Q.従業員に横領されたお金を回収する方法はありますか?
Question
経理を担当していた従業員が自主退職した後、会社のお金を200万円横領していたことが発覚しました。そこで、まだ退職金500万円を支払っていなかったので、この従業員の同意を得ずに、一方的に相殺して、支給することはできますか?
Answer
残念ながら、全額払の原則に反し、認められません。
賃金は源泉徴収、社会保険料の控除などを除いて全額を支払われなければならないからです(労働基準法第24条「全額払の原則」)。でも、会社としては、当然、横領されたお金を回収しなければなりませんよね。では、何かよい方法はないのでしょうか?
まず、①一番確実かつ簡単なのは、横領した従業員にその場で退職金をいったん支給し、受領証をもらったうえで、賠償金相当額を返還してもらう方法です。これなら、全額払の原則に反しません。
また、②横領した従業員との間で相殺合意をするという方法もあります。相殺は全額払の原則に反するものの、例外的に、その従業員が相殺に同意し、「同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」には相殺することができるといわれています(最判平成2年11月26日参照)。
そこで、会社としてはのちに同意の有効性を争われないように、必ず、どの債権と、どの時期の賃金・退職金を相殺するのかを会社がその従業員に十分に説明し、同意書を作成するようにしてください。
なお、上記質問のような場合にそなえて、③就業規則に、退職金の不支給・減額の条項を定めておくことをお勧めします。その場合も、「懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。」(平成25年3月厚生労働省のモデル就業規則参照)と定めてしまうと、上記質問のように自主退職した場合に、退職金を不支給とすることができません。そこで、「懲戒解雇となった者、又は、退職後に懲戒解雇事由に該当する行為があったと判明した者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。」と定めるようにするとよいでしょう。
なお、退職金を全部不支給とすることができるか否かに関しては、判断がわかれるところでもあります。
ですので、従業員の横領問題に関してお悩みの方がございましたら、具体的な対処方法も含め、この分野に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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