債権差押えの実務上のポイント
預金債権の差押え
預金の差し押さえが基本
債権回収における強制執行の基本は、預金債権の差押えです。
その理由としては、典型的な書式が準備されていることや、申立人・執行裁判所・金融機関といった関係者が、いずれも対応に慣れていることから手続が円滑に進みやすいということがあげられます。
また、差押えが功を奏すれば、現金での回収が容易であることもその理由としてあげられます。
どの預金口座を差し押さえるのか
預金債権を差押えるにあたり、まず検討しなければならないのは、差押えの対象となる預金口座の特定と選定方法です。
取引先の企業情報と資産状況の情報を収集し、対象となる預金口座の特定と選定を進めます。
弁護士照会制度を利用することで、金融機関から対象となる預金口座の情報を事前に開示してもらうことも可能です。
財産開示の手続もありますが、実効性に疑問があり実務上はあまり有効な手段とはいえません。
預金口座の差押えのタイミング
預金口座の差押えをするタイミングは非常に重要となります。
一度預金口座を差し押さえたとしても、差押えの対象となるのはその時点で預金口座にある預金です。その後にその対象口座に入金されてくるものまでは、差押えの対象とはなりません。
差押えのタイミングの基本は、預金口座の残高が多くなることが予測される月末などです。
事前にある程度大口の入金がなされることがわかっていれば、その時点で差押えをするのが理想です。
預金債権の差押えの注意点
預金債権の差し押さえをする際の注意点は、以下のとおりです。
・複数の口座を同時に差し押さえる場合、複数の債務名義をとろうとする(数通付与)と、裁判所がその旨を事前に債務者に通知してしまうので、強制執行が功を奏しないおそれがあります。
そこでこのような場合、複数の債務名義をとるのではなく、一つの申立書で差押債権を数か所に振り分けるなどの方法を検討しましょう。
なお、順に差押えるのは手間と時間がかかりますので、あまりお勧めできません。
・メインバンクの預金を差押える場合、場合によっては金融機関から債務者への融資と相殺され、債務者が倒産するリスクがあります。また、金融機関に促されて一括弁済されることもあります。
悩ましいところではありますが、メインバンクの預金を差押える場合には、これらのリスクとリターンを考えて差押えを検討しましょう。
預金以外の債権の差押え
預金債権の差押えが難しい場合、預金以外の債権の差し押さえを検討します。
預金以外の債権としてよく検討される差押債権としては、以下があります。
①継続的売買契約
②請負代金請求権(建築関係)
③クレジットカード会社に対する立替金請求権
④診療報酬債権・介護報酬債権(医療機関)
以下、各債権を差押える際の注意点について、説明します。
継続的売買契約
掛売になっていることが前提となり、現金商売をされている債務者は対象となりません。
また、差押債権の対象期間は6ヶ月程度といった特定をするとしても、一度差押えをされると、以後債務者がその取引先に商品を卸さなくなることが多いので、事実上一回のみ効果のある差押えと考えておきましょう。
請負代金請求権
請負代金請求権を差し押さえる場合は、工事の種類や契約の時期等を特定して、差押える対象となる請負代金を明確にする必要があります。しかし、一般的に工事について特定することが難しいといったデメリットがあります。
もっとも、公共工事は役所から情報開示をしてもらうことで特定できることがあります。
差押えるタイミングですが、あまりに早く差押えをすると債務者が工事から抜けてしまうおそれがありますので、工期の終盤あたりに差押えるのがよいでしょう。
クレジットカード会社に対する立替金請求権
飲食店、小売業、ゴルフ場等といった決済手段としてクレジットカードがよく利用されている業種に有効です。
なお、差押え後はクレジットカードではなく現金決済に切り替えられるおそれがあることが難点です。
診療報酬債権・介護報酬債権
債務者が医療機関や介護施設等の場合にはこれを検討します。
対象の医療機関が自由診療で対応していたり、債権を担保に供している場合には、差押えが功を奏しないおそれがあります。
まとめ
以上のとおり、債権回収における強制執行の基本は預金債権の差押えとなります。
預金債権の差押えが功を奏しない場合、預金以外の債権への差押えを検討していくことになりますが、その場合は差押え対象債権の特定と第三債務者の反論への対応といった問題があります。
場合によっては、取立訴訟を提起せざるを得ない場合もあるでしょう。
債権回収に関してお悩みの経営者の方は、法律事務所瀬合パートナーズに是非一度ご相談ください。
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