個人病院の相続
目次
1 はじめに
個人病院、すなわち、医療法人ではなく、医師個人が開設した病院や診療所(以下「個人病院」といいます。)の院長が死亡し、医師である院長の長男が後を継ぐような場合、以下のような点に注意しておく必要があります。
2 権利関係は相続の対象とならない
旧院長の地位は相続の対象とはならないことから、旧院長がした個人病院の許可や届出の効力を引き継ぐことはできません。保健所には開設者死亡届、厚生局には保険医療機関廃止届、税務署には死亡届を提出することになります。
新しく院長となる長男は、改めて個人病院を開設することになるため、保健所には病院の開設許可の申請や診療所の開設の届出を、税務署には事業開始の届出を、厚生局には保険医療機関指定の申請を行う必要があります。
3 相続の対象となるもの
旧院長の相続の対象となるのは、旧院長が所有していた財産、すなわち、個人病院の建物等の不動産、医療機器等の動産、診療報酬請求権等の債権となります。
4 遺産分割
旧院長が、何らの相続対策もしていなかった場合、相続人の全員で、誰が旧院長の残した財産を相続するのかについて遺産分割の協議を行わなければなりません。
例えば、旧院長の相続人が、妻、長男、二男である場合、この3人が話し合って、新しい個人病院の経営に必要な財産を長男に相続させることにしなければなりません。話し合いがまとまらなければ、最終的に、家庭裁判所による審判手続等において、法定相続分(妻は2分の1、長男と二男は4分の1ずつ)にしたがった分割となる可能性があり、長男が旧院長の後を継ぐことに多大な支障を来してしまいます。
5 遺言
このような遺産分割による不都合を回避するために、旧院長は、個人病院の経営に必要な財産を漏れなく長男に相続させる内容の遺言を作成しておく必要があります。遺言により長男が相続することになっている財産は、遺産分割の対象とはなりません。
6 遺留分
もっとも、長男が相続する個人病院の経営に必要な財産は、不動産や医療機器等、高額となることが予想されます。このため、これら以外の財産が少額であった場合、妻や二男の遺留分を侵害する可能性があります。遺留分は法定相続分の2分の1であるため、妻の遺留分は4分の1、二男の遺留分は8分の1となり、長男は、妻や二男に対し、遺留分に不足する金額を支払わなければなりません。
7 相続税
また、妻が相続する場合と異なり、長男は配偶者控除が使えないため、相続税が多額となる可能性があります。
8 対策
そこで、旧院長は、妻や二男に対し、遺留分を侵害しない程度の財産を相続させる内容の遺言を作成し、また、生命保険の受取人を長男にする等して、長男が相続税や遺留分の支払に困らないように手当しておくことが大切です。
9 まとめ
このように、個人病院を相続する際には、遺言の作成や、遺留分や相続税への対策も必要であるため、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
最新記事 by 弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ (全て見る)
- 医療機関向け法務相談サイトがオープンしました - 2024年10月2日
- R6.7.26「第7回 企業不祥事に関する定期情報交換会」の開催 - 2024年7月27日
- “働きがいも経済成長も“を目指す企業さまを対象に「SDGs労務コンサルティングプラン」をリリース! - 2022年10月28日
- 医療法人の解散
- 医療法人の運営
- 個別指導の留意点(傷病名の記載に関して)
- 医療法人の支配権争い
- クリニック・医療法人の経営者が顧問弁護士を選ぶポイント
- 勤務医の年俸制及び定額残業代に関して(労務的な内容)
- スタッフの労務問題
- 医療法人のM&Aにおけるデューデリジェンスの注意点
- 医療法人の支配権争い
- 個別指導・監査の基礎知識
- 歯科医院における法律問題
- 医療法人に関する財産分与
- オンライン診療
- 医師の働き方改革~医師の労働時間の上限と健康を守るためのルール~
- 医療法人の種類
- 医療法人の理事解任
- 患者と直接対面せずに投薬の処方箋を発行することの可否
- 医療法人と事業承継
- 個別指導の留意点(診療録に関して)
- 医師の応召義務と診療の拒否
- 医療事故発生時の対応と謝罪の法的意味
- 個別指導の留意点(診療報酬の算定に関して)
- 医療機関の経営者が顧問弁護士を選ぶポイント
- 医療機関における保険診療の個別指導対応と注意点
- 医療法人のM&Aにおける情報承継
- 相続対策のための、持分の定めのない医療法人への移行
- 個人病院の相続
- Q.医療機関を経営していますが、法的に診療録(カルテ)の記載事項として、どのような事項を記載しないといけませんか?保存期間はいつまででしょうか?
- 個別指導・監査における弁護士の活動・弁護士帯同のメリット
- 医療機関の経営者が顧問弁護士を選ぶポイント
- 医療従事者の労働時間該当性
- 医療従事者の労働者性
- 医師の働き方改革
- 診療所・クリニックにおける休憩時間中の電話番
- 勤務医の年俸制及び定額残業代に関して
- カルテの記載事項と保存期間
- Q.患者と直接対面しないで投薬の処方箋を発行することができるか
- Q.医師法21条に基づく,医師による警察署への異状死体の届出について
- 医療機関特有の広告規制
- 医療法人の設立
- 治療費の未払いと回収方法
- 医療機関におけるクレーマー・モンスターペイシェントへの対応方法
- 医療事故に関する過度の賠償請求への対応方法
- 病院から出て行かない入院患者への対応方法
- 診療所・クリニックにおける休憩時間中の電話番
- 分院を円滑に開設する方法
- インフォームド・コンセントと医師の説明義務