取締役の責任(利益相反について)
目次
1 はじめに
株式会社と取締役との利益が相反する取引について会社法上どのような規制があるのでしょうか。また、そのような取引によって会社が損害を被った場合、誰が責任を負うことになるのでしょうか。この記事では、取締役と会社の利益相反取引について解説します。
2 利益相反取引に関する規制
会社法は、会社に不利で取締役に有利な可能性のある取引として、直接取引(会社法356条1項2号)と間接取引(会社法356条1項3号)の2つの取引を規制しています。
⑴ 直接取引とは
直接取引とは、取締役が自己または第三者のために株式会社と行う取引のことです。例えば、取締役が自己の所有する不動産を株式会社に売却する場合や、取締役が取引の相手方である他社の代表を兼任している場合が典型例です。
ただし、類型的に見て、株式会社に格別の不利益を生じないものについては、利益相反取引の規制にかからないものとされています。たとえば、無利子・無担保で取締役が株式会社に貸し付けを行う場合や、取締役が株式会社に財産を贈与する場合は、類型的に株式会社を害する恐れがないため、利益相反取引の規制にはかかりません。
⑵ 間接取引とは
間接取引とは、会社と第三者間の取引であって、外形的・客観的に(直接取引と同程度に)会社の犠牲において取締役に利益が生ずるもののことです。たとえば、株式会社が取締役の債務を保証する場合や、取締役が株式の100%を有する会社の債務を保証する場合などです。
直接取引、間接取引をしようとするときには、その取引について重要な事実を開示して、総株主の承認を得るか、取締役会設置会社については取締役会の、取締役会非設置会社は株主総会の承認が必要です。
さらに、取締役会設置会社においては、利益相反取引をした取締役は、その取引後、遅滞なく、その取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(会社法365条2項)。
3 利益相反取引の有効性
⑴ 直接取引の相手方との関係
取締役会等の承認を得ないで直接取引がされた場合、当該取引は株式会社と取締役の間では無効になります。しかし、利益相反取引を行った取締役から当該取引の無効を主張することはできません。会社からのみ取引の無効を主張できます。会社が取引を無効にするかどうか選べるということです。
⑵ 間接取引の相手方や直接取引の転得者との関係
間接取引の場合、株式会社との取引相手は第三者になります。また、直接取引においても、転得者の第三者が現れる可能性があります。このような第三者との関係では、取引の安全の観点から、善意の(利益相反取引であったことを知らない)⑵ 間接取引の相手方や直接取引の転得者との関係第三者を保護する必要があります。
判例(最判昭和43年12月25日)によると、会社は、当該取引が利益相反取引の要件に該当する事、取締役が法定の決議機関の承認を受けていないことについて第三者が知っている場合のみ取引の無効を第三者に主張できるとされています(有力な学説では、第三者が上記事項について知っている場合だけではなく、知らないことについて重大な過失がある場合にも、会社は取引の無効を主張できるとされています。)。
また、利益相反取引規制の趣旨は会社の利益を保護することにあるので、取引の相手方となった第三者は、当該取引の無効を主張することはできません。
4 取締役の責任
利益相反取引について法定の決議機関の承認を得ない場合はもちろん、承認を得た場合でも、取引により会社に損害が生じたときは、取締役の責任が生じ得ます(会社法423条1項)。
利益相反取引によって株式会社に損害が生じたときは、自己または第三者の為に会社と取引した取締役(直接取引の場合)、間接取引における会社と利益の相反する取締役のみならず、会社のため当該取引をすることを決定した取締役及び当該取引の承認決議に賛成した取締役は、その任務を怠ったことが推定され(会社法423条3項)、任務懈怠が無いことを主張立証しなければ損害を賠償する責任を負います。
自己の為に会社と取引をした取締役は、過失が無かった場合であっても、自己の責任を免れることはできません(会社法428条1項)。自らの利益の為に利益相反取引をした取締役は、過失の有無を問わず責任を負うべきものと考えられているからです。
5 おわりに
以上で、利益相反取引に関する概要を解説しました。個々の取引が利益相反取引に該当するか、利益相反取引を行うために取締役会や株主総会でどのような手続きを行えばよいのか等は個々の事案に即した判断が必要となります。
利益相反行為についてお困りの企業は、企業法務・会社法に詳しい弁護士に相談されるのがよいでしょう。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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