不実証広告規制と景表法コンプライアンス
目次
1 はじめに
景品表示法は、事業者が、商品やサービスの内容について、実際のものよりも著しく優良、又は、他社のものよりも著しく優良であることを示す表示(優良誤認表示)を行うことを禁止しています。
そして、消費者庁等は、「この表示は優良誤認表示かもしれないけど、資料がないから分からない」という場合、事業者に対し、その表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を命じることができます。事業者が合理的な根拠を示す資料を提出できなかった場合、その表示は優良誤認表示とみなされてしまいます。これを不実証広告規制といいます。
では、どのような資料であれば「合理的な根拠」であると認められるのでしょうか。その具体的な考え方は、消費者庁がまとめた「不実証広告ガイドライン」にまとめられています。つまり、不実証広告ガイドラインの内容を理解することにより、「広告表示を行う前にどのような根拠資料を揃えておくべきか」を押さえることができ、景表法コンプライアンスの向上につながります。
2 不実証広告規制における「合理的な根拠」の提出
事業者は、消費者庁等から、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を明示された場合、15日以内にその資料を提出しなければなりません。正当な事由がある場合には、提出期限の延長が認められますが、そのハードルは非常に高いです。不実証広告規制において、事業者は、表示をする段階で資料を備えておかなければならず、上記の15日という提出期限は、備えていた資料を提出用にまとめるための期間として設定されています。つまり、この15日のうちに、新たな調査や実験等を行うことは、そもそも予定されていないのです。したがって、「実験や調査に時間がかかる」というのは、提出期限延長の正当な事由にはなりません。
そして、期限内に「合理的な根拠」を提出できなかった場合、優良誤認表示であるとみなされて措置命令が出されます。また、課徴金納付命令においても、優良誤認表示であることが推定されます。
3 「合理的な根拠」の判断基準
不実証広告ガイドラインによれば、不実証広告規制において「合理的な根拠」と認められるためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
①提出資料が客観的に実証された内容のものであること ②表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること |
(1)①提出資料が客観的に実証された内容のものであること
提出資料が客観的に実証された内容のものであるといえるためには、次のいずれかに該当するものでなければありません。
㋐試験・調査によって得られた結果 ㋑専門家、専門家団体もしくは専門機関の見解または学術文献 |
ア ㋐試験・調査によって得られた結果
試験・調査によって得られた結果を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合、当該試験・調査の方法は、表示された商品・サービスの効果、性能に関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施する必要があります。たとえば、以下のような試験・調査です。
【例】 |
消費者の体験談やモニターの意見等の実例を収集した調査結果を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合には、無作為抽出法で相当数のサンプルを選定し、作為が生じないように考慮して行うなど、統計的に客観性が十分に確保されている必要があります。
たとえば、平成20年にカビの防止等を標榜する商品の表示について優良誤認表示であると判断された事例では、事業者が提出した資料の中にモニター調査結果が含まれていましたが、このモニター調査は、社員等の利害関係人が含まれている等の問題があったため、統計的に客観性が十分に確保されているとは認められませんでした。
イ ㋑専門家、専門家団体もしくは専門機関の見解または学術文献
以下のいずれかでなければなりません。特異な専門家等による特異な見解を資料として提出しても、客観的に実証されたとはいえません。
・専門家等が、専門的知見に基づいて当該商品・サービスの表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの ・専門家等が、当該商品・サービスとは関わりなく、表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの |
(2)②表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること
提出資料自体は客観的に実証された内容のものであっても、表示された効果、性能が提出資料によって実証された内容と適切に対応していなければ、当該資料は、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められません。なお、ここでいう「表示された効果、性能」とは、表示全体から一般消費者が認識する効果、性能であることに注意が必要です。表示全体から一般消費者がどのような認識を持つかをまず検討し、その認識と適切に対応する根拠資料が必要だということです。
たとえば、以下のような場合は、表示から受ける一般消費者の認識と提出資料によって実証された内容が適切に対応しているとはいえず、優良誤認表示であるとみなされ、措置命令が出されてしまいます。
【例1】 食べるだけで1か月に5kgの減量効果が期待できるとの認識を一般消費者に与えるダイエット食品。 事業者から提出された専門家の見解は、当該食品に含まれる主成分の含有量、一般的な摂取方法及び適度の運動によって脂肪燃焼を促進する効果が期待できることについて確認したものにすぎず、食べるだけで1か月に5kgの減量効果が得られることを実証するものではなかった。 したがって、表示から受ける一般消費者の認識と提出資料によって実証された内容が適切に対応しているとはいえない。 |
【例2】(平成26年の措置命令) 商品から放出される二酸化塩素が、生活空間において、ウイルス除去等の効果があるとの認識を一般消費者に与える空間除菌グッズ。 事業者から提出された資料は、密閉空間における試験結果であり、密閉されていない生活空間においてウイルス除去等の効果があることを実証するものではなかった。 したがって、表示から受ける一般消費者の認識と提出資料によって実証された内容が適切に対応しているとはいえない。 |
4 まとめ
以上の通り、不実証広告ガイドラインで求められている「合理的な根拠」は、かなり厳密なものになります。しかし、逆に言えば、不実証広告ガイドラインの内容を理解し、「合理的な根拠」となる調査や実験等を行うようにしておけば、貴社の景表法コンプライアンスは飛躍的に向上します。景品表示法違反にならないだけでなく、一般消費者の期待を裏切ることが無くなりますので、炎上対策にもなります。
広告表示を含めたコンプライアンス体制についてのご相談は、ぜひこの分野に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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