取締役の報酬について
目次
取締役報酬のあり方は重要な問題
取締役の報酬のあり方は、お手盛りによる高額化の恐れがある一方、企業の業績を高めるインセンティブにもなり得るため、近時、各国のガバナンスにおける重要論点の一つとなっています。日本の取締役報酬は、諸外国に比べ、まだまだ高額ではないといわれており、業績を高めるインセンティブをうまく付与すべきとの声があります。その一方で、海外機関投資家を中心に、その報酬決定のプロセスの透明化を求める声も強まっています。
そこで、この記事では、取締役報酬に関する法的問題について解説します(以下は、2024年5月13日時点の記事となります)。
取締役報酬の種類と決定方法
確定額報酬(月額〇〇〇万円等、金額が確定している報酬)
取締役の報酬については、本来、対象取締役と株式会社間の契約によって定められることになります。しかしながら、取締役(代表取締役を含む)どうしの馴れ合いによって、報酬額をお手盛りする危険があります。
そこで、会社法は、取締役の報酬については株主自身に決めてもらうことにしました。具体的には、定款又は株主総会の決議によってこれを定めなければなりません(会社法361条1項。但し、指名委員会等設置会社の取締役は例外・404条3項。)株式会社の多くは、取締役の報酬を株主総会決議によって定めています。
もっとも、取締役にとって、プライバシー等の理由からそれぞれの報酬額が明らかになることは避けたいところです。そこで、実務上は、株主総会においては、取締役全員の報酬総額の最高限度のみを決議し、その枠内で個人別の報酬額の決定を取締役会に一任する場合が多く、判例はこの方法をお手盛りの危険は避けられるとして適法としています(最判昭和60年3月26日)。
また、一度株主総会で上限額が決まれば、その後上限額を変更しない限り、改めて総会決議をする必要はないと解されています。
さらに、実務的には、一任された取締役会は、その決定を代表取締役等の特定の取締役に再一任することが多く、判例はこれも適法としています(最判昭和31年10月5日等)。そこで、取締役の個人別報酬額の決定を代表取締役等の取締役に再一任する場合には、取締役会議事録においては、必ず「再一任」された旨、明記しておくようにしましょう。
なお、株主総会の決議があれば、原則として高額の取締役報酬も有効ですが、自らの報酬を不当に高額に決定したような場合には、会社に対する任意懈怠責任を問われるおそれもありますので、ご注意ください。
不確定額報酬
取締役の報酬を会社の業績に応じて変動させることができれば、取締役が会社の業績を高めようとするインセンティブとなり得るでしょう。
ただし、額が事前に確定していない報酬(不確定額報酬)は、その具体的な算定方法を定款で定めていないときは、株主総会の決議によって定める必要があります(会社法361条1項2号)。
この場合も、株主総会では、取締役全員についてその上限を定めれば足ります(例:取締役全員について、会社の営業利益の〇%を上限とする)。
エクィティ報酬
また、取締役の報酬として、株式または新株予約権(ストック・オプション)を与えることも、取締役が株価を上げるために会社の業績を良くしようとするインセンティブとなり得ます。
もっとも、株式を取締役報酬とした場合、交付してすぐに売却されてしまうとインセンティブの意味がないでしょう。そこで、実務的には、会社と取締役間の契約によって、一定の期間、交付する株式を譲渡制限にしたり、一定期間経過後に株式を交付するといった内容にすることが多いでしょう。なお、上場企業の場合、信託銀行を受託者として信託を設定し、会社が定めたスキームに従って取締役に株式を交付する形式(株式交付信託)をとることが多いです。
非金銭報酬
エクィティ報酬を除く金銭でない報酬(社宅等)を与える場合、定款に定めない限り、その具体的な内容を株主総会で定める必要があります(会社法361条1項6号)。
使用人兼務取締役の使用人給与分
取締役が従業員を兼務する場合、会社から受ける収入は、取締役の職務執行の対価として受ける部分と従業員として受ける部分があることになります。
実務では一般的には、株主総会において、使用人給与分は含まれていないことを明示したうえで、取締役報酬の決議を行っています(最判昭和60年3月26日を参照)。
定款または株主総会に定めのない場合
定款で定めておらず、株主総会の決議を超えて(又は決議をとらずに)支給した取締役報酬は無効です。そのため、中小企業のオーナーである代表取締役が一人で取締役報酬を決めていたところ、対立した取締役が、過去に支給された報酬の返還を求められるといった紛争が生じやすい類型でもあります。
ただし、上記報酬の支給について、株主全員の同意がある場合、お手盛り防止の目的は達成できることから、当該支給は有効となります。また、ほとんどの株式を有する株主が同意したような場合は、信義則によって、取締役が当該報酬の返還を認めない判例もあります。なお、後日、株主総会で追認すれば、過去に支給した報酬はすべて有効となり得ます。
任期中の減額の可否
いったん決まった報酬については、任期中に対象取締役の同意なく報酬を不支給や減額することはできません(最判平成22年3月16日等)。定款または株主総会の決議によって決められた報酬は、会社と取締役間の契約内容となるからです。
ただし、取締役会の内規や慣行によって、あらかじめ取締役の報酬額が役職ごとに決められており(代表取締役社長月額〇〇〇万円、非常勤取締役月額〇〇万円等)、対象取締役が、その内規や慣行を了知しながら取締役に就任した等、その内規や慣行に伴い報酬等も減額されることに黙示に同意しているといえる場合には、任期中に減額が認められることもあります。
株主総会
株主総会における説明義務
取締役の報酬について株主総会に議案を提出した取締役は、株主が上記議案の必要性・相当性を判断しやすくするため、相当とする理由を説明しなければなりません(会社法361条4項)。
報酬等の決定方針の決定
公開大会社であって有価証券報告書提出義務を負う監査役会設置会社、または監査等委員会設置会社は、取締役の個人別の報酬の決定を取締役会に委任する場合、報酬等の決定方針を取締役会で定めなければなりません(会社法361条7項)。
ただし、取締役の個人別の報酬等の決定を定款または株主総会で行う場合は、その必要はありません(会社法361条7項但し書き。取締役会で定めるべき報酬等の決定方針の内容は会則98条の5参照)。
なお、報酬等の決定方針を定めるべき会社において、当該方針を定めなかったり、これに違反した場合、当該取締役の個人別の報酬決定は無効となります。
報酬等の開示
会社法上の開示義務
公開会社では、取締役その他の会社取締役の報酬は、事業報告による開示を要します(会社法435条2項等)。令和元年改正により、開示の充実が図られてます。
金商法上の開示義務
上場会社等、金商法により、有価証券報告書の提出義務を負う会社は、報酬額1億円以上の取締役について、個人別の報酬額の開示が義務付けられています。
最後に
以上の通り、取締役報酬について、定める場合の手続きと注意点、開示範囲等について説明させていただきました。冒頭にも説明させていただきましたように、取締役の報酬はガバナンスの最も重要な課題の一つとなってきています。
取締役の報酬についてお悩みの企業様は、この分野に詳しい弁護士にご相談ください。
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