下請法と書面調査への対応方法

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下請法と書面調査

定期的に書面調査が行われている

 近時、公正取引委員会および中小企業庁から、親事業者と下請事業者に対し、定期的に書面調査が行われる頻度が増しているようです。岸田政権が下請取引に対する監督体制を強化していることから、今後も定期書面調査が増えることが予想されます。

書面調査は管理部門でも対応する必要

 定期書面調査については、親事業者に対しては毎年6月頃に、下請事業者に対しては毎年11月頃にそれぞれ行われます。

 公正取引委員会が下請法違反被疑事件として新規に着手する約99%が、書面調査を端緒としています(公正取引委員会作成「令和2年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」2頁目参照)。また、書面調査について、報告懈怠や虚偽報告等をした者に対しては、50万円以下の罰金が科されるおそれがあります(下請法11条、12条。なお、これまで刑事罰が適用された例はありませんが、平成15年の下請法改正により、罰金の上限額が50万円に引き上げられていること、岸田政権のもと下請法の適用の強化が予想されることから注意が必要です)。

したがって、親事業者は、書面調査に対する回答内容について、現場任せにするのではなく管理部門でも積極的に対応していく必要があります。

具体的事情は自由記載欄に記載する

 なお、親事業者に対する書面調査への回答については、原則として、選択式となっています。設問によっては、具体的な事情に関わらず、下請法違反の疑いが生じ、個別調査の対象となるおそれがあります。そのため、下請法違反に該当しない具体的な事情がある場合は、最後に設けられている自由記述欄にその旨を記載する等の対応が必要でしょう。

下請法に違反した場合

 下請法違反の疑いがある場合、公正取引委員会や中小企業庁は、親事業者に対し、立入検査を行うことがあります。その結果、下請法違反の事実が認められた場合、公正取引委員会は、親事業者に対し、指導又は勧告を行うことがあります(もっとも、その多くは指導が原則であり、勧告は年間10件程度といわれています)。

 なお、中小企業庁に勧告権限はありませんが、公正取引委員会に対し、適当な措置をとるべきことを請求することができます(下請法6条。「措置請求」といいます)。

 勧告とは、公正取引委員会が、親事業者に対し、下請事業者の不利益を解消する措置を講じることや再発防止措置を講じるなど必要な措置をとるべきことを求めることをいいます(下請法7条)。

勧告も指導も、行政指導の一種であり、自主的に改善措置を講じることが求められます。ただ、指導と勧告の大きな違いは、指導は報道発表を行いませんが、勧告は原則として報道発表を行います。そのため、親事業者は、勧告がなされた場合における報道発表によるリピュテーションリスクを懸念する必要があります。

自発的申出制度(下請法リニエンシー)の利用

 親事業者が書面調査の回答作成のために社内調査を行った結果、下請法違反の疑いがある事実が認められた場合、勧告(報道発表によるリピュテーションリスク)を回避するため、自発的申出制度(下請法リニエンシー)を利用することを検討する必要があります。

 下請法リニエンシーとは、下請法違反行為を行った親事業者が、公正取引委員会または中小企業庁に対し、自発的に違反行為を申し出ることによって、公正取引委員会による勧告を回避する方法をいいます。なお、この制度は、下請法等の正式な制度ではありませんが、公正取引委員会による運用に基づくものです。また、書面調査を受けている段階では利用できますが、個別調査が開始されてしまうと利用できません。

 そのため、下請法違反の疑いがある事実が認められた場合、親事業者としては、個別調査が開始するまでに下請法リニエンシーを利用するか否かを検討する必要があります。

 

対応策まとめ

 親事業者は、書面調査に対する回答内容について、現場任せにするのではなく管理部門でも積極的に対応していく必要があります。

 また、親事業者に対する書面調査への回答については、原則として選択式となっています。設問によっては、具体的な事情に関わらず、下請法違反の疑いが生じ、個別調査の対象となるおそれがあります。そのため、下請法違反に該当しない具体的な事情がある場合は、最後に設けられている自由記述欄にその旨を記載する等の対応が必要でしょう。

 さらに、親事業者が書面調査において、下請法違反の疑いがある事実が認められた場合、勧告を回避するため、個別調査が開始するまでに下請法リニエンシーを利用することを検討する必要があります。

 もっとも、あらゆる事案について下請法リニエンシーを利用することは、公正取引委員会等からの対応を迫られる等、親事業者にとっても負担が重いです。そのため、親事業者としては、過去の勧告事案と照らし合わせ、下請法リニエンシーを利用するべきか否かを戦略的に検討していく必要があります。

※ 上記記事は、令和4年6月5日時点での情報となります。

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