医療法人に関する財産分与

1 はじめに

 夫ないしは妻が医師である場合、いざ離婚となると問題となるのが財産分与です。財産分与というと、夫婦の預貯金や不動産が対象になることは皆さんご存知かと思いますが、例えば、夫が開業医で医療法人を経営している場合には、何が分与対象財産となるのでしょうか。

 

2 財産分与の対象財産

 上述したケースでは、医療法人の資産自体は財産分与の対象とはなりません。というのも、いくら小さな規模であったとしても、法律上個人と法人は別となり、原則として法人の財産も個人の財産とみなされることはないためです。
 とはいえ、何も分与対象財産にならないかというと、経営する医療法人に出資持分がある場合には、これが対象財産になる可能性があります。(ただし、平成18年法律84号の医療法改正により、それ以降に新しく設立する医療法人については、出資持分のないものしか設立できないことになっています。また、医療法人は剰余金の配当ができなくなり(医療法54条)、解散の際の残余財産についても、その帰属すべき者は、国若しくは地方公共団体又は医療法人その他の医療を提供する者であって厚生労働省令で定めるもののうちから選定されるようにしなければならなくなったため(医療法44条5項)、改正後に設立された医療法人及びその後定款を変更して持分を解消した医療法人は、出資持分等を財産分与の対象とすることはできませんので、ご注意ください。)
 医療法人は、社団たる医療法人と財団たる医療法人があり、ほとんどの医療法人が社団たる医療法人ですので、この記事では、社団たる医療法人の中でもさらに出資持分のある社団医療法人を前提に、財産分与について解説していきます。

 

3 財産分与の基本的な考え方

 財産分与には、3つの考え方があります。婚姻中に夫婦が協力して形成した財産を清算する意味合いで行われる清算的財産分与、離婚後における相手方の生計の維持を目的とする扶養的財産分与、離婚の際の慰謝料的意味を加味した慰謝料的財産分与です。この中で基本となるのが清算的財産分与であり、多くの事案ではこの考え方に基づいて財産分与が行われます。
 医療法人の出資持分について、財産分与の対象となることを認めた裁判例(大阪高判平26.3.13)がありますので、具体的に見て行きましょう。

【当事者】
控訴人:夫(医師、婚姻後開業医になりその後旧医療法人を設立)
被控訴人:妻

【事案の概要】
 本件は、控訴人の配偶者である被控訴人が、控訴人に対し、控訴人の言動等や一方的な別居により婚姻関係が破綻したと主張して、民法770条1項5号に基づく離婚及び財産分与等の支払いを求める本訴を提起したのに対し、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人は家事を十分せず、控訴人が開設した診療所の経営に協力しなかったと主張して、民法770条1項5号に基づく離婚等の支払を求める反訴を提起した事案です。
 財産分与に関しては、①3000口の出資のうち2900口が夫、50口が妻、50口が夫の母の名義とされている医療法人の出資持分につき、3000口の出資持分全てが財産分与の対象財産となるか、②その評価額はどのように算出すべきか、③高額な収入の基礎となる特殊な技能が、婚姻届出前の個人的な努力によっても形成され、婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成された場合に、いわゆる2分の1ルールが適用されるのか、の3点について、本判決は一定の前例としての価値を有する判断をしました。
 これらの争点それぞれについて見ていくと、①については、夫の母名義の50口の出資持分についても、医療法人の経営の実情から、夫婦の基礎財産として考慮できるとしました。これは、夫の母が医療法人の経営に関わっておらず、その原資も法人化前の夫婦共有財産である診療所に係る財産に由来することから、形式面よりも実質面を重視し、夫婦の基礎財産として考慮したものと思われます。②は、当該医療法人の純資産価額全額ではなく、その7割をその評価額と算定しました。そして、③財産形成の寄与割合については夫6割、妻4割と評価しました。2分の1ルールが原則としながらも、夫が婚姻前に勉学に励んで医師免許を取得し、インターンとしての厳しい勤務経験などを経て、妻の協力を得ずにした努力によって培われた知識、技能等が収入確保に繋がった面があることから、妻の寄与割合を5割とはしませんでした。他方、妻も家事や育児だけでなく診療所の経理も一部担当していたことを考慮すると、妻の寄与割合を4割より下げるわけにはいかないとして夫6割:妻4割という寄与割合に落ち着いたようです。

 

4 弁護士にご相談ください

 以上述べたとおり、パートナーが医療法人を経営している場合、どの財産が財産分与の対象となるのか、その財産をどのように評価すべきなのか、寄与割合が2分の1から修正されるのかどうかなど、争点が多くなり、より複雑化する可能性が高いです。離婚の際に損をしないためにも、一度弁護士に相談されることをおすすめします。
 弊所では、離婚事件も多数取り扱っておりノウハウも豊富ですので、是非一度お問合せください。

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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発行日:2021.03.04

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