弁護士が解説する人権デュー・デリジェンスの概要とポイントについて

1 はじめに

 近年、企業の社会的責任の一環として、「ビジネスと人権」の問題が注目されています。
 グローバル化の加速によって、企業のサプライチェーンや取引先は世界各国に拡大しています。企業活動に関わる全てのフェーズ・範囲において人権を侵すリスクは広がっており、企業はその管理を徹底することが求められています。
 反対に、企業が人権問題に取り組めば、「人権を尊重する企業」だと認知され、社会的な信頼・価値を向上させることができます。取引関係を継続し、選ばれる企業として企業活動を維持・継続していくためにも、人権尊重への取り組みが必須となっています。
 この記事では、「ビジネスと人権」の取り組みとして、人権デュー・デリジェンスの概要とポイントについて解説します。

 

2 ビジネスと人権に関する世界と日本の取り組み

 2011年6月、国連人権理事会が、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」を全会一致で承認しました。「人権デュー・デリジェンス」という用語も、ここで初めて使用されました。
 日本政府も、2020年に「ビジネスと人権に関する行動計画」を策定・公表し、2022年9月には、経産省が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン~サプライチェーンと人権デュー・デリジェンスに関する経済産業省ガイドライン~」(以下では「経産省ガイドライン」といいます。https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/business_jinken/dai6/siryou4.pdf)を公表しました。
 これらをふまえ、大企業を中心に「ビジネスと人権」に関する具体的な取り組みが実施されています。外務省のHPには、「ビジネスと人権」に関する各社の事例集が発表されていますので、ご参考にしてください(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100230712.pdf)。

 

3 人権デュー・デリジェンスとは

 人権デュー・デリジェンスとは、企業活動における人権リスクを抑える取り組みのことです。具体的には、自社の企業活動において強制労働やハラスメント等の人権リスクや人権に対する負の影響がないかを特定し、そのリスクを分析・評価して適切な対策を策定・実施することをいいます。
 人権尊重への取り組みの全体像は次のとおりです。

【「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」における人権尊重取組みの全体像】

人権方針 ①人権尊重責任に関する約束の表明

人権DD


②負の影響の特定・評価
③負の影響の防止・軽減
④取組の実効性評価
⑤説明・情報開示
救済 ⑥負の影響から生じた被害への対応

(経済産業省「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」参照)

 

4 人権デュー・デリジェンスの方法

⑴ 総論

 上記図表のように、経産省ガイドラインでは、人権デュー・デリジェンスは、①人権方針の策定・公表(人権尊重責任に関する約束の表明)、②人権への負の影響の特定・評価、③負の影響の防止・軽減、④取組の実効性評価、⑤説明・情報開示、⑥救済(負の影響から生じた被害への対応)というプロセスで進めることが期待されています。

⑵ 各プロセス

① 人権方針の策定・公表

 まず、人権尊重責任を果たすという企業によるコミットメントを、一定の要件を満たす人権方針を通じて、企業の内外に向けて表明することが求められています。

② 負の影響の特定・評価

 人権DDを行うにあたって、まず、企業が関与している、または関与し得る人権への負の影響を特定し、評価することが必要です。特定・評価にあたっては、従業員、労働組合、労働者代表、市民団体、人権擁護者、周辺住民等のステークホルダーとの対話が有益です。
 自社のビジネスの各工程について、人権への負の影響がどのように発生するか、誰がどのような人権について負の影響を受けるかを特定したうえで、適切な対応方法を決定する為に、人権への負の影響と企業の関わりを評価します。
 この点、繊維産業におけるガイドラインが、次のとおり、別冊チェック項目を具体的かつ豊富に紹介しており、他の業界でもご参考になると思いますので、ご紹介しておきます。
・「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」(2022年7月)
 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/textile_nw/pdf/002_05_00.pdf
・「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン(別冊)チェック項目例とリスク発見時の対処法の例について」(2022年7月)
 チェック項目例とリスク発見時の対処法の例について_220829.pdf (kinujinsen.com)

③ 負の影響の防止・軽減

 企業は、人権尊重責任を果たすため、「企業活動による人権への負の影響を引き起こしたり助長したりすること」を回避し、負の影響を防止・軽減することが求められます。
 企業は、特定・評価された負の影響の防止・軽減について、経営陣の最終責任の下で、責任部署・責任者を明確にしたうえで、適切に取り組む必要があります。
 すべての「負の影響」に対処することが困難であれば、「優先順位」をつけることが重要です。その際、経営リスクの大小で判断するのではなく、規模や範囲・救済の困難度の観点で深刻度と蓋然性の高いものから順に対処していくのがポイントです。

④ 取り組みの実効性の評価

 企業は、自社が人権への負の影響の特定・評価防止・軽減等に効果的に対応できたかどうかを評価し、その結果に基づいて継続的な改善を進める必要があります。

⑤ 説明・情報開示

 企業は、自身が人権を尊重する責任を果たしていることを説明することができなければなりません。自社HPや統合報告書等で、年1回以上は情報開示していかれるのがよいでしょう。

⑥ 救済(負の影響から生じた被害への対応)

 企業は、「自社が人権への負の影響を引き起こし、又は、助長していることが明らかになった場合」、救済を実施し、又は救済の実施に協力すべきとされています。

 

5 人権デュー・デリジェンスの対象

 人権デュー・デリジェンスを行うにあたっては、自社だけではなく、グループ会社やサプライヤー等の人権尊重の取り組みにも最大限努めることが求められています。サプライヤー等とは、サプライチェーン上の企業及びその他のビジネス上の関係先をいい、直接の取引先には限られません。
 また、尊重すべき「人権」の範囲は、国内法規の遵守だけでは不十分であり、広く国際的
に認められた人権(国際人権章典、ILO宣言等)も含まれます
 さらに、紛争地域におけるビジネスについては、軍事用の機器に日本製の部品が使用されているか否か等、より強化された人権DDが必要となると思われます。

 

6 おわりに

 人権侵害が発覚した場合には、企業イメージの低下、不買運動などのレピュテーションリスク、当事者から訴訟されて損失を負う法務リスク、株価下落、投資引き上げなどの財務リスク、従業員による業務ボイコットなどの人的リスク等のリスクを生むことになります。
 人権デュー・デリジェンスを行いたいと考えている企業様は、企業法務に詳しい弁護士に相談するのが良いでしょう。

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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