立退料を低く抑えるには
目次
立退料とは
借家関係における立退料とは、賃貸人が賃借人または転借人に対し、借家の立退きを求めるにあたって、賃借人または転借人の移転による不利益を補償する趣旨で支払われる金銭、その他の代替物をいいます。
ただし、この立退料という文言は、借地・借家関係では制度化されていません。
また、法律上定まった内容があるわけでもなく、借地借家法の条文上、立退料の概念の一端が認められたにすぎません。
具体的には、家主が明渡しを求める場合に、借地借家法28条において、「建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引替えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなけれ
ば、することができない。」(土地についても同法6条でほぼ同一の内容があります)と規定しているにすぎません。
このように立退料は、それ自体が正当事由を基礎付ける事実となるものではなく、正当事由を補完するものと解されています。
立退料の金額について
立退料が正当事由を補完するものである以上、立退料の支払義務及び具体的な金額は、正当事由の充足度との相関関係によって決まります。
すなわち、正当事由の充足度が100%の場合は、立退料を支払わずして立退きが認められることもあり得る一方で、正当事由の充足度が極めて低い場合には、いくら高額の立退料を申し出ても正当事由が具備されるということは通常ありません。
立退料の算定要素
立退料の算定要素
立退料を算定する際の要素ですが、基本的には、①「借家権価格」や②公共用地の取得に伴う損失補償基準等を参考にした「通損補償額」等を基礎としながら、③賃貸人側の必要性と④賃借人側の必要性を加味して算定されます。
借家権価格
ここでいう借家権価格は、借家人の損失がどのくらいであるのかを判定するためのもので、賃貸人から建物の明渡しの要求を受け、借家人が不随意の立退きに伴い事実上喪失することとなる経済的利益をいいます。
具体的な算定方法としては、「割合方式」や「差額賃料還元方式」がありますが、裁判上は、必ずしもいずれか1つの算定方法でなければならないものではありません。
通損補償額
「補償方式」と呼ばれるもので、具体的には、工作物補償(工作物の移設費等)、動産移転補償(引越代等)、営業補償(休業補償等)、借家人補償(家賃差額補償等)、移転雑費補償(仲介報酬等)などの要素が考えられます。
賃貸人側の必要性、賃借人側の必要性
裁判における最終的な立退料の額は、上記①「借家権価格」や②「通損補償額」等を基礎としながら、これに「正当事由の充足度」に応じた調整をして算定すべきものと考えられます。
この「正当事由の充足度」を測るものが、③賃貸人側の必要性と④賃借人側の必要性になります。
ですので、③賃貸人側の必要性は、大家側にとって立退料を低く抑えるために非常に重要な要素となります。
立退料を低く抑えるには
賃貸人側の使用の必要性を高める
上記のとおり、賃貸人側の使用の必要性は、大家側にとって立退料を低く抑えるために非常に重要な要素となります。
ですので、立退交渉をするにあたっては、できるだけ賃貸人側の必要性を高める事情の把握とそれを裏付ける資料の準備をしておきましょう。
有益な具体的事情としては、
・老朽化や耐震性能に問題があること
・具体的な再開発・建替計画と計画の実現可能性
・公益上のメリット等
が考えられます。
裏付ける資料を準備する
賃貸人の使用の必要性を裏付ける資料として、以下のものを準備することが考えられます。
・老朽化については耐震診断報告書
・耐震補強工事見積書と建替工事見積書
・具体的な再開発・建替計画については業者の計画図面・見積書
・他のテナントの立ち退き状況が分かる資料
・公益上のメリットについては、具体的には防火地域、木密地域不燃化特化、都市再生緊急整備地域等の地域指定がなされているのであればその事情、それを裏付ける資料として自治体が公開している指定地域図
更新拒絶時・解約申入時に資料を準備する
これらの資料はいつまでに準備すればよいのでしょうか。
正当事由は、借家の場合、更新拒絶通知時点で存在し、かつそれが期間満了時まで継続することが必要であると解されています。
ですので、基本的には、更新拒絶時または解約申入時には上記資料を準備しておきましょう。
なお、正当事由は、更新拒絶に際し具備することは要求されていますが、通知することまで要求されているわけではないことにご留意ください。
立退料を提案する時期及び提示額
正当事由は、借家の場合、更新拒絶通知時点で存在し、かつそれが期間満了時まで継続することが必要であると解されています。
ただし、立退料の申出についてはその後になされたものでも考慮されます。
ですので、基本的には、当初の解約申入れの正当事由の判断に、その後の立退料の申出があった事実が考慮されます。裁判実務上は、事実審の口頭弁論終結時までに立退料を申し出れば良いと思われます。
なお、立退料の鑑定を専門家に正式に依頼する場合、50万円から100万円以上の費用はかかるおそれがあります。
また、賃借人がすんなり出て行ってくれる場合もありますので、立退料の申出をするタイミングも考える必要があるでしょう。
立退料でお悩みの方は、是非一度、法律事務所瀬合パートナーズにご相談ください。
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