【判例解説】株式評価における非流動性ディスカウント
非流動性ディスカウントの可否についての2つの判例
一般に、非上場会社の株式は、上場会社の株式と比べて流動性がなく、譲渡に取引コストがかかるため、その分株式の評価額が低くなると言われています。非上場会社の株式が実際に任意譲渡される際にも、この流動性のなさを踏まえて、低い株式評価額で売買されています。このように、流動性のなさを理由に株式のよう価額を下げることを、非流動性ディスカウントといいます。非流動性ディスカウントによる減価率は30%が相場と言われています。
では、非上場会社が株主から株式を買い取る際の株式評価においても、非流動性ディスカウントを行って良いのでしょうか。
この点について、最決平成27年3月26日民集69巻2号365頁は、非流動性ディスカウントを行うことはできないと判示しました。一方で、最決令和5年5月24日裁時1816号7頁は、非流動性ディスカウントを行うことができると判示しました。
本記事では、この2つの判例をどのように理解すればよいかについて解説します。
最決令和5年5月24日裁時1816号7頁(令和5年最決)について
【事案の概要】 譲渡制限株式の株主が、会社に対し、その所有する譲渡制限株式を第三者に譲渡することの承認を求めました。会社は、この承認を拒否し、会社自らこの譲渡制限株式を買い取ることにしました。その売買価格(株式評価額)が問題となりました。 |
譲渡制限株式を第三者に譲渡する際には、会社の承認が必要です。会社はその譲渡を承認しない場合、その株式を買い取らなければなりません(会社法140条1項)。
上述した通り、非上場株式を第三者に任意譲渡する場合、非流動性ディスカウントが行われます。この任意譲渡が承認されない場合に、会社に株式を買い取ってもらうというのが会社法140条1項の制度なのですから、その売買価格を算定するに際しては、第三者に任意譲渡する場合と同様に非流動性ディスカウントを行うのが適切と言えます。
このように、令和5年最決の判断は、ある意味当然ともいえます。
最決平成27年3月26日民集69巻2号365頁(平成27年最決)について
【事案の概要】 吸収合併に反対した譲渡制限株式の株主が、会社に対し、その所有する譲渡制限株式の買取りを請求しました。その買取価格(株式評価額)が問題となりました。 |
吸収合併は、会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為で、株主にとって一大事です。そのため、ある株主が吸収合併に反対したけれども吸収合併が行われた場合、その株主は、会社に対し、自身が所有する株式の買取りを求めることができます(会社法785条1項)。
この株式買取請求権は、市場で株式を譲渡する場合とは性格が異なります。すなわち、吸収合併という自らの意思に反する一大事において、その株主に会社から退出する機会を与えるとともに、退出を選択した株主に企業価値を適切に分配するための制度なのです。
企業価値の分配が趣旨ですから、株式を譲渡しやすいかどうか、すなわち流動的かどうかは関係ありません。このため、非流動性ディスカウントを行うことは適切ではないのです。
2つの判例の整理
以上のように、2つの判例は、株式の評価額が問題となったという点では共通しますが、株式の評価が必要となった場面が大きく異なります。
株式を譲渡する代わりに会社に買い取ってもらう場面では、株式の流動性が影響するため、非流動性ディスカウントを行うことが適切です。
一方、吸収合併に際して企業価値を分配する場面では、株式の流動性は関係ないため、非流動性ディスカウントを行うことは適切ではありません。
このように、2つの判例は矛盾しているわけではありません。最高裁は、場面によって評価方法を適切に使い分けようというメッセージを発しているのかもしれません。
非流動性の二重評価は不適切である
なお、非流動性ディスカウントを行うことが適切な場面においても、非流動性を二重に評価することは適切ではありません。
たとえば、DCF法によって株価を算定し、そこから非流動性ディスカウントを行うとします。このとき、DCF法による株価算定の中で、すでに非流動性が考慮されているのであれば、そこからさらに非流動性ディスカウントを行うと、非流動性を二重に評価していることになるので、適切ではありません。
なお、令和5年最決で用いられたDCF法による株価算定においては、非流動性は考慮されていなかったため、DCF法による株価算定後に非流動性ディスカウントを行うことが認められました。
まとめ
このように、株式評価の適切性をめぐる議論は複雑です。株式評価についてお悩みの方は、ぜひ、この分野に詳しい弁護士にご相談ください。
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