不動産賃貸経営における室内への立ち入りの可否
目次
1.はじめに
不動産賃貸経営を行うにあたり、もし室内で火の不始末や漏水、異臭騒ぎ等が生じれば、資産価値の低下につながりかねません。特に孤独死が生じた場合、多額の原状回復費用がかかる等、多大な損害を生じるおそれがあります。そのため賃貸経営者にとって、入居者が長期間不在の場合、室内が適切に使用されているのか危惧するところでしょう。
この点、賃貸契約書においても、「一か月以上不在にした場合は賃貸物件に立ち入ることができる」などといった条項を定めている場合が多いのではないかと思います。
しかしながら、たとえ上記条項を定めていたとしても、賃貸中の他人の住居に「正当な理由なく」無断で立ち入ることは、民事上不法行為として違法になるうえに、刑事上も住居侵入罪(刑法130条)に該当する可能性があります。
2.近時の判例
では、いかなる場合に「正当な理由がある」といえるのでしょうか。そこで、近時の判例を参照してみましょう。
【適法と判断された判例】
・入居者の携帯電話へ65回架電、7回居室への訪問を繰り返したものの一切応答がなかったため、家賃保証会社が室内状況確認のため居室へ立ち入った事案について、「入居者の安否が不明と言わざるを得ない中での状況確認のための緊急やむを得ない措置として違法性を欠く」とした判例(東京地判平成24年9月7日)。
【不法行為に該当し、違法と判断された判例】
・室内設備の修繕のために、賃貸人が修理業者とともに居室に無断で立ち入りをした事案について、「現代社会においてプライバシー権の重要性が一般に認知されていること、入居者が女性であること及び携帯電話等によって入居者に対して連絡をとることが可能な状況にあったこと等に鑑みると、入居者に連絡をとることなく立ち入ったことは、明らかに入居者に対する配慮に欠けた行為」として、不法行為を認めた判例(大阪地判平成19年3月30日)
・管理会社による室内への立ち入りについて、「無断で居室内に立ち入る行為が住居の平穏、居住者のプライバシーを害することは明らかである」としたうえ、「仮に、居室への立入りが居住者の安否を確認するためのものであるならば、居住者に対する事前の連絡があってしかるべき」として、事前連絡なしに「居住確認」「安全のため」と称して室内に立ち入ったケースにつき不法行為を認めた判例(東京地判平成22年3月2日)
3.実際の対応
上記判例に鑑みると、①郵便受け、電気、水道メーターの状況等を確認して、不在であることが合理的に疑われる場合において、②入居者及び連帯保証人に対し、架電、郵便等の方法により安否確認の連絡を複数回試みたうえで、③一定期間継続して応答がない、といった場合に限り、賃貸物件に立ち入っても例外的に違法と判断されるおそれは低いでしょう。
なお、後日、上記①から③の状況を立証できるように、不動産賃貸経営者の方で、郵便受け、電気、水道メーターの状況や安否確認の連絡を試みた事実、応答がない事実について、証拠を収集・保存しておくことが必要です。
不動産賃貸経営でお悩みの方は、この分野に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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