労災保険法に基づく保険給付を受けている労働者に対して、打切補償を行うこと により解雇制限が解除されるか
問題提起
法律上、業務災害(労働者が業務を原因として負った傷害、疾病等を言います。)により休業している労働者は、その休業期間及びその後30日間は解雇されません。
しかしながら、使用者が打切補償(療養補償を受けている労働者が療養開始後3年を経過しても疾病が治らない場合に、使用者が平均賃金の1200日分の補償を行えば、それ以後の労働者への補償が不要となるものを言います。)を支払う場合には、例外的に解雇が認められます。以上は、使用者が法律に基づき自ら災害補償を行っている場合です。
他方、法律に基づく労災保険給付を労働者が受けている場合には、使用者は自ら災害補償をする義務を免れるのですが、このような場合にも使用者が打切補償を行うことにより、労働者は解雇されてしまうのかが問題となります。
事案の概要
本件は、業務災害により休業中の労働者が、勤務先から打切補償として平均賃金の1200日分相当額の支払を受けた上で解雇されたことにつき、この解雇は無効であると主張して、労働者としての地位の確認を求めた事案です。
本判決
「労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が、療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、労働基準法75条による療養補償を受ける労働者が上記の状況にある場合と同様に、使用者は、当該労働者につき、同法81条の規定による打切補償の支払をすることにより、解雇制限の除外自由を定める同法19条1項ただし書の適用を受けることができるものと解するのが相当である。」
としました。
この判決のポイント
使用者が自ら災害補償を行っておらず、労働者が労災保険給付を受け取っている場合にも、打切補償により、当該労働者を解雇することが認められたのが大きなポイントです。
現在、業務災害に対する補償が行われるべき場合については、ほぼすべての場合において、労災保険給付が行われ、使用者が自ら災害補償を行うことはほとんどなくなっていますので、業務災害における労働問題に大きく影響を与える判例です。
(最高裁平成27年6月8日判決~)
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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