医療法人の支配権争い

1 医療法人とは

 医療法人とは、「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団」のことをいいます(医療法39条)。実際の医療法人の多くは社団たる医療法人となります。社団たる医療法人は、さらに、出資持分のある医療法人と出資持分のない医療法人に分類されます。現在、出資持分のある医療法人については、新たに設立することはできなくなっており、今後増えることはないため、出資持分のない医療法人の割合が増えていくこととなります。
 この記事では、主に社団たる医療法人、その中でも特に争いの起こりやすい出資持分のない社団たる医療法人に焦点をあてて、解説していきます。

 

2 医療法人の機関

 実際の医療法人の多くを占める社団たる医療法人については、社員総会、理事、理事会及び監事を置かなければなりません(医療法46条の2)。社員総会とは、医療法人の最高意思決定機関のことで、これは、株式会社でいうところの株主総会みたいなものです。しかしながら、医療法人の社員と株式会社の株主とは決定的な違いがあります。それは、社員という地位を獲得するために出資が必要とされていないことです。具体的には、株式会社では、1株1議決権となり、多くの株式を保有すればするほど、議決権が増え、経営への影響力が大きくなっていくのに対し、医療法人では、社員という地位に1つの発言権があるため、出資額の多寡に関係なくより多くの社員に賛同してもらえた方が多数派になるという図式になります。

 

3 支配権争い

 上で述べたとおり、医療法人では、社員という地位を獲得すれば、出資がなくとも1人1個の発言権を与えられることになります。すなわち、新たに支配権を獲得したい場合には、事前に根回しをしたうえで、賛同してくれる社員をより多く確保しておく必要があるわけです。
 しかし、そもそも、社員の地位を獲得するには社員総会での決議が必要となるのが一般的ですので、新たに味方の社員を増やすことは簡単ではなく、いかに既存の社員を味方に引き込むことができるかという点が重要になります。また、これまで医療法人への貢献度が非常に高かった人物であっても、社員総会で過半数の票を確保しなければ、医療法人から追い出されるということもありえます。

 

4 支配権争いの具体的場面

 それでは、具体的な支配権争いの場面をみてみましょう。医療法人の支配権をめぐる紛争は、医療法人の支配権の獲得又は維持を望む社員ないし理事が、社員ないし理事の過半数を掌握し、自身らの意向に沿った者を理事長(代表者)に選任することで、自身と意見が対立する社員ないし理事を理事長から排除しようとすることによって始まることが多いです。また、医療法人は、その社員が家族や親族で構成されていることも多く、経営方針や後継者を巡って争いになった場合には、親族同士の紛争ということもあり、非常に激化することがあります。
 したがって、医療法人の支配権をめぐる紛争としては、理事ないし理事長の選任や解任に関する紛争が中心となります

 

5 医療法人の理事とは

 上述したとおり、医療法人の「理事」とは、医療法人の機関であり、社員総会によって選任される役員のことをいいます(医療法46条の2、46条の5)。医療法人において、理事は3人以上が必要とされており、選任はもちろん解任にも社員総会の決議が必要になります(医療法46条の5の2)。

 

6 医療法人の理事解任

 医療法人の理事の解任は、社員総会の決議を経ることにより、いつでも可能です。たとえ、理事会で過半数を味方につけていたとしても、究極的には社員総会で過半数を握られていると、社員総会の決議で理事の解任や選任はできてしまいます。したがって、医療法人での支配権を確固たるものにするためには、一人でも多くの社員を味方につけ、常に社員全体の動向を確認しておくことが重要であるといえるでしょう。
 ここで一つ注意すべき点は、理事の解任に正当な理由がない場合には、その解任された理事から損害賠償を請求されることがあることです。やみくもに解任をすれば良いというわけではありませんので、念頭に置いておく必要があるでしょう。

 

7 弁護士にご相談を

 医療法人の支配権争いが表面化している、あるいは表面化しそうであるという場合には、段階に応じた的確なサポートを得るためにも、早めに弁護士にご相談されることをおすすめします。
 弊所では、医療法人に特化した問題も多数取り扱っており、お悩みに即した解決方法をご提案させていただくこともできますので、是非一度、お気軽にお問い合わせください。

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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発行日:2021.03.04

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