SDGs経営・ESG投資とM&A
目次
1.はじめに
2006年に国連が責任投資原則を提唱して以来、持続可能性を重視するESG投資は急速な拡大をみせています。ESG投資とは、財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に関する取組も考慮した投資のことをいいます。
そのようななか、2015年の国連サミットにおいて、SDGsが採択されました。SDGsとは、グローバルな社会課題を解決し持続可能な世界を実現するための国際目標であり、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の頭文字をとったものです。
投資家によるESG投資と民間企業のSDGsへの取組は表裏の関係にあります。すなわち、民間企業がSDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し、企業価値の持続的な向上を図ることで、ESG投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと考えられています(経済産業省「SDGs経営/ESG投資研究会報告書」(2019年6月)参照)。
このような潮流において、今後、上場企業を中心とした企業が買収者としてM&Aを実施するにあたり、ESGの観点をどのように組み入れ、活かしていくべきか、説明したいと思います。
2.SDGs経営・ESG投資と人権DD
(1)人権DDの要請
ESGの観点からは、これまで一般的な法務DD(デューデリジェンスのこと。以下、「DD」といいます。)においても、主に贈収賄規制や労務関係などといった法令違反の有無を中心に調査対象としてきました。
ところが、上記のとおり、近時のESG投資の世界的な潮流において、ESGに着目したDDが行われる機会が増えているようです。具体的な例として、人権DDがその代表例といえるでしょう。人権DDとは、企業活動やサプライチェーンに関連して生じ得る人権侵害の有無を調査することをいいます。
2011年に国連人権理事会が採択した「ビジネスと人権に関わる指導原則」、および経済協力開発機構(OECD)の「OECD多国籍企業行動指針」が企業に対して人権の尊重を求めたことを契機として、世界における人権DDに対する要請が強まりました。
この機運をうけて、日本においても、2020年10月に「ビジネスと人権に関する行動計画」が策定されており、今後、国内での人権DDに対する関心は益々高まるでしょう。
(2)人権DDと従来の法務DDとの違い
近時のESGに着目した人権DDの特徴として、従来の法務DDよりも調査範囲・対象を広げる傾向にあります。具体的には、①法規範の遵守+ソフトローの遵守の有無、②買収の対象会社+サプライヤーや役員個人、③ESGに関する管理体制や取締役会の構成等が調査範囲・対象となることが多いと言われています。
もっとも、従来のDDと違い、人権DDには特有の制約も多いことが予想されます。
例えば、①ソフトローの遵守状況については、明確な規定がなかったり解釈も確立されていなかったりするので、リスク評価が困難であることが予想されます。また、②サプライチェーンにおける人権侵害の有無に関しても、買収前での調査となるため、第三者である取引先等への調査は情報管理の点から困難を伴うでしょう。
今後、ESG投資の理解・浸透により、充実した人権DDが実施されることを期待したいところです。
3.契約条項
(1)表明保証条項
買収者は、DD実施後、発見されたリスクに対しては、買収価格やクロージング前の誓約条項、売主の補償責任等に反映するように交渉していくことがあります。
また、ESGの観点からは、未確認のリスクに関して表明保証条項を規定することで、リスクヘッジを図ることを検討しましょう。なお、上記の人権DDによる調査範囲・対象の広がりに伴い、表明保証条項の対象も広げる傾向が見受けられます。
(2)コベナンツ条項
また、株主間契約や投資契約において、人権DDの対象となったソフトローの遵守やサプラチェーンの遵守を義務とするコベナンツ条項(一定の特約事項のこと)を定めることが考えられます。
4.PMI
M&A実行後、PMIの段階においては、対象会社の支配権を有した場合、事前のDDでは情報開示が不十分なことがあるため、再度DDが行われることがあります。特に人権DDの場合、その性質上、定期的に実施されることが望ましいため、より詳細な人権DDを行うことをお勧めします。
また、買収後、買収者はESG関連も含め、対象会社に適用される社内規則、基準、役員報酬制度等を構築していく必要があります。
5.まとめ
ESG要素は、企業経営のリスク要因になるとともに収益の機会にもなり得ます。今後も、SDGs経営・ESG投資の認識は広まる傾向にあることから、M&Aを検討される際には、上記1~4の点についてご留意ください。
M&AにおけるSDGs経営・ESG投資の問題について、お悩みの経営者の方は、この問題に詳しい弁護士に一度ご相談ください。
以上
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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