代表取締役の解任について

第1 取締役と代表取締役について

 株式会社を設立した場合には、会社法上、1人又は2人以上の取締役を置かなければならないとされています(会社法326条1項)。取締役会設置会社の場合は、3人以上の取締役を置くことが必要です(会社法331条5項)。会社の一機関として設置された取締役が株式会社を代表して活動することになりますが、特に取締役の中から代表取締役を選定した場合(会社法349条3項)には、選定された代表取締役が株式会社を代表するとされています(同条1項)。
 なお、代表取締役も取締役と同様に、取締役と会社の間に利害関係が生じてしまった場合に、あくまで取締役として会社の利益となるように行動しなければならない忠実義務(会社法355条)及びその地位にある者が通常負うべき注意義務に従って行動するべきであるという善管注意義務(会社法330条、民法644条)を負っていることに変わりはありません。

 

第2 代表取締役の解任について

1 取締役の退任と変更登記

 前提として、取締役の任期は原則2年とされていますが、定款又は株主総会の決議によって、任期を2年未満に短縮することも可能です(会社法332条1項)。非公開会社の場合は任期を10年まで伸長することが可能とされています(同条2項)。定められた任期が満了し、特に再任されることもなければ、その時点をもって当該取締役は退任扱いとなります。
 なお、役員の任期が満了した場合には、役員変更の登記が必要となる点には注意が必要です。役員変更の登記は、登記の事由が生じたときから2週間以内にしなければならないとされており(会社法915条1項)、この登記を怠った場合、過料が課される可能性(会社法976条1号)もありますので、スピーディーな対応が必要になるといえるでしょう。

2 代表取締役の解任と解職

 代表取締役の解任と似た概念として、代表取締役の「解職」があげられます。代表取締役を解任した場合には、取締役としての地位そのものが失われることになりますので、解任された代表取締役は、以後取締役としても活動することはできません。
 他方、代表取締役の「解職」は、代表取締役の代表としての任を解くことを意味します。そのため、解職された代表取締役は、以後あくまで平取締役としての権限しか有しなくなるにすぎず、取締役としての地位そのものを失うわけではありません

3 代表取締役の解任手続き

 それでは、株式会社としてある者を代表取締役として選任した場合に、その代表取締役を解任することはできるのでしょうか。
 この点、会社と取締役とは、民法上の委任と同じ関係として扱われることから(会社法330条、民法643条~)、原則としていつでも株主総会の決議によって取締役を解任することが可能です(会社法339条1項)。このように、取締役の解任自体は、取締役がまだ任期中であったとしても株主総会決議を経ることによって実現することができますが、この解任に「正当な理由」がある場合を除いて、解任された取締役は会社に対して損害賠償請求をすることができるとされています(同条2項)
 仮に解任が不当なものだったとして裁判になってしまった場合、解任に「正当な理由」があったことは会社側が積極的に立証しなければなりません。代表取締役が解任されると、取締役としての地位そのものが失われることになりますので、解任に正当な理由が認められず、代表取締役から会社に対する損害賠償が認容された場合には、解任されていなければ代表取締役として受け取れたはずの役員報酬相当額が損害として認定されます。代表取締役として職務遂行できるはずだった任期が残っていればいる程、損害額が拡大するおそれがあるのです。
 このように、株主総会決議で多数を取ることができる状況にあるからといって、安易に代表取締役の解任を選択することにはリスクが伴うことに注意が必要です。「正当な理由」の存否は、当該代表取締役を解任するに至った経緯や解任理由を含む諸事情を考慮して判断されますので、代表取締役の解任の是非については、判断を下す前に一度専門家へ相談されることをおすすめします。

 

第3 おわりに

 ここまで代表取締役の解任について概要を説明してきました。会社法上、手続きに関する様々な規定が厳格に定められているため、会社としてどのような手続きを経れば良いのかお悩みになることも多いかと思います。安易に判断をしてしまい、後からその判断を巡って紛争が起こることは会社にとって避けるべき事態ですので、会社運営に関する手続きについて疑問がある場合には、是非早い段階で専門家へのご相談を検討してみてください。

 

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発行日:2021.03.04

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