取締役の紛争
目次
1 はじめに
会社が取締役に対し、他の取締役や株主との意見対立等をきっかけに、解任や一方的な役員報酬の減額・不払いといった措置をとる場合があります。
以下では、会社によるこのような措置に対して、取締役の方がとりうる法的手段について解説してきます。
2 不当解任に対する損害賠償請求
(1)株主総会決議と役員の地位
取締役や監査役、会計参与といった株式会社の役員については、株主総会決議によって選任されるとともに、同決議によっていつでも解任できることが定められています。
会社と役員の関係については委任に関する規定に従うとされているため、取締役はいつでも辞任できるとともに、株主の意向によりいつでも解任できるものとされ、辞任や解任にあたって一定の理由が要求されているわけではありません。
(2)損害賠償請求
もっとも、役員の地位に対する期待を不当に害することがないよう、解任について「正当な理由」がある場合を除き、役員は株式会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができることとされ、経済的保障が図られています。
取締役について「正当な理由」とは、当該取締役に経営を行わしめるにあたって障害となるべき状況が客観的に生じたことをいい、具体的には、取締役について違法行為・不正行為がある場合や、任務を著しく怠った場合(任務懈怠)、心身の故障により職務を遂行できない場合等が該当すると考えられています。
取締役による経営判断の失敗につき、任務懈怠として「正当な理由」に該当するといえるか否かは争いがありますが、そもそも取締役の経営判断はリスクを伴うのが通常であるため、結果的に株式会社に損害を与える結果となっても、当該判断が誠実かつ合理的な範囲でなされた場合には任務懈怠にならないとの考えが有力です。
株式会社に対して賠償を請求できる「損害」としては、当該役員の残存任期に対応する役員報酬相当額が一般的ですが、それ以外についても、取締役が解任されることなく任期を満了していたならば得られたといえる利益については、「損害」として認められる余地があります。
3 未払報酬等の支払請求
取締役について、報酬額が適法に定められた場合には、報酬額決定にあたって付された条件に従って報酬額を変更するような場合を除き、会社が一方的に報酬を減額したり、不払いとすることは認められません。
従って、会社から一方的に報酬の減額等をされた場合でも、取締役としては未払報酬を請求することができます。
最高裁判所の平成4年12月18日判決では、株式会社において定款又は株主総会決議によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は会社と取締役の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しないかぎり、報酬請求権を失うものではなく、この理は、取締役の職務内容に著しい変更があることを前提に総会決議がされた場合でも異ならない旨判示されています。
4 最後に
以上のように、会社が役員を解任すること自体は、適切な理由の有無にかかわらず、決められた手続さえ履践すれば認められるものの、正当な理由のない解任に対しては、元役員による損害賠償請求が可能です。
また、契約内容の一方的な変更にわたる報酬減額・不払い等に対しては、未払役員報酬等の支払請求をすることができます。
いずれについても、株式会社に対する請求の内容・可否・方法を検討する上では、専門的知見が不可欠といえます。
もし「突然役員を解任されてしまった」「一方的に報酬等の支払を打ち切られた」といったことでお困りであれば、企業法務に詳しい弁護士に相談されるのが良いでしょう。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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