令和5年景品表示法改正の概要
目次
1 はじめに
令和5年5月17日、景品表示法の改正法が公布されました。施行日は未定ですが、公布から1年半以内に施行されることになっていますので、令和6年中には、景品表示法の改正法が施行されることになります。
今回の改正事項を大きく分けると、事業者の自主的な取組を促進するための改正、違反行為に対する抑止力を強化するための改正、円滑な法執行の実現に向けた各規定を整備するための改正、の3つです。今後の実務に与える影響も大きいと思われます。
そこで、本記事では、令和5年景品表示法改正の概要を解説します(なお、本記事は、令和5年12月14日時点の情報に基づくものです)。
2 事業者の自主的な取組を促進するための改正事項
(1)確約手続の導入
これまで、景品表示法違反の疑いがあった場合、行政庁としては、措置命令を行うか、行政指導を行うかの二択しかありませんでした。また、意図せずに景品表示法違反を行ってしまった事業者の中には、違反発覚後に自主的に早期是正や再発防止策を講ずる事業者もいましたが、そのような自主的な取組を加味する制度は存在しませんでした。そのため、これまでは、事業者が違反発覚後に自主的な取組を行う法的なモチベーションがありませんでした。
そこで、事業者が自主的に一定の措置を講じた場合、景品表示法違反行為を認定せず、措置命令や課徴金納付命令を課さないことを確約する制度が導入されました。これを、確約手続といいます。確約手続の具体的な流れは、以下の通りです。
①通知 ②是正措置計画の作成・認定申請 ③是正措置計画の認定 |
(2)課徴金制度における返金措置の弾力化
事業者が優良誤認表示又は有利誤認表示を行った場合、課徴金納付命令が課されることになります。もっとも、事業者が、消費者に対して一定の要件を満たす返金措置を行った場合、その返金額分が、課徴金額から減額されます。しかし、この返金措置は、金銭を交付する方法に限られており、電子マネー等による返金は認められていませんでした。そのため 非常に使い勝手が悪く、これまでほとんど実施されていませんでした。
そこで、今回の改正では、金銭を交付する以外の方法による返金措置も認めることにしました。具体的には、電子マネー等による返金が想定されています。電子マネー等による返金が認められることで、事業者にとっては返金時の振込手数料の負担がなくなるため、返金措置を利用しやすくなります。
3 違反行為に対する抑止力を強化するための改正事項
(1)課徴金算定の基礎となる売上額の推計
事業者に課される課徴金の金額は、課徴金対象行為に係る商品等の売上額によって決まります。しかし、事業者の中には、課徴金対象行為に係る商品等の売上額に関するデータや帳簿書類がそろっていないケースもありました。
そこで、このようなケースでも行政庁が適切な課徴金を算定できるよう、売上額を推計できるように改正されたのです。具体的には、事業者が、課徴金の計算の基礎となる売上額等について、行政庁から報告を求められたにもかかわらずその報告をしないときは、他の資料を用いて、売上額を合理的な方法により推計できることになりました。
(2)違反行為を繰り返す者に対する課徴金の額の加算
課徴金の額は、上述のように売上額の3%です。事業者の中には、違反行為を繰り返す者もおり、そのような事業者は、売上額の3%の課徴金を支払ってもなお違反行為を行う動機があったということになります。すなわち、売上額の3%の課徴金が、抑止力になっていなかったといえます。
そこで、違反行為を繰り返す事業者に対しては、課徴金の額を、引き上げることにしました。具体的には、基準日から10年以内に課徴金納付命令を受けたことがあり、かつその課徴金納付命令を受けた日以後に課徴金対象行為をしていた事業者に対する課徴金の金額は、売上額の4.5%に引き上げられました。ここでいう基準日とは、㋐報告徴収等(25条1項)を受けた日、㋑資料提出の求め(8条3項)を受けた日、㋒弁明の機会の付与の通知(8条6項3号)を受けた日、のうち、最も早い日のことをいいます。
(3)直罰規定の導入
これまで、不当表示を行った事業者に対しては、まず措置命令が行われ、この措置命令に従わなかった場合に初めて刑事罰が適用されることになっていました。しかし、事業者の中には、故意に不当表示を行い、措置命令にだけ従うという悪質な者がいました。
そこで、一定の場合には、措置命令を挟むことなく、いきなり刑事罰を適用できるような改正が行われました。いわゆる直罰の導入です。具体的には、故意に、優良誤認表示又は有利誤認表示を行った者に対しては、いきなり100万円以下の罰金が適用される可能性があります。
4 円滑な法執行の実現に向けた各規定を整備するための改正事項
(1)適格消費者団体による開示要請規定の導入
適格消費者団体は、事業者が優良誤認表示又は有利誤認表示を現に行い又は行うおそれがあるとき、当該事業者に対し、当該表示の差止等を請求できることができます。しかし、この差止請求が認められるためには、当該表示が優良誤認表示又は有利誤認表示であるという証拠が必要です。特に優良誤認表示の場合、適格消費者団体が証拠を揃えるのがかなり大変でした。
そこで、適格消費者団体の差止請求の実効性を確保するための改正がなされました。すなわち、適格消費者団体は、事業者が現に行う表示が優良誤認表示に該当すると疑うに足りる相当な理由があるときは、当該事業者に対して、表示の根拠資料の開示を要請できるようになりました。事業者は、この開示要請に応じる努力義務を負います。もっとも、あくまで努力義務ですので、開示要請に応じなかったとしても、罰則があるわけではありません。
(2)外国執行当局への情報提供
海外の事業者に対しても十分な執行を行うためには、外国執行当局の協力が必要です。そして、外国執行当局と協力するためには、我が国から外国執行当局への情報提供が不可欠です。
そこで、外国執行当局に対し、当局の職務の遂行に資すると認める情報を提供することができる旨の規定が新設されました。
(3)送達規定の整備・拡充
これまでは、景品表示法における措置命令等をどのように送達するかという規定がありませんでした。そのため、事業者が国外に逃亡した場合、措置命令等を円滑に行えなくなるリスクがありました。
そこで、送達規定が整備・拡充されることになりました。
5 まとめ
以上が、令和5年景品表示法改正の概要です。特に、確約手続については、景品表示法違反発覚後に事業者が取るべき対応に大きな影響を与えると考えられます。今後、運用基準の公表も予定されており、目が離せません。景品表示法に関する最新の動向は、ぜひこの分野に詳しい弁護士にお尋ねください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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