労務デューデリジェンスと未払い賃金の問題
目次
1 労務デューデリジェンスにおける未払い賃金の問題とは
未払い賃金(未払い残業代)は,簿外債務の最たるものであり,М&AやIPOのための労務デューデリジェンスでは,必ずチェックされるものです。労働基準法の改正により,令和2年4月以降に発生した未払いの残業代の消滅時効は,これまでの2年から3年に延長されたこともあり,社員数によっては数千万円規模の簿外債務が発生してしまう可能性があります。
2 未払い賃金が発生する要因
会社としては,労働時間を適切に管理しており,残業代は全て支払っているつもりでも,労務デューデリジェンスの結果,残業代の未払いが発生していることが判明することがあります。その要因は,多岐にわたりますが,主に次のような要因が考えられます。
(1) 割増賃金の計算間違い
例えば,割増賃金を計算するための基礎となる金額を,基本給だけで計算していたり,算入すべき手当が漏れていたりすることがあります。特に,算入しなくてよい手当は法律で決められているため,会社独自の判断で算入しないことはできません。また,割増賃金の単価を算定するための所定労働時間に誤りがあることもあります。
これらの計算間違いは,担当者の誤解や知識不足に基づくこともあるので,注意が必要です。
(2) 労働時間の管理に不備がある
タイムカード等の客観的な指標により労働時間を管理していなかったり,適切に管理しているつもりでも,手待ち時間等,実務上,労働時間に算入すべき時間が除かれている等して,労働時間を少なく計算していることがあります。
(3) 管理監督者の要件を具備していない
管理監督者については,深夜労働を除き,割増賃金に関する規定の適用はありませんが,裁判において,管理監督者の要件を満たしていないと判断されてしまうことが多々あります。
(4) 年俸制の従業員に残業代を支払っていない
年俸制の従業員であっても,割増賃金の支払いを要しない「みなし労働時間制」が適用されない場合には,割増賃金を支払う必要があります。また,あらかじめ賞与の金額が確定している場合には,1か月を超える期間ごとに支払われる賃金に該当しないため,割増賃金を計算するための基礎賃金に算入する必要があります。
(5) 歩合制の従業員に残業代を支払っていない
歩合制の従業員であっても,割増賃金の支払いは必要です。
3 労務デューデリジェンスと未払い賃金の問題は弁護士に相談
労務デューデリジェンスを行い,未払い賃金の有無を確認しておかないと,М&A後に多額の残業代を請求されてしまうことになりかねません。また,IPOの妨げにもなります。このような問題が生じることを防ぐため,労務問題に詳しい弁護士に相談して,労務デューデリジェンスを依頼するのがよいでしょう。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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