役員(取締役・監査役・執行役員等)に対する処分と対応方法

1 はじめに

 企業を経営していくにあたり、役員の言動は、企業の信用や経営に大きな影響を与えます。そのため、役員の不正行為が発覚した場合には迅速かつ適切な対応が求められます。本記事では、役員に対する処分の内容と注意点、不正行為発覚時の対応、関連する裁判例について解説します。

 

2 役員に対する処分の内容と注意点

(1)処分の内容の設定

 役員の不正行為が判明し、当該役員の処分を検討するには、まずは、如何なる事実が処分事由に該当し、それぞれの処分事由について如何なる処分を行うことができるか、事前に定められていなければなりません。

(2)処分の種類

 役員の不正行為に対する具体的な処分としては、解任、役位(専務・常務)の変更、役員報酬の減額が考えられます。
 役員を解任するためには、株主総会に対して解任議案を提案した上、株主総会の決議による承認が必要です。当該役員の解任に正当な理由がない場合には、解任された役員から損害賠償請求を受けるリスクがある点に、注意が必要です。
 また、役員報酬は、会社と役員との間の委任契約により合意されているため、役員報酬を減額するには、原則として、当該役員の同意が必要です。役員報酬規程に、役位に応じて報酬額が変更となる定めや、処分事由発生時に減額する旨の定めがあり、会社と役員との間で役員報酬規程に従って報酬を支給する旨合意されている場合には、これによって役員報酬を減額することは可能です。不正行為に伴う道義的責任を重視し、役員自身が自主的に報酬を返納するケースもあります。

(3)処分の手続

 役員の不正行為に対して処分を行う場合、適正手続の観点から、当該役員に対して弁明の機会を付与する必要があります。また、役員の処分を決定するに際しては、取締役会決議を経ることが必要です。

 

3 役員の不正行為が発覚した際の対応

 役員の不正行為が発覚した場合、企業の信頼維持のため、迅速かつ的確に対応しなければなりません。

(1)事実関係の調査

 会社が、最初に行うべきは、事実関係の正確な調査です。不正行為に関する証拠を速やかに収集し、調査結果を記録することが重要です。証拠の隠蔽、隠匿が起こりやすいため、迅速な対応が必要です。利害関係者等への聞き取りを行うことも有効です。

(2)社外公表の検討

 役員の不正行為を社外に公表するか否かは、ケースバイケースです。上場企業の場合、法令等により開示が義務である場合があります。また、顧客や取引先との関係で、不正行為の内容や影響に鑑み、社外へ公表することが望ましい場合があります。社外への公表を行う場合には、できる限り早期に、事実を簡潔かつ正確に伝え、社会的信用の回復に努めることが望ましいでしょう。

(3)再発防止策の策定

 また、不正行為の発生原因を分析し、再発防止策を講じることが重要です。内部統制システムの見直しやコンプライアンス教育の強化も有効です。また、役員が再び同様の問題を引き起こさないための仕組みを構築することも求められます。

(4) 役員に対する責任追及

 役員の不正行為により、会社に損害が発生した場合には、会社や株主が役員に対し、損害賠償請求を行うことも考えられます。

 

4 役員の不正に関する裁判例

 役員の不正行為に関しては、複数の著名な裁判例があり、役員の不正行為に対して会社の取るべき対応等についても判断されています。大阪高裁平成18年6月9日判決は、食品販売会社で、法令に違反した食品添加物が含まれる製品が市場に流通したことについて、株主が取締役および監査役に対して損害賠償請求を行った事例です。同事例では、取締役が、同食品添加物の混入が判明した時点で、販売の中止、在庫の廃棄、消費者への公表、販売済み商品の回収に努めるべき社会的責任があったと判断しています。また、同事例では、これを怠った取締役に対して損害賠償責任、監査役に監督責任があると認定されました。

 

5 まとめ

 役員の不正行為に対する適切な対応は、企業の社会的信用を守る上で重要です。不正行為が発覚した際には、迅速な事実調査、適切な処分の実施、再発防止策の策定が求められます。個々の事案ごとに注意すべき点も多々あり、各種対応には専門的な知識が必要となるため、早い段階で企業法務に精通した弁護士に相談することをお勧めします。

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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