上場会社の株主総会対応

1.はじめに

 上場会社も株式会社である以上、株主総会を開催する必要がありますが、ただ開催すればよいというものではありません。法律違反があると、株主総会決議が無効や取消しになってしまう可能性があります。また、株主からの質問にきちんと対応できるよう、入念な準備を行う必要があります。
 そこで、この記事では、上場会社の株主総会対応について解説します。

 

2.事前準備

(1)スケジュールの策定

 定時株主総会は、基準日から3か月以内に開催しなければなりません。そこで、まずは基準日から3か月以内に、株主総会を開催できるよう、社内の関係者のスケジュールを調整し、株主総会の開催日を決定する必要があります。
 なお、多くの上場企業は、3月決算にしており、年度末の3月31日を基準日として設定していますので、そこから3か月以内、つまり6月末までに株主総会を開催しなければなりません。上場企業の株主総会が6月に集中するのは、このためです。

(2)会場の選定

 開催日が決まったら、次は会場を押さえます。大多数の株主が事実上アクセスできないような会場や、来場した株主を収容できないような狭い会場での開催は、株主総会の取消事由になる可能性がありますので、会場選定にも気が抜けません。

(3)事業報告及び計算書類・連結計算書類提出の準備

 株主総会には、事業報告及び計算書類・連結計算書類を提出する必要があります。そして、株主総会に提出する各書類は、会社の機関設計に応じた監査や承認を受けたものでなければなりません。
 たとえば、監査役会設置会社の場合は、以下のとおりです。

①計算書類・連結計算書類について、監査役及び会計監査人の監査を受ける必要があります。
②事業報告について、監査役の監査を受ける必要があります。
③事業報告及び計算書類・連結計算書類について、取締役会の承認を受ける必要があります。

 

(4)電子提供措置の開始

 上場会社には、株主総会資料の電子提供制度が強制適用されます。株主総会資料の電子提供制度とは、株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載する方法によって、これを株主に対して適法に提供したものとする制度のことです。
 電子提供措置は、株主総会の日の3週間前の日又は招集通知発送日のいずれか早い日までにとらなければなりません。

(5)招集通知の発送

 株主に対して、株主総会の招集通知を発送する必要があります。招集通知は、株主総会の日の2週間前までに発送しなければなりません。また、上場会社は通常、書面投票や電子投票を採用していますが、その場合、書面投票や電子投票の議決権行使期限は総会前日に定められますので、招集通知は、その議決権行使期限の2週間前までに発送する必要があります。

(6)シナリオ及び想定問答集の作成、リハーサル

 株主総会を円滑に進行させるため、株主総会当日にシナリオ(議事進行のための台本)を作成するのが効果的です。また、株主からの鋭い質問にもきちんと回答できるよう、想定問答集を作成しておいた方がよいでしょう。そして、シナリオや想定問答集を踏まえて、入念なリハーサルを行います。

 

3.株主総会当日の対応

(1)入場受付

 株主総会に出席できるのは、議決権を有する株主本人か、その代理人に限られます。そのため、会場の受付において、議決権行使書面委任状の提示を求め、株主本人かその代理人であることを確認しましょう。入場権限がある者の入場を制限すると、株主総会の取消原因になり得ますので、ご注意ください。

(2)株主からの質問への対応

 想定問答集を参考にして、株主からの質問に回答していきます。ただし、質問事項が、株主総会の目的である事項に関しない場合は、説明を拒否することができます

(3)株主からの動議に対する対応

・修正動議への対応

 たとえば、「取締役1名選任の件」という議題について、もともとの議案は「Aを選任する」(A案)というものでしたが、株主が、総会当日に、「Bを選任する」という別案(B案)を提出してくることがあります。これを修正動議といいます。修正動議は、会社法に認められた重要な権利ですので、これを無視することはできません。B案についても、きちんと議場に諮って審議しましょう。ただし、採決の段階で、先にA案を採決し、A案が可決された場合は、B案についての採決を省略しても構いません。

・手続的動議への対応

 一方で、株主が、議長による議事進行に対する動議(手続的動議)を提出してくる場合があります。株主総会の議事進行については、原則として議長の裁量に委ねられていますので、手続的動議をどう扱うかも、原則として議長の自由です
 ただし、以下の事項については、必ず議場に諮る必要があります。

・総会提出資料等の調査者の選任を求める動議
・総会の延期・続行を求める動議
・会計監査人の出席を求める動議
・議長の不信任を求める動議

 

4.株主総会終了後の対応

 株主総会終了後にも、一定の対応を行う必要があります。ここでは、その一部を解説します。

(1)議事録等の備置

 株式会社は、株主総会終了後速やかに議事録を作成し、本店には原本を10年間、支店には写しを5年間備え置かなければなりません。
 また、議決権行使書面や委任状等を、株主総会の日から3か月間、本店に備え置かなければなりません。

(2)電子提供措置の継続

 株主総会資料の電子提供措置は、株主総会の日から3か月間、継続しなければなりません。

(3)臨時報告書の提出

 上場会社は、有価証券報告書提出会社ですので、株主総会において決議事項が決議された場合、遅滞なく、決議事項の内容等を記載した臨時報告書を、内閣総理大臣に提出しなければなりません。

(4)登記申請

 役員の選任等、株主総会決議により登記事項に変更が生じた場合は、株主総会の日から2週間以内に変更の登記をする必要があります。

(5)決算公告

 株主総会で承認を受けた計算書類を公告する必要があります。株主総会の翌日に公告する上場会社が多いです。

 

5.最後に

 以上の通り、特に上場会社の株主総会は、開催前の準備、当日の対応、事後対応まで、注意点がたくさんあります。株主総会対応にお困りの上場会社の方は、ぜひ、株主総会対応に詳しい弁護士にご相談ください。

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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発行日:2021.03.04

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