横領などの不正行為を行う社員対応

第1 はじめに

 「横領」や「業務上横領」といった言葉はニュースなどで目にすることも多いかと思います。いずれの行為も刑法で犯罪とされており、横領の場合は5年以下の、業務上横領の場合は10年以下の拘禁刑に処すると定められています。
 こうした横領行為は、自分の会社には関係ない、あるいは大きな会社でのみ問題となる不正だと考えていらっしゃる方もいるかもしれません。しかし、横領の発生に会社の規模は関係なく、中小企業においても問題となることは多々ありますし、弁護士として企業からご相談を受けることも全く珍しいことではありません。
 今回の記事では、実際に会社の従業員による横領が疑われる際に、会社としてどのような対応が考えられるのかについて整理していきたいと思います。

 

第2 横領への対応

1 横領の特定・裏付け証拠の収集

 ある従業員が横領をしているのではないかとの疑念を抱いた際には、例えば帳簿と実際の出入金が合わない、不審な出金が繰り返されているといった、横領を疑うきっかけになったポイントがあったはずです。今後、会社としてどのような対応を行っていくにせよ、その従業員が横領を行ったことを示す客観的な証拠が必ず必要となりますので、きっかけとなった不審点を中心に、会社としてさらに詳細な調査を進める必要があります。具体的には、いつ頃から、総額でいくらの横領が、どのような手段でなされていたのか確認できることが望ましいでしょう。
 客観的な証拠を収集する前に従業員との話合いを持ってしまうと、都合よくごまかされたり、重要な証拠を隠匿されたりすることにも繋がりかねません。当然、会社としては速やかに問題を解決したいところだとは思いますが、従業員からの聞き取りを実効的にするためにも、証拠収集はしっかりと行っておきたいところです。

2 従業員からの事情聴取

 会社としてある程度横領を裏付ける証拠を集められた後は、横領を行っていることが疑われる従業員から事情聴取を行うことになります。従業員が素直に横領を認めれば問題ありませんが、横領を行っていることを否定するような場合には、事前に収集していた証拠がここで活きてきます。

3 従業員への処分等

⑴ 懲戒処分

 従業員からの事情聴取が終了し、従業員による横領の全容が把握できた後は、社内における従業員に対する処分を検討することになります。
 まず大前提として、懲戒処分を行う場合は、会社の就業規則に懲戒規定が定められている必要があります。その上で、懲戒処分を行う場合は、過去に同様のケースがあったのであれば、その際の処分結果を踏まえることになるでしょう。本件で問題とされている横領の金額や期間、態様、被害弁償の有無等を総合的に考えて、行為の悪質性を判断していくことになります。
 会社としてはこのような横領を行う従業員はすぐにでも解雇してしまいたいと考えるかもしれませんが、必ずしも「横領=解雇」という訳ではありませんので、上で述べたような考慮要素を見ながら個別的に判断していくことになるでしょう。

⑵ 損害賠償請求

 横領を行っている従業員は、横領したお金を不正に取得していることになるため、不法行為などを理由に、会社に対する損害賠償義務を負うところです。会社としては、従業員から返還されるべき金額を確定した上で、一括で返還してもらうことを基本線としつつ、場合によっては分割払いとすることも考えられるでしょう。もっとも、従業員が横領した金銭をギャンブルに費消してしまったり、借金の返済に使ってしまったりしたケースでは、回収が困難となり得ることも想定しておかなければなりません。
 横領した金銭を分割で返還することで合意したケースであれば、当事者間で合意書を作成することはもちろん、公正証書の作成即決和解の手続きを利用することも検討の余地があるでしょう。

⑶ 刑事告訴

 冒頭に述べたとおり、横領は刑法に規定される犯罪行為です。大事にしたくないため刑事告訴まではするつもりはなく、あくまで民事での解決を望まれる会社も少なくありませんが、刑事処罰まで求める場合には、警察などに対して刑事告訴(刑事訴訟法241条)を行う必要が出てきます。
 横領罪は親告罪ではありませんが、横領は会社内部で完結することも多い犯罪ですので、会社が訴え出ない限り、捜査機関が任意に捜査し始めることを期待するのは難しいといえます。

 

第3 おわりに

 ここまで、会社で横領が行われていることが発覚した場合の対応について概観してきました。横領があった場合に限られる話ではありませんが、何らかの問題が生じた場合には、その初動対応が極めて重要となってきます。特に横領が行われたケースでは、様々な場面で法律問題が絡んでくるところですので、早い段階で一度ご相談いただき、どのように対応を進めていくべきかについてご一緒に検討させていただければと思います。

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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