会社の代表取締役が認知症になってしまった場合
目次
1 はじめに
会社の経営者(代表取締役)が、自身の子等に会社を引き継ぐことにしていた場合でも、実際に引き継ぐ前、代表取締役の地位にある間に、認知症などによって十分な判断能力を欠く状態になってしまったときは、後継者とされた子等がどのような対応をとるべきかが問題となります。
以下では、このような場合の対応方法について解説していきます。
2 代表取締役の解任手続
判断能力が低下した状態の経営者が経営判断を行うことは困難であり、そのような状態では、そもそも法的に有効な契約を締結できるかどうかも問題になります。
そこで、株主総会を招集し、判断能力が低下した代表取締役について、取締役としての地位を失わせる(解任)とともに、新代表取締役を定める手続をとることが考えられます。取締役の地位を失わせることにより、これを前提とする代表取締役の地位も失わせることができます。
さらに、取締役会が設置されている会社であれば、取締役会において、代表取締役としての地位を失わせる(解任)とともに、新代表取締役を定める手続をとることもできます。
もっとも、判断能力が低下した代表取締役自身が大半の株式をもっている場合には、株主総会における議決権の行使自体が困難であり、総会決議の有効性にも疑義を生ずるおそれがあります。取締役会が設置されている場合でも、常に取締役の意見が一致して解任できるとは限りません。
3 成年後見制度の利用
株主総会や取締役会における解任が難しい場合には、代表取締役について、成年後見の申立てをすることが考えられます。
ア 成年後見制度とは
成年後見制度は、判断能力が不十分な人を支援するため、裁判所に選任された「成年後見人」が、本人(成年被後見人)に代わって、身の回りのことに関する契約を締結したり(身上監護)、財産管理をしたりするというものです。
このように、成年後見制度は、代表取締役の地位を失わせることを目的とする制度ではありませんが、裁判所の審判によって成年後見が開始し、代表取締役が成年被後見人になると、これにより代表取締役の地位は失われます。
そもそも、判断能力が不十分な人については、生活の様々な場面において、意思決定や財産管理の支援が必要になることが想定されますので、代表取締役を解任することができる場合であっても、成年後見制度の利用を検討すべき場合はありえます。
イ 成年後見の申立て
民法上、成年後見開始の審判の申立てができるのは、「本人、配偶者、四親等内の親族」等とされています。
例えば、本人の子であれば、「四親等内の親族」として申立権が認められているということになります。
ウ 成年後見人
成年後見人に就任するのに特別な資格は必要でなく、親族が就任することもあります。また、申立てにあたって、申立人が適当と考える人(申立人自身でも構いません)を推薦することもできます。
もっとも、成年後見人はあくまで裁判所の職権で選任されるため、申立人の希望どおりになるとは限らない点に注意する必要があります。実際には、弁護士や司法書士といった専門職の成年後見人が選任されるケースが多数を占めているようです。
4 最後に
以上のように、代表取締役が認知症などによって判断能力を失ってしまった場合には、後継者等が対応を検討するにあたって、関連する法律の専門的知見が必要になる場面も少なくありません。特に成年後見の申立てをするにあたっては、必要資料の収集や諸手続のために相当の知識と労力が求められることになります。
もし、「代表取締役が認知症になってしまってどうしたらよいか分からない」といったことでお困りなら、この分野に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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