代表取締役・取締役の辞任方法と退任登記方法(解任・任期満了等含む)

1.代表取締役の辞任について

(1)代表取締役を辞任したい場合、いつ辞任できるのでしょうか。

 結論から言いますと、代表取締役はいつでも辞任できます。では、代表取締役は辞任したい旨の意思表示を誰に対してすればいいのでしょうか。
 まず、会社に辞任したい代表取締役以外の代表権を有する取締役がいる場合には、自分以外の代表取締役に対して、辞任の意思表示をします
 これに対し、辞任したい代表取締役以外に代表権を有する取締役がいない場合には、取締役会を開いて後任の代表者を選任し、同時に辞任することになります(東京高裁昭和59年11月13日判決)。ただし、会社のために「不利な時期」に取締役を辞任した場合には、会社の損害を賠償しなければなりません

(2)この「不利な時期」とは、一般的に、取締役が辞任したとき、会社が遅滞なく他人にその事務処理を委任するのが困難な時期などを言うと考えられています。
 したがって、辞任する取締役が、すぐに代替がきかないような業務について、後任への引き継ぎも行わず、通常であれば引き継ぎができる期間もおかず突然に辞任したという場合、「不利な時期」に該当すると判断されるおそれがあります。しかし、この点はケース・バイ・ケースであることを留意してください。 
 もっとも、取締役にとって「やむを得ない事由」があるときは上記損害賠償の責任を負いません(民法651条2項)。例えば重大な健康の問題が生じ、取締役の職務の継続が健康に重大な影響を与えるという場合がこれに該当するものと考えられます。ただし、この点もケース・バイ・ケースであることに留意してください。

 

2 取締役の辞任について

(1)取締役を辞任したい場合、代表取締役と同じく、いつでも辞任することができます
 会社に対して、辞任したい旨の意思表示をすれば、辞任の効力が生じます。この辞任したい旨の意思表示は、口頭でも構いませんが、通常は、辞任の意思を明確にするために、代表取締役に辞表を提出する形で行われます。

(2)ここで、注意しなければならないのが、辞任の効力が生じたとしても、ある取締役の辞任によって、取締役の最低人数を欠く場合(例えば、定款で取締役が3人必要と定めている会社で、3人のうち1人が辞任する場合)、辞任した取締役は、新たに選任された取締役が就職するまでの間、取締役としての権利義務を有するということです。
 そのため、このような取締役は「権利義務承継取締役」と呼ばれ、この場合、会社との関係で役職を辞したつもりでいても、取締役としての権限だけでなく、義務までも残ってしまうのです。 
 この問題を解決するためには、裁判所に対し「一時役員の職務を行うべき者」(いわゆる「仮取締役」)の選任の申立を行い(会社法346条2項)、裁判所がこの仮取締役を選任し、役員の定員を充足させることによって、権利義務承継取締役としての地位から脱する方法があります。
 ただし、この方法は非常に手間ですし、会社としても辞任した取締役に権利義務が残っていることのデメリットやリスクを考えるのが通常です。したがって、会社と次の取締役を早急に選任するよう交渉することで解決する場合が多いと思われます。

 

3 退任登記未了の取締役の責任と退任登記請求(辞任・解任・任期満了等含む)

(1)さらに、もう1点留意すべき点があります。それは、会社に対して辞任の意思表示をすれば、会社に対しては取締役退任の効力が生じますが、会社以外の第三者に対する関係においては、取締役の退任登記をしないと、退任したことを知らない第三者に対しては「自分は取締役を退任している」ことを主張することができない、ということです。
 このことは、辞任以外の他の退任事由(解任・任期満了等)にも同じことが言えます。
 そのため、退任登記未了の取締役が第三者に対して責任を負うおそれがあります。
 この点について判例は、①辞任後も積極的に取締役としての行為をしている場合と、②辞任後は積極的に取締役としての行為はしていないが、不実の登記を残存させることについて明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情がある場合、退任登記未了の取締役が第三者に対して責任を負う旨、判示しています(最高裁昭和62年4月16日判決)。
 なお、②の特段の事情がある場合については、「明示的に承諾」を与えることが要求されており、「黙示的に承諾」していただけでは足りません。
 したがって、上記判例によれば、辞任した取締役が、その旨の登記がされていないことを知っていたが何も言わずに放置していたような場合は、明示的に承諾を与えたとはいえず、第三者に対して責任は負わないことになります。
(2)いずれにせよ、第三者から責任を追及されないようにするためにも、辞任した取締役としては退任登記手続を進めたいところ、通常は、取締役の退任登記は、代表取締役が証明書類を添付して法務局に申請する手続をとります。
 そこで、会社の取締役を辞任したにもかかわらず、取締役の退任登記がなされず、会社の取締役として公示されたままの状態になっている者は、会社に対して、自らが会社の取締役を退任した旨の変更登記手続を請求することができます。 
 しかし、代表取締役がこの退任登記手続に協力してくれないケースも十分に考えられます。この場合、辞任した取締役は、会社を被告として裁判所に訴訟を提起し、判決を得て変更の登記をすることができます。
 なお、登記に関する訴訟が終わるまでに、第三者との間で紛争が生じ、責任を追及されるおそれがあるならば、取締役を辞任している事実を責任追求しそうな第三者に通知しておくことが考えられます。
(3)では、任期満了又は辞任によって取締役が退任したことにより、法律又は定款に定める取締役の員数を欠くことになる場合で、代表取締役がこの退任登記手続に協力してくれない場合、裁判において、退任取締役からの退任登記手続請求は認容されるのでしょうか。
 この場合、退任取締役は「権利義務承継取締役」となり、未だ会社法915条1項に定める登記事項の変更を生じていないと解されることから、仮に裁判所において退任登記手続請求の勝訴判決を得て登記申請をしても却下され、新たに選任された取締役が就任するまで退任登記をすることはできません(最三小判昭和43年12月24日)。
 なお、東京地裁民事8部の過去の裁判例では、請求を認容する解釈が定着しているようです。


   
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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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発行日:2021.03.04

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