ハイブリッド型バーチャル株主総会の概要

1 ハイブリッド型バーチャル株主総会とは

ハイブリッド型バーチャル株主総会とは,リアル株主総会(物理的に存在する会場において,取締役や監査役等と株主が一堂に会する形態で行われる一般的な株主総会)を開催する一方で,リアル株主総会の場に居ない株主についても,インターネット等の手段を用いて遠隔地からこれに参加・出席することを許容する形態です。

これに対し,リアル株主総会を開催せず,取締役や監査役等と株主がすべてインターネット等の手段を用いて株主総会に出席するバーチャルオンリー型の株主総会は,会社法上,株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らし,解釈上難しい面があるとされています。

ハイブリッド型バーチャル株主総会は,リアル株主総会の場に居ない株主が,会社から通知された固有のIDやパスワードによる株主確認を経て,特設されたWEBサイト等で配信される中継動画を傍聴するような形のハイブリット「参加型」バーチャル株主総会(以下「参加型バーチャル株主総会」といいます。)と,リアル株主総会の場に居ない株主が,インターネット等の手段を用いて株主総会に出席し,リアル出席株主と共に審議に参加した上,株主総会における決議にも加わるような形のハイブリッド「出席型」バーチャル株主総会(以下「出席型バーチャル株主総会」といいます。)に分けられます。

 

2 参加型バーチャル株主総会の留意点

 (1) 質問・動議

参加型バーチャル株主総会は,インターネット等の手段を用いて参加する株主(以下「参加型株主」といいます。)はリアル株主総会に出席していないため,会社法上,株主総会において出席した株主により行うことが認められている質問(法314条)や動議(法304条等)を行うことはできません。

もっとも,株主総会の開催前に,事実上,議案の賛否についての結論が判明しているのがほとんどであり,参加する株主としては,経営者の生の声や将来の事業戦略を聞くことに重点があると考えられますので,参加型バーチャル株主総会は,株主が会社の経営を理解する有効な機会を広げるものとして積極的に評価されるべきでしょう。

(2) 議決権行使

参加型株主は,決議に参加できないため,議決権行使の意思のある株主は,書面や電磁的方法による事前の議決権行使や,代理人による議決権行使を行うことが必要であり,その旨を事前に招集通知等で株主に周知すべきです。

 (3) 参加方法

招集通知等に,動画を配信するWEBサイト等にアクセスするためのIDとパスワードを記載する方法が考えられます。

 (4) コメント等

質問や動議とは別に,参加型株主から,株主総会中にインターネット等の手段によりコメント等を受け付けた場合,当該コメント等は,リアル株主総会の開催中に議長の裁量で紹介・回答したり,株主総会終了後の株主懇談会やホームページ等で紹介・回答することが考えられます。

 

3 出席型バーチャル株主総会の留意点

(1) 前提として留意すべき点

出席型バーチャル株主総会は,会社法の解釈上,開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることを条件として可能とされています。

インターネット等を用いて出席する株主(以下「バーチャル出席株主」といいます。)は,出席だけでなく,議決権の行使もインターネット等の手段を用いて行いますが,これは法312条1項所定の電磁的方法による議決権行使ではなく,招集通知に記載された場所で開催されている株主総会の場で議決権を行使したことになります。なお,この場合の株主総会議事録には,株主総会の開催場所に存しない株主の出席の方法を記載する必要があり(施行規則72条3項1号),株主の所在場所の記載は不要であるものの,出席の方法として,開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている状況を基礎づける事実(ビデオ会議・電話会議システムの使用等)の記載が必要です。

また,出席型バーチャル株主総会は,リアル株主総会の開催場所での出席に加えて,バーチャル出席という選択肢を追加的に提供するものですので,運営に際しては,リアル株主総会の実務を応用することが基本であるものの,バーチャル出席という特異性や,株主にはリアル株主総会に出席するという機会も与えられている点への留意が必要です。

さらに,情報伝達の双方向性と即時性を確保するため,会社は,サイバー攻撃や大規模障害等による通信手段の不具合についての対策を行っておかなければなりません。具体的には,経済的に合理的な範囲においてサイバーセキュリティ対策を取っておくこと,招集通知やログイン画面において,バーチャル出席を選択した場合には通信障害が起こる可能性があることを告知しておくこと,株主がバーチャル出席をするために必要な環境(通信速度,OSやアプリケーション等)やバーチャル出席をするための手順について通知しておくことが必要です。

なお,株主が,会社側の通信障害により審議や決議に参加できなかった場合,直ちに法831条1項1号の決議取消事由にあたると解するべきではないでしょう。株主はリアル出席も選択できたところ,会社から通信障害のリスクを告知されながらあえてバーチャル出席を選んだわけですので,このように解しなければ,会社が株主の出席機会を拡大するためにバーチャル出席を認めると,かえって決議の取消リスクが増大することになり,会社が株主の出席機会を拡大する動機がなくなってしまうからです。

(2) 運営に際して留意しておくべき点
ア 本人確認

事前に株主に送付する議決権行使書面等に,株主ごとに固有のIDとパスワード等を記載しておき,株主がインターネット等の手段でログインする際に,当該IDとパスワード等を用いたログインを求める方法が考えられます。

なお,バーチャル出席の場合,場所の制約がなく,リアル株主総会に比べて代理人をバーチャル出席させる必要性は少ないと考えられますので,代理人の出席はリアル株主総会に限定し,その旨を招集通知等において株主に通知しておくことも認められると考えます。

イ バーチャル出席した株主の事前の議決権行使の効力

株主総会に欠席する予定であり,議決権を事前に行使していた株主も,急遽予定が空いたのでバーチャル出席することがあり得ます。実務上,リアル株主総会では,受付を通過する際に出席株主数のカウントを行い,議場における株主数・株式数を確認するのが一般的とされ,当該株主が事前に議決権を行使していた場合は,当該カウントをもってその効力が失われるものとされていますが,バーチャル出席株主については別の考慮が必要です。バーチャル出席株主は,その手軽さゆえに,途中参加や途中退席の可能性も相対的に高いと考えられるところ,リアル株主総会と同様に,ログインをもって出席とカウントし,それと同時に議決権行使の効力が失われたものと扱ってしまうと,徒に無効票を増やすことになってしまうからです。

そこで,ログインの時点では事前の議決権行使の効力を取り消さないでおき,採決のタイミングで新たな議決権行使があった場合に限り,事前の議決権行使の効力を破棄するものとし,その旨をあらかじめ招集通知等で株主に通知しておくべきでしょう。

ウ 質問・動議の取扱い

バーチャル出席株主から質問等を受け付ける場合,議長の指名を受けてから質問内容を打ち込む等とすると議事運営が遅延すると考えられますので,あらかじめ質問内容が記載されたテキスト等により受け付けるのが現実的でしょう。こうすることで,議長は,質問内容を確認した上で当該質問を取り上げるか否かを判断することが可能となりますので,株主が発言するまで質問内容が確認できないリアル株主総会でみられる,議案とは関係のない質問を回避することができるでしょう。

一方で,バーチャル出席株主は,リアル株主総会の開催場所にいないことから,質問や動議を出す心理的なハードルが下がると思われ,また,容易に質問や動議の内容をコピー等することもできるため,質問や動議が濫用的に出される可能性が高くなるでしょう。

そこで,質問については,バーチャル出席株主は,あらかじめ用意されたフォームに質問内容を書き込んで会社に送信すること,会社はあらかじめ招集通知等で告知しておいた運営ルール(1人が提出できる質問回数や文字数,送信期限などの事務処理上の制約,質問を取り上げる際の考え方,個人情報が含まれる場合や個人的な攻撃等につながる不適切な内容は取り上げない等)に従って議長が取り上げるといった取扱いが考えられます。

動議の提出については,議事進行中に,バーチャル出席者に対して,提案内容の趣旨の確認や提案理由の説明を求めることは,システム的にも会社に困難を強いることが想定されますので,招集通知等において,「バーチャル出席者の動議については,取り上げることが困難な場合があるため,動議を提出する可能性がある方は,リアル株主総会へご出席ください。」等と記載し,リアル出席株主からの動議を受け付けることを原則とするといった取扱いが考えられます。

動議の採決については,招集通知に記載のない案件について,バーチャル出席者を含めた採決を可能とするシステムを構築することは,会社に困難を強いることが想定されますので,招集通知等において,「当日,会場の出席者から動議提案がなされた場合など,招集通知に記載のない件について採決が必要になった場合には,バーチャル出席者は賛否の表明ができない場合があります。その場合,バーチャル出席者は,事前に書面または電磁的方法により議決権を行使して当日出席しない株主の取扱いも踏まえ,棄権または欠席として取り扱うことになりますので予めご了承ください。」といった旨の案内を記載し,実質的動議については棄権,手続的動議については欠席にするといった取扱いが考えられます。

エ 議決権行使の在り方

バーチャル出席株主の議決権行使については,事前の議決権行使としての電磁的方法による議決権行使ではなく,当日の議決権行使として取り扱うものですから,会社はそのシステムを構築しておかなければなりません。

オ その他

招集通知における「株主総会の(中略)場所」の記載に当たっては,施行規則72条3項1号の規定を準用し,リアル株主総会の開催場所のほか,株主総会の状況を動画配信するインターネットサイトのアドレスや,インターネット等の手段を用いた議決権行使の具体的方法等,株主がバーチャル出席するための方法や議決権を行使するための方法を明記し,さらに,上記アからエに記載した事項を記載する必要があります。

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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