換えに交付する金銭等の総額、④株式の譲渡しの申し込みの期日を定め、その特定の株主に対し、当該事項を通知します(同法160条5項)。
株主全員に対して取得の勧誘をする場合と同様、通知を受けた株主は、譲渡しの申し込みをしようとするときは、会社に対し、その申し込みに係る株式の種類・数を明らかにし、会社は、④の期日に、株式の譲受を承諾したものとみなされます(同法159条)。会社が自ら名義書換を行うことも同様です。
(2) 合意ができない場合
ア 特別支配株主の株式等売渡請求
90%以上の株式を保有している特別支配株主は、株式等売渡請求制度を用いることで、少数株主から強制的に株式を買い取ることができます(同法179条1項)。
この制度による買取の手順は、次のとおりです。
①特別支配株主が、株式の取得日、買取代金の額等を決めて、会社に株式売渡請求をすることを通知する(同法179条の2)。
②株式等売渡請求について、会社の承認を得る(同法179条の3)。
③会社が少数株主に対して、株式の取得日の20日前までに、特別支配株主から売渡請求がされ、会社が承認したことを通知する(同法179条の4第1項)。
④会社に通知された「取得日」に株式が少数株主から特別支配株主に移転する(同法179条の9第1項)。
イ 株式併合
株式併合とは、複数の株式をこれより少ない株式にすることです(同法180条1項)。株主総会の議決権の3分の2以上を確保できる場合は、株式併合の方法を利用して、強制的な買取をすることが考えられます。
手順は次のとおりです。
①株主総会の特別決議により、株式併合を決議する(同法180条2項)。
②株式併合の効力発生日の20日前までに、全株主に対し、併合の割合等を通知する(同法181条1項、182条の4第3項)。
③株式併合により1株未満の株式である端株が生じる場合、裁判所に売却許可の申し立てをして買い取る(同法235条)。
4 まとめ
自社株式を合意により買い取る場合はもとより、強制的に買い取る場合も、一つ一つの手続が正しく行われないと、あとで株式の買取が無効と判断される可能性があります。このため、株式の買取手続に精通した弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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