ホテル・旅館業を営む方へ ~その2~
第3.宿泊客とのトラブル
ホテルや旅館を経営されている方にとって,悩ましいのがお客様とのトラブルだと思います。トラブルが無いのが一番ですが,もしトラブルが起きてしまった場合には,すべてのお客様に快適に過ごしていただくため,迅速かつ適切に対応を行いましょう。そのためには,想定されるトラブルについては,事前に対応を決めておくとスムーズです。
想定されるトラブルとしては①直前のキャンセルや無断キャンセル,②お客様同士のトラブル,③お客様からのクレーム,④宿泊客からの誹謗中傷や根拠がない不当な口コミ,⑤宿泊料をめぐるトラブルなどが典型的です。以下,それぞれの対応方法についてご説明いたします。
1 直前のキャンセル・無断キャンセル
宿泊客を迎えるにあたり,部屋を確保し,料理の食材を手配した後になってキャンセルをされたり,連絡さえなく宿泊客が現れなかったりすると,準備が全て無駄になってしまいます。このような場合には,きちんと料金を支払ってもらえるよう,キャンセル料について,その金額もしくは計算方法と,いつから料金が発生するのかを明示しておきましょう。
ただ,いくらキャンセル料などを定めていても,悪質なケースでは,請求しても支払ってくれないこともあるでしょう。そのような場合には弁護士にご相談ください。裁判までは考えていなかったとしても,弁護士から内容証明郵便等を送るだけで,支払ってくれるケースも少なくありません。
2 宿泊客同士のトラブル
ホテルや旅館では,全ての宿泊客に快適な時間を過ごして欲しいというのが企業の願いでしょう。しかし,様々な宿泊客が訪れる以上,宿泊客同士のトラブルが起きてしまう可能性も考えなければなりません。特に最近では,SNS用の写真への映り込みや,新型コロナウイルスへの考え方の違いなどで,トラブルになる場面も増えていると思います。
もし,他の宿泊客に対するクレームが入った場合には,お詫びをしてクレームの内容と実際そのような事実があるかを確認した上,事実であれば,クレームの対象となっている宿泊客に対し,クレームが入っていることを伝え,丁寧に対応をお願いしましょう。また,クレームの内容が騒音などの場合,空いている部屋があり,部屋の移動等で問題が解決できるようであれば,宿泊客に部屋を移ってもらうなどの対応も考えられるでしょう。この時注意すべきこととしては,両方の宿泊客について,個人情報が相手に知られることがないようにしなければなりません。相手の氏名などを尋ねられても断り,宿泊客側が,ホテル・旅館側での対応では納得せず,直接トラブルになるようであれば,警察への通報も考える必要があります。
3 宿泊客からのクレーム
ホテルや旅館業は,宿泊客からのクレームを受けるリスクも高い業種といえるでしょう。このようなクレームは,そのクレームの質を見極め,適切に対応することが大切です。正当なクレームは,より良いサービスを提供するための金言です。大切に拾い上げ,クレームの具体的内容を分析し,原因解明と再発防止に努め,業務改善と企業価値向上につなげましょう。
しかし,クレームの中には,従業員を消耗させるだけの悪質なものもあります。このようなクレームを放置すれば,従業員の離職を招き,サービスの質の低下による顧客離れにも繋がりかねません。 悪質クレームについては適切に対応し,現場の担当者に抱え込ませないことが大切です。
それでは,どのように対応をすれば良いのでしょうか。まずは,何が「悪質クレーム」であるか,社内で情報を共有し,判断の統一を図りましょう。「悪質クレーム」の見極めは,法的観点から客観的に行う必要があるため,窓口を設定し,寄せられたクレームについて,弁護士の助言を受けるなどしながら,振り分けを行う必要があります。そして,「悪質クレーム」と判断されるような場合には,弁護士や,場合によっては警察にも相談しながら,毅然とした対応を行う必要があります。
4 宿泊客からの誹謗中傷や根拠がない不当な口コミ
最近,多くの接客業の企業を悩ませているのが,インターネット上の誹謗中傷や根拠がない不当な口コミです。口コミサイトなどへのこのような書き込みを放置しておくと,風評被害が広がり,企業価値が不当に毀損されることにつながります。既に述べた通り,理由のある正当なものであれば,金言と思って対応する必要がありますが,そうでない誹謗中傷や不当な低評価に対しては,悪質クレーム同様,毅然とした対応を行う必要があります。
このような書き込みに対しては,書き込みを行なった本人が特定できるようであれば,本人に対し直接働きかけて削除を促すのが簡便です。場合によっては,併せて損害賠償請求を行うこともあるでしょう。しかし,匿名の口コミサイトや掲示板への書き込みの場合,特定自体困難な場合がほとんどだと思います。そのような場合には,サイトを管理するプロバイダや当該アクセス元のプロバイダに対し,発信者情報の開示を求めることができます。ただし,発信者のIPアドレスが保存されている間に裁判所に対して申立てを行わなければならず,早急に対応をする必要があります。誹謗中傷や不当な評価が書き込まれていることに気付いたら,すぐに弁護士にご相談ください。
5 宿泊料をめぐるトラブル
ホテル・旅館業は特に新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けており,今後如何に収益力を強化していくかが重要となる業種といえるでしょう。そのため,当然ながら,宿泊客には相応の宿泊料をしっかり支払っていただく必要があります。
事前に宿泊料を明示していても,宿泊後に料金を支払わずに退室してしまったり,根拠なくサービスへの不満や設備の不備などを主張して支払いを拒んだり,という宿泊客には,「逃げ得」は許さないという強い姿勢を明確にするのが良いでしょう。弁護士から内容証明を送ってもらったり,場合によっては訴訟を提起したりということも選択肢の一つとなります。
しかし,宿泊客の連絡先が不正確である場合には督促を行うこと自体困難ですし,また,訴訟となると費用もかかります。このような事態を避けるためには,デポジット(預り金)方式とするのが最も安全と言えます。ただし,ホテルのイメージや経営方針によっては,一律にデポジット方式を採用することが難しい場合もあるでしょう。このような場合には,正確な連絡先の確認に努めたり,クレームに繋がらないよう客観的かつ合理的な基準での一部デポジット方式を採用したりするなど,工夫をする必要があります。
民法改正により,令和2年4月1日以降に発生した宿泊料の消滅時効は,従来の1年から5年に延長されました。もし宿泊料の回収でお悩みであれば,一度,弁護士にご相談ください。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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