下請法の概要
目次
1 下請法の目的
下請法の目的は、「親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もって国民経済の健全な発達に寄与すること」にあります(下請法第1条)。
この「取引を公正ならしめる」とは、下請事業者が自由かつ自主的な判断により取引することができることを意味しています。なぜなら、下請事業者が取引先を自由に選択できるのであれば、親事業者の不公正な行為は自ずと排除され、取引を適正化することができるためです。
具体的には、下請事業者が、親事業者から著しく不利益な取引条件を提示された場合であっても、取引の自由が確保されている状況であれば、適正な取引条件を提示する他の取引先と取引を行うことができます。他方で、取引の自由が確保されていない場合は、下請事業者は不利益な取引条件であっても、これに応じることを余儀なくされます。その結果、自由競争が十分に機能せず、資源が最適に配分されないことになります。
下請法は、このような自由競争を確保し、取引の適正化を図るべく、下請事業者が自由かつ自主的に取引できるような環境の整備を目的として規律されています。
2 下請法が適用される当事者
(1) 資本金による基準
下請法が適用されるか否かは、事業者(親事業者)の資本金の額、取引の相手方(下請事業者)の資本金の額によって決まります(下請法第2条7項、8項)。資本金のない法人の場合は、出資の総額によって判断されます。
もっとも、サービスの提供業務(役務提供、情報成果物作成)については、人を資本とするものであり、製造業等と比較して資本金の額が低い傾向にあるため、特例の資本金基準が設けられています。
【原則】
親事業者 | 下請事業者 |
3億円超 | 3億円以下又は個人 |
3億円以下1000万円超 | 1000万円以下又は個人 |
1000万円以下 | 下請法不適用 |
【特例:サービス提供(役務提供(運送、倉庫保管、情報処理を除く)、情報成果物作成(プログラム作成を除く)】
親事業者 | 下請事業者 |
5000万円超 | 5000万円以下又は個人 |
5000万円以下1000万円超 | 1000万円以下又は個人 |
1000万円以下 | 下請法不適用 |
製造業等とサービス提供の両方を委託する場合には、委託する業務内容ごとにそれぞれの資本金基準によって、下請法が適用されるか否かが判断されることになります。
3 親事業者の義務・禁止事項の概要
(1) 親事業者の義務
親事業者には、以下の4つの義務が課されています。
① 書面の交付義務(下請法第3条)
親事業者は、発注に際して、下記の具体的事項をすべて記載している書面(3条書面)を直ちに下請事業者に交付する義務があります。
・親事業者及び下請事業者の名称
・製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
・下請事業者の給付の内容
・下請事業者の給付を受領する期日
・下請事業者の給付を受領する場所
・下請事業者の給付の内容を検査する場合は、検査を完了する期日
・下請代金の額
・下請代金の支払期日
・手形を交付する場合、手形の金額及び手形の満期
・一括決済方式で支払う場合、金融機関名、貸付又は支払可能額、金融機関への支払期日
・電子記録債権で支払う場合、電子記録債権の額、満期日
・原材料等を有償支給する場合、品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日、決済方法
② 支払期日を定める義務(下請法第2条の2)
親事業者は、下請事業者の給付の内容を検査するか否かにかかわらず、物品等を受領した日(役務の提供があった日)から起算して60日以内でできる限り短い期間内において、下請代金の支払期日を定める義務があります。
③ 書類の作成・保存義務(下請法第5条)
親事業者は、下請事業者に対して、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした場合は、以下の必要的記載事項を記載した書類(5条書類)を作成し、2年間保存しなければなりません。
・下請事業者の名称
・製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
・下請事業者の給付の内容
・下請事業者の給付を受領する期日
・下請事業者から受領した給付の内容及び給付を受領した日
・下請事業者の給付の内容を検査した場合は、検査を完了した日、検査の結果及び検査に合格しなかった給付の取扱い
・下請事業者の給付の内容について、変更又はやり直しをさせた場合は、内容及び理由
・下請代金の額
・下請代金の支払期日
・下請代金の額に変更があった場合は、増減額及び理由
・支払った下請代金の額、支払日及び支払手段
・手形を交付した場合、手形の金額、手形交付日及び満期日
・一括決済方式で支払う場合、金融機関から貸付け又は支払いを受けられる額及び期間の始期、金融機関への支払日
・電子記録債権で支払う場合、電子記録債権の額、支払いを受けることができる期間の始期及び満期日
・原材料等を有償支給する場合、品名、数量、対価、引渡日、決済日、決済方法
・下請代金の一部を支払い又は原材料等の対価を控除した場合、その後の下請代金の残額
・遅延利息を支払った場合、遅延利息の額及び支払日
④ 遅延利息の支払義務(第4条の2)
親事業者は、下請代金をその支払期日までに支払わなかった場合、下請事業者に対して、物品等を受領した日(役務の提供があった日)から起算して60日を経過した日から実際に支払った日までの期間について、未払代金に年率14.6%を乗じた額の遅延利息を支払う義務があります。
(2) 親事業者の禁止事項
親事業者には、以下の11項目が禁止されています。下請事業者の了解を得ている場合や、親事業者に違法性の認識がない場合であっても、下請法違反となるので、十分に注意が必要です。
① 受領拒否(第4条1項1号)
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、給付の受領を拒むこと。
② 下請代金の支払遅延(同項2号)
下請代金の受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと。
③ 下請代金の減額(同項3号)
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請代金を減額すること。
④ 返品(同項4号)
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、給付を受けた物を返品すること。
⑤ 買いたたき(同項5号)
下請事業者の給付の内容と同種または類似の内容の給付に対して通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めること。
⑥ 購入・利用強制(同項6号)
正当な理由がある場合を除き、親事業者の指定する者を強制して購入させたり、サービス等を強制的に利用させて対価を支払わせること。
⑦ 報復措置(同項7号)
下請事業者が、親事業者による禁止行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由として、不利益な取り扱いをすること。
⑧ 有償支給原材料等の対価の早期決済(同条2項1号)
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、親事業者が支給した有償支給原材料等の対価について、下請代金の支払期日より早い時期に支払わせる又は下請代金から控除すること。
⑨ 割引困難な手形の交付(同項2号)
下請代金の支払期日までに、金融機関で現金化することが困難な手形によって下請代金を支払うこと。
⑩ 不当な経済上の利益の提供要請(同項3号)
金銭、役務その他経済上の利益を提供させることにより、下請事業者の利益を不当に害すること。
⑪ 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(同項4号)
発注の取消し・変更を行い又はやり直しさせることにより、下請事業者の利益を不当に害すること。
4 下請法に違反した場合はどうなるか
下請法違反があった場合、以下のとおり、行政指導の一種である「勧告」がなされることや、罰金が課されることがあるため、注意が必要です。
(1) 立入検査(下請法9条)
公正取引委員会、中小企業庁は、取引の公正を確認するため、親事業者、下請事業者に対する書面調査を毎年実施しています。また、必要に応じて、親事業主の保存している取引記録の調査や立入検査が実施されます。
(2) 勧告・公表(下請法7条)
公正取引委員会は、親事業主が下請法に違反した場合、それを取りやめて原状回復させること(減額された対価の支払い等)を求めるとともに、再発防止などの措置を実施するよう勧告、公表を行います。
(3) 罰金(下請法10条)
親事業主が、発注書面を交付する義務、取引記録に関する書面の作成・保存義務を守らなかった場合は、違反行為をした者だけでなく、会社も「50万円以下の罰金」に処せられます。また、書面調査において報告を行わずもしくは虚偽の報告をした場合、公正取引委員会や中小企業庁の職員による立入検査を拒みもしくは妨害した場合にも罰金に処せられます。
5 最後に
このように下請法に対応するには専門的な知識・経験が必要となります。下請法にお悩みの企業様はこの分野に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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