医療機関における保険診療の個別指導対応と注意点

1 はじめに

 保険診療のルールの周知を目的として、一定の条件にあてはまる病院について、厚生局による個別指導が行われることがあります。医院の側がこの個別指導への対応を誤ると、1度では個別指導が終了とならず再度個別指導(再指導)が実施されることになったり、場合によっては監査の対象になってしまうこともあります。
 そして、監査の対象になってしまうと、最悪の場合には、医院の保険医療機関の指定(保険医の登録)の取消処分といった、病院の経営破綻にもつながりかねない重大な不利益処分を受けるおそれがあります。
 他方で、医院が個別指導を受けることは健康保険法等によって義務とされており、医院が指導を拒否することは認められていません(実際上の扱いとしても、医院が個別指導を拒否すれば、監査の対象とされてしまうおそれがあります)。
 最悪の事態を回避するためにも、医院が再指導や監査の対象となることがないように、個別指導が行われる前の段階で、個別指導についての十分な対策を立て、適切に対応する必要があります。
 以下で、これらの点について具体的に解説していきます。

 

2 個別指導の事前準備

(1)専門家との対応方法の協議

 個別指導の準備として、事前に個別指導について専門的知見を有する弁護士等と協議し、個別指導において問題となりうる点を確認したうえで、その対応方法を決めておくことが重要です。 
 これにより、必要資料等の準備不足や、個別指導担当官への不適切な対応等によって、医院が再指導や監査の対象となることを防止する効果が期待できます。
 上述のように、個別指導は、ときに重大な不利益処分につながりうるものであるため、対応される医師の方には大きなプレッシャーがかかるのが通常です。予め弁護士等と打合せをして個別指導への対応方針を固め、医師の方のプレッシャーを軽減することで、適切な対応がとりやすくなるでしょう。

(2)指定された持参物の準備等

 指定された持参物を準備しないで個別指導に臨むと、再指導の対象になるおそれがありますので、持参物の準備についても、事前に打ち合わせておく必要があります。
 特に、いわゆる電子カルテの取り扱いをめぐっては、原則としてプリントアウトしたものに医師の署名・押印が求められることなど、準備にあたって注意すべき点が少なくありません。
 また、個別指導の実施前に診療録へ追記すると、場合によっては改ざんとして扱われてしまい、監査につながるおそれがありますので、注意しましょう。

 

3 個別指導における対応

(1)弁護士の同席

 弁護士は、個別指導に同席することが認められています。個別指導に弁護士が同席することで、担当官から威圧的な指導や根拠に欠ける不当な要求を受けないよう、厚生局の側をけん制する効果が期待できます。
 また、場合によっては、不当な指導・自主返還要求に対して是正を求めることもできますし、「誘導されて事実に反することを認めさせられてしまった」、「正当な指摘に対して感情的に反発してしまい、状況が悪化してしまった」といった事態を防ぐことにもつながります。

(2)誤りの是正

 診療録の記載等に関するルールが複雑であることもあって、いざ個別指導が実施されれば、多くの場合、何らの不備・誤りが指摘されることになります。そして、指摘された内容が正当であるときは、医院の側は不正請求の意図がないことや不備の是正に応ずる意思があることを明確に示す必要があります。
 正当な指摘に対してみだりに争う態度をとってしまうと、再指導等の対象とされてしまうおそれがありますので、冷静で的確な対応が求められます。

 

4 最後に

 以上のように、厚生局による個別指導の対象となった場合には、不当な指導を防ぐとともに、再指導や監査等に発展することがないようにするため、事前に法的知見もふまえた十分な対策を立て、指導の状況に即した適切な対応をとることが必要になります。
 もし、「個別指導の対象となってしまったが、どのような対策を立てたらよいのか分からない」、「不当な個別指導にどのように対処してよいか分からず不安に思っている」といったことでお困りなら、保険診療の個別指導対策に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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発行日:2021.03.04

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