株主から質問状が送られてきた際の回答方法や対処法

1 はじめに

 株主総会を実施するに当たり、株主から事前に質問状が送付されることがあります。そのような場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
 この記事では、株主総会における取締役の説明義務や、質問状が送られてきた場合にどのように対処すればよいかについて解説します。

 

2 取締役の説明義務

⑴ 株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合、取締役等は必要な説明をする義務があります(会社法314条)。説明の範囲及び程度は、平均的な株主議決権を行使する為に必要な情報を得ることができる程度であるとされています。具体的には、報告事項であれば計算書類、事業報告に記載すべき事項を標準とし、附属明細書に記載された程度ないしこれを多少付加補足する程度に説明することが必要です。

⑵ ただし、①株主総会の目的である事項に関しない場合、②説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合(営業秘密など)、③その他正当な理由がある場合として法務省令が定める場合には、説明を拒否することができます(会社法314条但書)。
 その他正当な理由がある場合として、㋐説明するために調査をすることが必要な場合、㋑説明することにより会社その他の者の権利を侵害する場合、㋒当該株主総会において実質的に同一の事項について繰返し質問する場合、㋓その他説明しないことにつき正当な理由がある場合が規定されています(会社法施行規則71条)。

⑶ 「株主が説明を求めた事項について説明をするために調査をすることが必要である場合」であっても、当該株主が相当の期間前に当該事項を株式会社に対して通知した場合、当該事項について説明をするために必要な調査が著しく容易である場合には、説明を拒否することができません(会社法施行規則71条1号)。
 以上のように、相当の期間前に事前質問があった場合には、調査が必要であることを理由に、説明を拒否することができません

 

3 事前質問に対する対応

⑴ 事前質問それ自体が質問なのか

 取締役等の説明義務は、総会において説明を求められて初めて生じるものなので、株主が事前質問を提出したとしても、総会で実際に質問をしない限り取締役等に説明義務は生じません

⑵ 事前質問がされた場合の説明義務

 事前質問がされた場合には、調査が必要であることを理由に説明を拒否することはできません。事前に調査し、回答を作成することが必要になるでしょう。ただし、事前質問がされたからといって、取締役の説明義務の範囲が変わるわけではありません。事前質問がされたとしても、調査が必要との理由で拒否ができなくなるだけで、総会の目的である事項に関しない質問や、説明することにより株主の共同の利益を著しく害する質問等については回答の必要はありません

⑶ 一括回答の活用

 事前質問がされた場合であっても、総会で実際に質問をしない限り取締役等に説明義務は生じないことは既に述べた通りですが、実務上は、事前に通知があった質問事項について議案の審議に入る前にすべて回答するという方法(一括回答方式)が活用されています。反対に、事前質問がされているにもかかわらず、一括回答その他何らの説明・答弁もされていなければ、会社としても、相当の時間を費やして質疑を続けざるを得ない雰囲気になりやすいです。実際に一括回答を行うかどうかは事前質問の経緯や内容、質問した者の属性次第ではありますが、一括回答の用意自体は行ったほうが良いでしょう。
 しかし、一括回答の用意を行ったとしても、事前に質問した株主が欠席した場合には、当該質問が個別質問でされるとは限らないので、当該質問の回答を行わないこともあり得ます。状況次第では、一括回答から当該質問を省くことも考えられます

 

4 おわりに

 株主総会の運営は、総会決議に瑕疵が生じないよう慎重に行う必要があります。事前質問が提出された場合など、総会運営にお悩みの企業様は、企業法務に詳しい弁護士に相談するのが良いでしょう。

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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発行日:2021.03.04

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