医療法人のM&Aにおけるデューデリジェンスの注意点

1 はじめに

 医療法人のM&Aにおけるデューデリジェンスには、関係する法令のみでなく、その公共的な性格から、行政や地域との関係等の観点からの検討が必要です。以下、デューデリジェンスの概要や留意点について説明します。

 

2 デューデリジェンスとは

 デューデリジェンスとは、一般に、M&Aを実施する際、売り手側の経営実態や内部事情を把握し、買収対象としての価値や買収するうえでのリスクを評価するために、買い手側によって行われる調査手続きです。医療法人を買収する場合も同様であり、事業、財務、法務等様々な観点から実施することが重要です。

 

3 医療法人のM&Aにおけるデューデリジェンスの概要

 医療法人を対象とする場合の主な調査事項は以下のとおりです。

(1) 事業

 

 事業活動等を調査し、評価をします。
①医師・医療従事者、施設・医療機器を含めた設備、病床稼働率等の評価
②診療圏・競合状況の評価
③収益構造・事業計画の評価
④システム、業務フローの評価

(2) 財務

 資産・負債等の財務状況を調査し、評価します。
①経営成績・財政状態の実態の評価
②簿外債務の有無及び評価
③収益力の分析及び評価
④価値評価

(3) 法務

 事業の法的リスクを調査し、評価します。M&Aに必要な手続きを分析します。
①設立・組織の評価
②許認可・法令等の遵守状況の評価
③資産等の権利関係の評価
④各種契約関係の評価
⑤訴訟・紛争状況の評価

(4) 不動産

 不動産の価値等を調査し、評価します。
①不動産の現況・価値の評価
②権利関係の評価
③建築関連法規等の遵守状況の評価
④土壌の評価

(5) 税務

 税務申告状況等を調査し、評価します。
①会計処理・税務申告の適正評価
②過去の税金納付、税務調査等の評価
③更正・修正状況の評価

(6) 人事・労務

 未払賃金等を調査し、評価します。
①法令の遵守状況や労使関係の評価
②賃金水準、勤怠状況等の評価
③未払残業代や退職金等の評価

 

4 医療法人のM&Aにおける留意点

(1) 関係法令等の規制

 医療法人には、社団医療法人、財団医療法人及び持分の定めの有無等による違いがあり、その種類によって、適用される法令や、選択可能な手続き等が異なります。
 また、医療法人は、その公共的な性質から、法令のほか、監督官庁の告示、通知、ガイドライン、厚生労働省や都道府県等の対応、医療計画、医療審議会の動向や、その地域における他の医療機関との関係性等にも留意する必要があります。

(2) MS法人

 MS法人(メディカル・サービス法人)とは、医療に関連するサービスを提供する医療機関ではない法人です。医療法人のために、不動産の賃貸、医療機器等のリース・レンタル、販売業務等を行っています。このため、医療法人にMS法人が存在する場合、MS法人との関係をどのように処理すべきかについても検討することが必要です。場合によっては、MS法人に対するデューデリジェンスの実施も検討する必要があります。

 

5 医療法人のMA&における個人情報の取り扱い

 一般に、事業者が保有している個人データを第三者に提供する場合は、本人の同意を必要とするのが原則です(個人情報保護法第27条1項)。患者、医師その他の従業員に関する個人データもこれに該当しますが、「合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合」は、当該個人データの提供を受ける者は、第三者に該当しない(同意が不要)とされています(同条5項2号)。
 デューデリジェンスは、事業の承継に先立って行われますが、経済産業省のガイドラインでは、「事業の承継のための契約を締結するより前の交渉段階で、相手会社から自社の調査を受け、自社の個人データを相手会社へ提供する場合も、本号に該当」するとしています(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン3-6-3(2))。なお、個人情報保護委員会と厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」には同様の記載はありませんが、同ガイダンスの趣旨において、同ガイダンスに記載のない事項については、上記ガイドラインを参照するようにとされていることから、第三者に該当しないと考えてよいと思われます。

 

6 まとめ

 このように、医療法人のM&Aにおけるデューデリジェンスには、様々な視点から調査すべき範囲及び内容を検討する必要があるため、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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