ベンチャー法務 ~会社設立時~
目次
1 スタートアップ企業
近年メディアでも取り上げられるスタートアップという言葉をご存じでしょうか。スタートアップとは,新しいビジネスモデルを開発して短期間で急激な成長で事業を展開する企業のことです。同じような言葉として,ベンチャー企業と呼ばれる企業があります。これは,新しい技術やアイデアを使って,消費者や他の事業者にサービスを提供したり商品を販売したりする企業のことです。ほとんど同じような意味に思えますが,スタートアップは,新しいビジネスモデルを提供するという特徴があります。脚光を浴びつつあるスタートアップですが,実際に会社を設立する場合,どのような準備が必要になるのでしょうか。以下で株式会社の設立ポイントを確認します。
2 株式会社設立に必要なポイント
(1)会社の重要事項の決定
会社設立にあたって定款や登記事項に定める必要があります。
ポイントとして,以下の項目を順に確認していきましょう。
ア 会社名(商号)
まずは会社名を決める必要があります。他の有名企業と混同する商号をつけてしまうと,商標権違反等になる危険があるので注意しましょう。株式会社設立では,会社名の前か後ろに株式会社を入れる必要があります。
イ 事業目的
事業目的は,何を事業として行う会社かを示すものになります。事業目的に記載していない事業を行うことは出来ませんので,今後事業を行う可能性がある内容は記載しておいた方がよいでしょう。
ウ 資本金
資本金とは,会社の事業を営むために出資する資金のことです。株式会社は最低額1円でも会社設立可能です。しかし,一般的に,資本金1円での会社設立は現実的ではなく,数か月程度の期間に純利益がなくても事業継続できるように数百万円程度を設立時の資本金額とする会社が多いです。
エ 事業年度
事業年度とは,決算をする区切りとなる一定の期間のことです。この決算の期末となる決算期をいつにするかは,企業により様々ですが,多いのは3月,9月です。3月決算が多いのは,法改正等公的な制度が3月を区切りとすることが多いからだと思われます。
オ 本店所在地
本店所在地とは定款や登記事項に定める会社の住所地のことです。事業活動をしている場所と一致させる必要はないので,自宅を本店所在地とすることも可能です。
カ 公告
公告とは,会社の情報公開のことです。公告方法は定款の記載事項で,登記事項です。公告方法として,官報,新聞,ホームページがあり,この中から選択することになります。
キ 機関設計
会社の機関とは,意思決定や業務執行の権限を持つ役員や委員会のことです。取締役,監査役といった役員,株主総会や取締役会が含まれます。機関設計では,これら機関の設置人数を決めることになります。株式会社では,取締役1名さえいれば会社設立可能です。
ク 会社の印鑑
会社の印鑑は,設立の手続きや設立後の業務で必要になります。事前に準備しておきましょう。
(2)会社設立の手続
ア 定款の作成
法人の登記申請には,会社の基本的な規則を記載した定款が必要になります。定款の作成から認証までは,以下のような流れで行います。定款には,「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」を記載します。「絶対的記載事項」は,記載漏れがあると定款が無効になるので,注意しましょう。
●絶対的記載事項
・商号
・事業目的
・本店所在地
・設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
・発起人の氏名及び住所
・発行可能株式総数
●相対的記載事項
・株式譲渡制限の設定
・取締役等の任期の延長
・株主名簿管理人の設定
・株式の発行数
・株主総会の通知と招集期間の短縮
・取締役会の設置など
イ 定款の認証
定款は,公証人に認証してもらわないと効力を生じません
定款の認証は,本店所在地を管轄する公証役場で行います。
ウ 登記申請
定款認証が終了後,会社の本拠地を管轄する法務局に登記申請する必要があります。
登記すべき事項は,基本的に定款に記載したものと同様です。
登記申請後,1~2週間で登記が完了し,会社の設立が完了します。
3 ジョイントベンチャー設立時の契約事項
(1)ジョイントベンチャーとは
事業の立ち上げについては,ジョイントベンチャーというものが近年取り上げられています。ジョイントベンチャーとは,複数の企業が共同出資を行い,共同事業としての事業体を作ることをいいます。ジョイントベンチャーには,共同出資による新規事業の立ち上げと株式の買収による参入がありますが,主に前者が多く利用されています。
ジョイントベンチャー契約のメリットは,共同出資する企業の有する技術力,知的財産権などの経営資源を活用できる点です。新事業の立ち上げには長い時間と費用がかかりますが,ジョイントベンチャー契約を活用することで,他社のノウハウを活用しつつ,互いの強みを活かしたシナジー効果を発揮することが可能になり,短期間で新事業を立ち上げて結果を出すことができるのです。
(2)契約書で必要な事項
上記のような目的をもつジョイントベンチャー契約については,契約時に特に以下のような事項に注意しましょう。
ア 目的
複数の企業が何を目的としてジョイントベンチャー契約を締結するのか明確化しておく必要があります。目的は,特定の事業を立ち上げることになるでしょう。
イ 機関設計・意思決定
複数の企業が参画する以上,組織設計は極めて重要になります。企業が意思決定をする際に,株主総会や取締役会で決議をすることになるので,参画した企業のどちらがより強い権限を有することになるか意識して組織作りを行いましょう。通常,出資比率が高い会社が,事業の遂行についてより強い決定権を有することになるでしょう。
ウ 秘密保持契約
ジョイントベンチャーでは,双方の経営資源を利用することでシナジー効果が発生することが期待できる反面,技術やノウハウが外部に流出するおそれがあります。提供する情報が外部に漏洩することのないように,事前に参画する企業が秘密保持義務を負うよう定めるべきでしょう。
エ 契約期間
ジョイントベンチャー契約による協力関係は必ずしも恒久的なものではありません。期間に限る場合には,あらかじめ定めておきましょう。
オ 解除の定め
複数の企業が参画する以上,途中で利益対立が発生し,契約関係を維持することが困難な事態も想定しえます。あらかじめ,どうような場合に,ジョイントベンチャーを終了させ,そのためにどのような手続きを踏む必要があるか定めておくのが安全です。
以上
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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