商事留置権があれば優先的に回収できる
目次
商事留置権とは
商事留置権とは、一定の条件の下で法律上生じる、債務者が所有する物や有価証券を手元に留めておくことができる権利をいいます。
本来であれば、他人の所有物を手元に留めておく権利はないので、所有者から返還を求められた場合は、返還しなければならないのが原則です。
しかしながら、企業間の取引において、売掛金などが支払われない場合に、債権者が適法に占有している債務者の所有物を手元に留めることによって、その回収を図るために認められたのがこの商事留置権というものです。
商事留置権が発生するための要件
商事留置権は、以下の条件を満たすときに発生します。
①両当事者が法人や事業者などの商人で
②両当事者の事業から生ずるなど商行為により生じた債権が存在し
③弁済期が到来しているときに
債権者が
④契約による保管など商行為により自己の占有開始をした
⑤債務者所有の物又は有価証券を留置することができる権利が発生します。
このため、取引相手が企業ではなく個人の場合は、商事留置権は発生しません。
また、商事留置権が生じるためには、債権者が「商行為(商取引)により占有を開始した」ことが必要です。このため、例えば、債務者が破産しそうだからと、破産者に無断で持ち出してきた物などについては、商事留置権は発生しません。
商事留置権が発生する具体的な例
倉庫業者
倉庫業者が取引先から商品を預かって保管をしていたところ、取引先が倉庫代金を支払わずに破産してしまった場合、倉庫代金の支払いを受けるまでは商品の全部の引渡しを拒むことができます。
製造業者
取引先の商人の金型を預かって委託製造を行っていたところ、取引先が破産した場合、加工代金・売掛代金の支払いがあるまで金型を含む取引先所有物全部の引渡しを拒絶することができます。
修理業者
工場機械等の修理を委託されていたところ、修理後に委託先が破産を開始した場合には、修理 代金の支払いを受けるまでは工場機械の引渡しを拒むことができます。
破産された場合、商事留置権には優先権がある
商事留置権は、債務者が破産したときに強い効力を発揮します。
すなわち、売掛債権先である取引先が破産を開始した場合、破産財団に属する財産について存在する商事留置権は、特別の先取特権に転化し、別除権として破産手続によらないで行使することができます(破産法66条1項、65条1、2項)。
取引先が破産した場合、債権者は、原則として破産財団から平等に配当を受けることしかできません。
しかし、商事留置権を有する債務者の所有物が手元にあれば、債務者が破産したときでも、債権者は、その物について優先権がありますので、その物について競売を行い、その競落代金から優先弁済を受けることができます。
このとき、債権者自身が競売でその物を落札し、その代金を債務者に対して有する債権をもって支払うことも可能です。
つまり、手続を踏んで、商事留置権がある物の所有権を取得することも可能となります。
加工や修理のために取引先から材料や商品を預かったりする場合には、「預かり物」が担保になることを意識しておくことが必要です。
破産管財人等から返還を求められた場合、あるいは取引先が窮状を訴えて返還を求めてくることがあっても、無条件で返還してしまうことがないように注意してください。
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