広告における二重価格表示
目次
1 二重価格表示とは
二重価格表示とは、事業者が自己の販売価格に当該販売価格よりも高い他の価格(比較対照価格)を併記して表示するものをいいます。二重価格表示の内容が適正であれば、一般消費者の選択や事業者間の価格競争の促進に資するため、何ら問題はありません。しかし、二重価格表示の内容が適正でない場合は、一般消費者に、販売価格が安いという誤った認識を与えることになるため、不当表示に該当するおそれがあります。
二重価格表示が不当表示に該当するかどうかを検討するに際しては、消費者庁が公表している「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」というガイドラインが大変重要ですので、以下では同ガイドラインに沿って解説します。
2 二重価格表示についての基本的考え方
(1)同一ではない商品の価格を比較対照とする場合
同一ではない商品の価格との二重価格表示が行われる場合、その価格差については、商品の品質等の違いも反映されています。そのため、二重価格表示で示された価格差のみをもって販売価格の安さを評価することが難しく、不当表示に該当するおそれがあります。
なお、ここでいう商品の同一性は、銘柄、品質、規格等からみて同一とみられるか否かにより判断されます。
(2)比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合
比較対照価格については、事実に基づいて表示する必要があります。比較対照価格に用いる価格が虚偽のものである場合には、不当表示に該当するおそれがあります。
また、過去の販売価格や競争事業者の販売価格等、それ自体は根拠のある価格を比較対照価格に用いる場合でも、当該価格がどのような内容の価格であるかを正確に表示する必要があります。比較対照価格に用いる価格についてあいまいな表示を行う場合には、不当表示に該当するおそれがあります。
3 類型別 二重価格表示のポイント
以上の基本的な考え方をもとに、以下では二重価格表示の類型ごとに、ポイントを解説していきます。
(1)過去・将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示
ア 過去の販売価格を比較対照価格とする場合
〈例〉
・「期間限定セール! 当店通常価格1000円 → セール価格600円」
このように、期間限定のセールで販売価格を引き下げる場合に、セール前の通常価格等の過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示がしばしば見られます。このとき、過去の販売価格としてきちんとしたものを表示しないと、不当表示に該当するおそれがあります。
過去の販売価格を表示するに際しては、以下の3つのポイントを押さえるようにしてください。
①セール直前の8週間で4週間以上販売された価格であること
②通算して2週間以上販売された価格であること
③セール直前の2週間以内に販売された価格であること
イ 将来の販売価格を比較対照価格とする場合
〈例〉
・「今だけお試し価格5000円! ●月●日以降は1万円になります。」
このように、期間限定のセールで販売価格を引き下げる場合に、セール前の通常価格等の過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示がしばしば見られます。このとき、過去の販売価格としてきちんとしたものを表示しないと、不当表示に該当するおそれがあります。
過去の販売価格を表示するに際しては、以下の3つのポイントを押さえるようにしてください。
①実際に販売することのない価格を表示しないこと
②将来の販売価格として表示した以上は、その価格で一定期間は実際に販売すること
(2)希望小売価格を比較対照価格とする二重価格表示
〈例〉
・希望小売価格1000円 → 当店販売価格800円!
このように、メーカー等の希望小売価格を比較対照価格として表示する場合は、以下の点に注意しないと、不当表示に該当するおそれがあります。
・メーカー等が実際に公表している希望小売価格であること
(3)競争事業者の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示
〈例〉
・「家電量販店A様販売価格30万円 → 当店販売価格20万円!」
このように、自社販売価格の安さを強調するために、競争事業者の販売価格を比較対照価格として表示する場合があります。このとき、競争事業者の販売価格としてきちんとしたものを記載しないと、不当表示に該当するおそれがあります。
具体的には、以下の点に気を付けてください。
①競争事業者の最近時の販売価格を正確に調査すること
②特定の競争事業者の販売価格と比較する場合には、当該競争事業者の名称を明示すること
(4)他の顧客向けの販売価格を比較対照価格とする二重価格表示
〈例〉
「ダイヤモンドピアス 非会員価格10万円 → 会員価格8万円!」
このように、顧客の条件(会員や組合員であるか否か等)に応じて、販売価格に差が設けられている場合に、特定の条件を満たす顧客向けの販売価格について、その安さを強調するために、他の顧客向けの販売価格を比較対照価格として表示する場合があります。このとき、他の顧客向けの販売価格としてきちんとしたものを記載しないと、不当表示に該当するおそれがあります。
具体的には、以下の点に気を付けてください。
・顧客の条件の内容について、実際と異なる表示やあいまいな表示を行わないこと 〈先ほどの例でいうと…〉
ピアスを購入した人は誰でも容易に会員になることができ、非会員価格で販売されることがほとんどないのであれば、不当表示に該当するおそれがあります。
4 最後に
以上の通り、町中でよく見かける二重価格表示も、実は不当表示に該当するおそれがあり、専門的な見地から検討する必要があります。二重価格表示をご検討の事業者様は、ぜひ事前に、景品表示法に精通した弁護士にご相談ください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
最新記事 by 弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ (全て見る)
- 医療機関向け法務相談サイトがオープンしました - 2024年10月2日
- R6.7.26「第7回 企業不祥事に関する定期情報交換会」の開催 - 2024年7月27日
- “働きがいも経済成長も“を目指す企業さまを対象に「SDGs労務コンサルティングプラン」をリリース! - 2022年10月28日
- グリーンウォッシュと広告規制
- 旅行業界が注意すべき広告規制
- ステルスマーケティング規制の概要(令和5年10月1日施行)
- 景表法における景品類の認定と取引付随性について
- おとり広告(景品表示法)の法的注意点
- 景品表示法における管理措置指針の概要と社内体制整備について
- No.1表示を行う際の景表法上の留意点
- 有利誤認表示(景品表示法)とは
- 広告における不当表示
- 広告における打消し表示
- 令和5年景品表示法改正の概要
- コンプガチャの禁止とその対策
- ライブイベントやコンサートの座席に関する不当表示とその予防策
- 広告における二重価格表示
- 景品規制における法的留意点
- 期間限定表示に関する景表法上の留意点
- 景品類の認定と取引付随性
- ステマ規制で初の行政処分
- 不実証広告規制と景表法コンプライアンス
- 公正競争規約の意義と内容