役員(取締役・監査役・執行役員等)に対する処分と対応方法
1.はじめに
企業を経営するにあたり、不祥事を起こした役員に対して、どのような処分をなすべきか悩まれている企業様も多いのではないでしょうか。
そもそも、役員の処分を実施する意義としては次のような点が考えられます。すなわち、社内的には秩序維持や再発防止、社員の士気の向上等が考えられる一方で、社外的には、再発防止策を発信することによるリピュテーションリスクの回避、企業価値の維持・向上等が考えられます。
では、役員に対して処分をする場合、企業としてどのような点に注意すればよいのでしょうか。
2. 役員に対する処分の内容と注意点
(1)懲戒処分の可否
懲戒処分とは、企業秩序の違反に対し、使用者によって課せられる一種の制裁罰をいいます。この点、役員は企業との間では労働契約がないことから、業務命令に服し統制を受ける使用従属関係にはなく、就業規則の適用もありません。そのため、役員に対しては懲戒処分をすることはできないことに注意してください(ただし、使用人兼務取締役の場合、使用人としての立場に対して懲戒処分は可能です)。
(2)処分の可否
もっとも、役員は会社と委任契約を締結しています。そのため、法令等に違反しない限り、委任契約に定めるか、規程(取締役規程、役員処分規程等)で定めれば、処分は可能です。実務的には、前者より後者で対応されていることが多いので、規程で対応されてもよいでしょう。
ただし、規程で定める場合は、各役員から同規定に従う旨の同意を書面で個別に取得した方がよいでしょう。
また、委任契約や規程で処分を定める場合、①処分事由、②処分の種類、③処分の手続きを規程し、それに従って運用する必要があります。
なお、コーポレートガバナンスコードでは経営陣幹部の解任を行うに当たって、方針と手続の開示を開示することや、公正かつ透明性ある手続に従うべきである旨が要請されていますので、上場企業では特に上記規程を定める必要があることにご注意ください(コーポレートガバナンスコード原則3-1②、補充原則4-3)。
ア.①処分事由
まず、役員の処分をするにあたっては、どのような事由が生じた場合が処分事由に該当するのかを明らかにするために、事前に処分事由を定めておかなければなりません。
典型的な処分事由として、「法令又は定款違反」「社内規程違反」「会社の名誉又は信用を毀損したとき」「品位を貶めるような行為を行ったとき」といった事由が考えられるほか、近時の問題意識から「セクシャルハラスメントやパワーハラスメント等のハラスメント行為をおこなったとき」「機密情報の漏洩や目的外使用を行ったとき」といった事由を定めることが考えられるでしょう。
イ.②処分の種類
(ア)定めておくべき処分の種類としては、従業員の懲戒処分の種類を参考に定めるのがよいと思います。
降格に相当する処分として、代表取締役の解任や役位(専務・常務)の変更が考えられます。ただし、役員の場合、出勤停止のような処分は出来ませんのでご注意ください。また、解雇に相当する処分として、役員を解任するには株主総会の承認が必要となります。そのため、役員会としてできることとしては、株主総会への解任議案の提案が考えられます。
(イ)減給
取締役の報酬は、会社と取締役間の契約内容であり契約当事者である会社と取締役の双方を拘束することから、原則として、対象取締役の同意がない限り、報酬を減給することはできません。もっとも、規程に処分事由が生じた場合に減額できるとの規程や、職位の変更に伴い報酬が変わるという規程があれば、それに従って、減額することはできます。もちろん、取締役の任意による自主返納は問題ありません。
ウ.③処分の手続き
適正手続きの観点からも、対象となる役員に対して、弁明の機会は付与すべきです。処分をする際には、代表取締役が勝手に決めることはできず、取締役会の決議が必要です。もし、企業内に指名委員会や報酬委員会の機関が存する場合、解任や辞任勧告をする場合は指名委員会、減給や報酬返還をする場合は報酬委員会の各関与も、それぞれ必要でしょう。
(3)退任役員に対する処分
役員の在任中の不祥事が退任後に発覚した場合、すでに前任の企業とは何らの契約関係もない以上、処分はできません。但し、報酬規程において、退任後の役員に対し報酬の返納を求めることができる等の定めがあり、役員が当規定に従う旨の同意書を在籍中に取得していた場合は、報酬の返納を求めることはできるでしょう。
また、報酬の自主返納を求めることも当然できます(但し、あくまで自主返納ですので、対象役員がこれに従う義務はなく、返納に応じるか否かは任意となります)。
(4)執行役員に対する処分
専務、常務等の肩書きが付されることが多いですが、執行役員は、業務執行に関しては相当の裁量権限を有するものの、法的には会社の機関ではなく、一種の重要な使用人です(会社法362条4項3号)。
会社と執行役員との契約が雇用契約か委任契約かについては、通常は雇用契約の場合が多いですが、委任契約の場合もあります。
雇用契約の場合は、通常の従業員を懲戒処分する場合と同じ扱いになります。
これに対して、委任契約の場合、上記の役員の処分と同じ扱いになります。なお、従業員の懲戒処分と似たような規程を執行役員規程等によって定めることもできるものと考えられます。
3.まとめ
役員の処分をするにあたっては、上記の注意点以外にも、個々の事案や対象役員ごとに注意するべき点が多々あります。役員の処分についてお悩みの企業様がいらっしゃいましたら、この分野に詳しい専門家にご相談ください。
【主な参考文献】
・江頭憲治郎「株式会社法(第8版)」(有斐閣)
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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