M&A契約におけるMAC条項
MAC条項とは
企業買収の際のM&A契約の中で、MACという用語を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。MACとは、Material Adverse Changeの略で、重大な悪影響という意味ですが、Material Adverse Effect(MAE)と呼ばれることもあります。
株式譲渡契約に代表されるM&A契約では、契約締結日と契約の決済日(クロージング日)に一定の期間があることが多く、この間に対象会社の財務状態や経営状態に重大な悪影響を及ぼす事由が発生するかもしれません。特に、コロナウイルスの影響もあってか、現在は株価の変動も大きく、いつ何が起こるか分からない不確実な時代になっています。このような重大な事由が発生した場合、買主としては、契約締結時とは状態が変わってしまっているため、当初予定していた金額で株式譲渡を受けるのは避けたい、またはそもそも契約を解除したいと考えることもあるでしょう。
M&A契約においては、契約締結以降クロージングの日までに、対象会社の財務状態に重大な悪影響を及ぼす事由が発生していないことを買主の義務履行の前提条件とする条項を設けることが多いです。こうしておけば、仮に重大な悪影響を及ぼす事由(MAC事由)が発生した場合には、買主が義務の履行を免れることができることとなります。このような条項を、MAC条項(またはMAE条項)と呼んでいます。
MAC条項は、一般的には、表明保証条項と関連して規定することが多く、MAC条項が単体で定められているケースは少ないかもしれません。どのような定め方をされていたとしても、意味合いや効力に変わりはありませんので、締結前に文言のチェックを怠らないようにしましょう。売主の側であれば、そのまま契約内容を履行してもらうに越したことはないのですから、MAC条項を削除するよう働きかけるという交渉もあり得ます。契約の内容や企業の状況、社会情勢等様々な事情を踏まえ、契約書の内容を決定するようにしましょう。
MAC条項に該当する場合
それでは、どのような場合にMAC条項に該当するのでしょうか。「重大な悪影響を及ぼす事由」というだけでは、評価によるところが大きいですし、そんな曖昧な文言で契約を取りやめることができることになると、売主側の地位が常に不安定になってしまい適切ではありません。
この点、東京地裁平成22年3月8日判決では、「社会的な不動産市況の下落というような、対象会社の資産に固有に生じるものではない一般的普遍的な事象については、本件契約書における譲渡代金の調整の原因にはなる余地はあるにしても、本件契約書における表明保証の対象となり解除の原因となるものではないと解するのが相当である」と判断しました。その他の個別の点についても、裁判所は重大な悪影響を及ぼす事由を限定的に解釈し、該当しないと結論付けました。
契約関係を白紙に戻すような大変強い条項ですので、契約当事者の公平性を保つためにもそう簡単には認めないようです。とはいえ、MAC条項について判断した事例は数少ないので、この裁判例が一般化できるわけではありませんし、結局のところ事案ごとに慎重に対応を検討する必要があると考えられます。
最後に
ここまで、MAC条項について解説させていただきました。契約締結時点では存在しないことを想定して入れ込む条項になりますので、どうしても抽象的にな
ってしまい、問題になることも多い条項の一つです。M&A契約は、企業を成長・存続させるために重要なものですので、その実行には専門家の力添えが必須といえるでしょう。M&Aをお考えの方は、是非一度当事務所にご相談ください。
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