不可抗力条項
目次
1 はじめに
企業間の契約においては、リスク管理の一環として、天災や戦争といった当事者が予見不可能な外部的事情が発生した場合に債務不履行責任を負わない旨の条項を設けることがあります。このような条項は「不可抗力条項」と呼ばれています。
近年、新型コロナウイルスの世界的な拡大とそれに伴うロックダウンや、ウクライナ情勢によって、不可抗力条項への関心が高まっています。
この記事では、不可抗力にはどのようなものがあるか、不可抗力によって債務が履行できなかった場合、不可抗力条項がなければどうなるのか、不可抗力条項を定めることによるメリットと注意点について解説します。
2 不可抗力とは
不可抗力とは、外部からくる事実であって、取引上要求できる注意や予防方法を講じても防止できないものと説明されています。例えば、洪水、台風、地震、津波、地滑り、火災、伝染病、海難、戦争、大規模騒乱等が不可抗力にあたるとされています。
最近では、政府による拘束・拘禁がここに含まれるとするものが一般的であるほか、全面的交通封鎖、ストライキ、ロックアウト、サポタージュ等についてまで、不可抗力に含まれるとするものも少なくないようです。
3 不可抗力条項がなければどうなる?
(1)日本法ではどうなるか
日本の民法においては、債務者に「責めに帰すべき事由」が存在しない場合には債務不履行責任を問われないのが原則です。
そのため、債務不履行が発生しても、それが不可抗力に起因するものであれば、債務者に責めに帰すべき事由が認められず、債務不履行責任を負うことはありません。
(2)金銭支払い義務の特則
民法は、金銭債務の不履行について、債務者は「不可抗力をもって抗弁とすることができない」としています(419条3項)。
すなわち、新型コロナウイルスやウクライナ問題等により、資金繰りが苦しくなり、取引先や金融機関に対する金銭債務の履行が困難になった場合であっても、不可抗力条項を定めていなければ、不可抗力を理由に支払いを免れることはできません。
(3)日本以外の国では
日本法に準拠した契約であれば、上記のように、仮に不可抗力の場合に関する契約の定めがなくても、民法による原則から不可抗力の場合には免責されます。一方で、英米法では不可抗力条項を定めなければ、主張できないのが基本となっています。
海外との取引を行う場合には、準拠法を確認し、現地の法制度がどのようになっているのかを調査することが必要です。
4 不可抗力条項の意味と問題点
(1)不可抗力条項を規定する意味とは
以上のように、民法の原則によっても、不可抗力に起因する債務不履行では、債務者が債務不履行責任を負うことはありません。それでは、契約書に不可抗力条項を規定する意味はどこにあるのでしょうか。
民法の原則により処理をする場合、不可抗力により免責されるための要件が必ずしも明確ではなく、ある事情が不可抗力にあたるかをめぐって紛争が発生するリスクが存在します。たとえば、自然科学の進歩から、これまで当然のように不可抗力とされていたもの(台風、豪雪、地震等)が、具体的場面ではそうではないとされる場合があり得ます。また、ストライキについては、これによって社会的機能が停止するほどの事態にでもならない限り、不可抗力とはいえないかもしれません(潮見佳男「新債権総論Ⅰ」信山社,2017年,384頁参照)。
したがって、このようなリスクも鑑みて、不可抗力条項を規定し、不可抗力に当たる場面を例示することで、当該契約において不可抗力により免責される場面がより明確になり、当事者の予見可能性が確保されるとともに、将来の紛争リスクを低減することが可能となります。もっとも、不可抗力の事例をすべて網羅的に記載することは不可能であるため、「その他」の事情という条項を入れることになります。
たとえば、不可抗力条項を以下のように定めることが考えられます。
天変地異(地震、津波、暴風雨、洪水、火災、落雷等)、戦争(宣戦布告の有無を問わない)、暴動、内乱、反乱、革命、テロ、感染症、疫病、伝染病、ストライキ、ロックアウト、法令の制定・改廃、その他の当事者の合理的支配を超えた偶発的事象(以下「不可抗力」という。)による本契約の全部または一部の履行遅滞または履行不能については、いずれの当事者もその責任を負わない。 |
(2)不可抗力条項のリスク
逆に、不可抗力となる事象を網羅的に挙げると、不可抗力に該当性するかが明確にはなるものの、記載していない事象については不可抗力事象から除外されていると解釈されるおそれがあります。
5 おわりに
新型コロナウイルス拡大によるロックダウン等や、ウクライナ情勢の影響により、当事者があらかじめ予見できないような債務不履行が生じた企業もあるでしょう。今後も、天変地異や疫病、戦争等により、不可抗力による債務不履行が生じる可能性があります。そのような場合に備えて契約書を見直すことも必要でしょう。
新型コロナウイルスやウクライナ問題による契約トラブルにお悩みの方や、新たに契約書を作成しようとしている方は、契約に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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