M&Aにおける表明保証と違反の効果
目次
1.M&Aにおける表明保証とは
表明保証とは、契約の一方当事者が、他方当事者に対して、一定の時点における一定の事項が真実かつ正確である旨を表明し保証することをいいます。M&Aの契約においても、表明保証条項を定めることが一般的です。
M&Aにおいては、最終契約(たとえば、株式譲渡契約)を締結するよりも前に、買い手が、対象会社に問題がないか等を調査します。この調査が、デュー・デリジェンス(DD)と呼ばれるものです。
もっとも、デュー・デリジェンスによる調査力には限界があり、デュー・デリジェンスをしても発見できない事項が最終契約後に発覚することも少なくありません。そこで、対象会社や当事者に関する一定の事項が真実かつ正確であることを売主に表明してもらうのです。これが、M&Aにおける表明保証です。
2.表明保証に違反した場合の効果
売主が表明保証に違反した場合、以下のような効果が生じます。
(1)補償請求・損害賠償請求
M&A契約では、売主が表明保証に違反した場合、買主から補償請求や損害賠償請求をできる旨規定しておくのが一般的です。
ここで注意すべきなのは、表明保証違反さえあれば、常に補償請求や損害賠償請求が可能なわけではないということです。東京地判平成18年1月17日判タ1230号206頁は、「売主が表明保証に違反していると買主が知らなかったことについて、買主に重大な過失がある場合は、表明保証違反による損害賠償請求ができない」と判断しました。つまり、買主側の主観面も問われるということです。
そこで、M&A契約において、売主に表明保証違反があった場合は、買主の主観を問わずに補償請求や損害賠償請求ができると定めておくことが考えられます。これを、プロ・サンドバッキング条項といいます。
(2)契約の解除
売主が表明保証に違反した場合、買主はM&A契約を解除できる旨規定しておくことも多いです。ただし、一般的に、M&A契約を解除できるのは、M&Aの完了(クロージング)までに限定するのが一般的です。クロージング後に表明保証違反が判明した場合は、上記の補償請求や損害賠償請求で対応することになります。
3.表明保証条項がない場合
では、M&A契約で、表明保証条項を定めなかった場合はどうなるのでしょうか。たとえば、デュー・デリジェンスにおいて売主から開示された対象会社の財務諸表がM&A後に粉飾されたものであったと判明したものの、M&A契約において表明保証条項が定められていなかった場合です。
このような場合について、東京地判平成19年9月27日判タ1255号313頁は、「M&Aに際しての情報収集や分析は原則として自己責任であり、特段の事情がない限り、他方当事者に情報提供義務や説明義務を負わせることはできない」、と判示しました。したがって、表明保証条項がない場合、売主から開示された情報が事実と異なることが後に判明したとしても、原則として、買主は売主に対して責任を問えません。「特段の事情」があれば責任追及可能ですが、どのような場合に「特段の事情」があるといえるのか判然としません。少なくとも、売主が自ら「特段の事情」を認めて責任を取ることはないでしょう。紛争の長期化・複雑化を覚悟しなければなりません。
以上の通り、表明保証条項がない場合、売主から開示された情報が真実と異なっていた場合の責任追及が難しくなるため、買主にとっては、M&A契約に必ず表明保証条項を定めておく必要があるといえるでしょう。
4.表明保証条項をめぐる駆け引き
表明保証条項は、上記の通り、買主にとって重要な条項です。そのため、買主としては、売主に対してできるだけ網羅的かつ厳格な表明保証を要求します。一方、売主としては、自らの責任を極力回避すべく、表明保証条項を定めないか、定めるとしてもできるだけ限定的な内容にとどめることを要求します。
このように、表明保証条項においては、売主と買主の思惑が対立するため、少なくとも、先方が提示した条項にそのままサインするというのは避けるべきでしょう。仮に先方との力関係等で、先方の提示した条項にそのままサインせざるを得ないとしても、どのようなリスクがあるのかを分析した上で、そのリスクが顕在化した場合のダメージを最小化するための対策を事前に検討しておくべきでしょう。たとえば、一部の保険会社は、表明保証保険という保険商品を提供しています。
5.まとめ
以上の通り、M&A契約において、表明保証は極めて重要です。M&Aをご検討中の方は、ぜひ一度、この分野に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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