旅行業界が注意すべき広告規制
目次
〇はじめに
旅行業界では、活発な広告活動が行われています。一方で、旅行業界特有の広告規制も存在しており、他業界の事業者とは異なる注意が必要です。そこで、本記事では、旅行業界が広告を行う際の注意点を解説します。
〇旅行業法による広告規制
(1)広告への表示が義務付けられる事項
旅行業法では、旅行業者が企画旅行に参加する旅行者を募集するため広告をするときは、以下の事項を表示するよう義務付けています(旅行業法12条の7、旅行業者等が旅行者と締結する契約等に関する規則13条)。
①企画者の氏名又は名称及び住所並びに登録番号 ②旅行の目的地及び日程に関する事項 ③旅行者が提供を受けることができる運送、宿泊又は食事のサービスの内容に関する事項 ④旅行者が旅行業者等に支払うべき対価に関する事項 ⑤旅程管理業務を行う者の同行の有無 ⑥企画旅行の参加者数があらかじめ企画者が定める人員数を下回った場合に当該企画旅行を実施しないこととするときは、その旨及び当該人員数 ⑦上記③に掲げるサービスに専ら企画旅行の実施のために提供される運送サービスが含まれる場合にあっては、当該運送サービスの内容を勘案して、旅行者が取得することが望ましい輸送の安全に関する情報 ⑧法12条の4に規定する取引条件の説明を行う旨(その取引条件を表示して広告する場合を除く。) |
(2)誇大広告の禁止
旅行業法では、以下の事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならないと規定しています(旅行業法12条の8、旅行業者等が旅行者と締結する契約等に関する規則14条)。
①旅行に関するサービスの品質その他の内容に関する事項 ②旅行地における旅行者の安全の確保に関する事項 ③感染症の発生の状況その他の旅行地における衛生に関する事項 ④旅行地の景観、環境その他の状況に関する事項 ⑤旅行者が旅行業者等に支払うべき対価に関する事項 ⑥旅行中の旅行者の負担に関する事項 ⑦旅行者に対する損害の補償に関する事項 ⑧旅行業者等の業務の範囲、資力又は信用に関する事項 |
(3)広告が旅行業法に違反した場合
旅行業者等が旅行業法に違反する広告を行った場合、観光庁長官から、業務改善命令等を受けることがあります(旅行業法18条の3第2項)。この命令等にも従わなければ、業務停止命令や旅行業の登録抹消を受ける可能性があります(旅行業法19条1項)。
また、業務改善命令等とは別に、30万円以下の罰金に処せられることになります(旅行業法79条)。
〇「オンライン旅行取引の表示に関するガイドライン」による広告規制
近年、宿泊施設や航空券チケットの予約等のサービスをインターネットで行うオンライン旅行取引が拡大しています。オンライン旅行取引は、口頭での説明がなされません。また、海外のオンライン旅行取引事業者も積極的に参入していること、別の事業者が提供する旅行商品等を紹介するだけの「場貸しサイト」や「メタサーチ」を運営する事業者も多数存在することから、利用するサイトによって、旅行業登録の有無、契約の形態や条件も異なっています。そのため、旅行者が、どのような事業者とどのような取引を行うのか不明瞭なことがあり、トラブルが発生することが多いです。
そこで、官公庁は、「オンライン旅行取引の表示に関するガイドライン」を作成し、オンライン旅行取引事業者等のサイトにおいて、以下の事項を表示するよう義務付けました。
(1)オンライン旅行取引事業者等に関する基本情報 (2)問合せ先に関する事項 (3)契約条件に関する事項 |
また、オンライン旅行取引事業者は、契約が締結された後、上記(2)及び(3)の各事項を記載した電子メールを旅行者に送信することや、サイト上で上記(2)及び(3)の各事項を確認できる画面を設けること等の措置を講じることが望ましいとされています。
〇公正競争規約による広告規制
旅行業公正取引協議会は、「募集型企画旅行の表示に関する公正競争規約」を定めていますので、参加事業者は、この公正競争規約を遵守する必要があります。
たとえば、「当社だけ」、「最高級」、「超豪華」等優位性又は最上級を意味する用語は、その内容が客観的、具体的事実に基づくものであり、かつ、その事実を併せて表示する場合にのみ使用することができると定められています(8条1号)。
〇景品表示法による広告規制
(1)景品表示法の規制概要
景品表示法は、全ての商品・サービスについて適用されるので、当然、旅行業界の広告も、景品表示法による規制を受けることになります。景品表示法は、実際のものよりも著しく優良であることを示す表示(優良誤認表示)や、実際のものよりも著しく有利であることを示す表示(有利誤認表示)を禁止しています。これに違反すると、消費者庁等から、措置命令や課徴金納付命令を受けることになります。
(2)事例紹介:株式会社豆千待月に対する措置命令(平成26年10月23日)
以下では、実際の違反事例として、株式会社豆千待月に対する措置命令(平成26年10月23日)をご紹介します。この事案では、旅館の広告について、温泉と料理に関する記載が問題となりました。
ア 「温泉」という表示について
株式会社豆千待月は、自社の運営する旅館の貸切浴場について、「貸切露天風呂 当館の貸切露天風呂は1300mの地下より湧き出る良質な温泉。」等と記載することにより、あたかも、当該浴場における温水が、温泉であるかのように示す表示をしていました。しかし、実際には、当該浴場における温水は、温泉法2条1項に規定する温泉ではなく、水道水を加熱したものでした。 |
温泉法2条1項は、「温泉」を、地中から湧出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガスで、一定の温度又は物質を有するものと定義しています。水道水を加熱しただけの温水は、温泉法の定義する「温泉」にはあたりません。景品表示法と温泉法は別の法律ではあるものの、広告で「温泉」という記載をする場合は、温泉法の定義を満たしているか確認する必要があります。
イ 「和牛」という表示について
株式会社豆千待月は、自社の運営する旅館の宿泊プランについて、「柔らかくてジューシーな地元和牛の知多牛のステーキ」と記載することにより、あたかも、当該宿泊プランの利用者に提供する料理に和牛を使用しているかのように示す表示をしていました。しかし、実際の料理に使用されていたのは、農林水産省の定めたガイドラインにおける和牛の定義に該当しない牛肉でした。 |
「和牛」や「黒豚」という表示については、農林水産省の定めた「和牛等特色ある食肉の表示に関するガイドライン」を遵守して行う必要があります。ほかにも、食品表示については、消費者庁が「メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について」という資料を公表していますので、これを遵守することが必要です。
〇まとめ
以上の通り、旅行業界においては、特有の広告規制がたくさん存在します。また、景品表示法違反かどうかを判断する際にも、温泉法や食品に関するガイドライン等、他の業界ではそれほど意識しない法令等にも注意を向ける必要があります。
旅行者は、多くの場合、旅行のために仕事を休み、期待に胸を膨らませて旅行に参加しています。その旅行先で、実際のサービス内容が抗告内容と異なる等のトラブルがあれば、クレームや炎上にも発展しやすいといえるでしょう。
旅行業界の広告に関するご相談は、ぜひこの分野に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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