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倉庫業における「やむを得ない事由」に基づく再寄託
目次
第1 はじめに
自己の倉庫が満杯になってしまった場合や、地震・火事などの災害により自己の倉庫が使えなくなってしまった場合、寄託者から預かっていた荷物を下請倉庫業者の倉庫に移動させてそこで保管してもらおうと考える倉庫業者の方は多くいらっしゃると思います。このように寄託物を第三者に保管させることを「再寄託」といいます。
ただし、倉庫業者は自由に再寄託できるわけではなく、一定の要件をクリアしなければなりません。そこで今回は、再寄託をするための要件について解説していきます。
第2 再寄託の要件
1 民法658条
⑴ 旧民法
令和2年改正前の旧民法は、再寄託について、「受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、…第三者にこれを保管させることができない」(旧民法658条1項)と定め、寄託者の承諾がある場合に限って、再寄託を認めていました。
しかし、これでは、冒頭で述べたような事情があり、再寄託の必要性が高かったとしても、寄託者の承諾を得ることが事実上不可能な場合には再寄託をすることができません。
⑵ 現民法
そこで、令和2年改正後の現民法は、「受寄者は、寄託者の承諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、寄託物を第三者に保管させることができない」(改正民法658条2項)と定め、寄託者の承諾のほか、「やむを得ない事由」がある場合にも再寄託をすることができるという形に条文を改正しました。
ただ、ここでいう「やむを得ない事由」とは、「受寄者が自ら保管をすることが困難な事情があるだけでは足りず、例えば、寄託者が急病により意識不明であるために再寄託についての許諾を得ることができないような事情があることをいう」と解されています(筒井健夫・村松秀樹(2018).『一問一答 民法(債権関係)改正』.商事法務)。すなわち、「やむを得ない事由」に基づいて再寄託をするための要件は、
① 受寄者自ら荷物を保管することが困難といえるような客観的事情が存在すること
➁ 再寄託について許諾を得ることが事実上不可能であること
の2つとなります。
2 標準倉庫寄託約款18条
⑴ 倉庫寄託約款とは
「倉庫寄託約款」とは、倉庫業者と寄託者との間で締結される寄託契約に際し、倉庫業者が当該寄託契約に適用される契約内容を予め定めておくものです。倉庫業を行おうとする者は、事前に倉庫寄託約款を定め、国土交通大臣に届け出なければなりません(倉庫業法8条)。
他方、「標準倉庫寄託約款」とは、国土交通大臣が定める、倉庫業者の標準的な倉庫寄託約款のことをいい、多くの倉庫業者は、この標準倉庫寄託約款と同一内容の倉庫寄託約款を定めています。そこで、ここでも、標準倉庫寄託約款と同一内容の倉庫寄託約款が定められているものと仮定して話を進めていきます。
⑵ 標準倉庫寄託約款18条
標準倉庫寄託約款(以下「標準約款」といいます。)18条は、「当会社は、やむを得ない事由があるときは、寄託者…の承諾を得ないで、当会社の費用で他の倉庫業者に受寄物を再寄託することができる。」と定めています。これは、もともと、倉庫業における旧民法658条1項の特則として設けられました。
そして、標準約款における「やむを得ない事由」とは、例えば、
・自己の倉庫が満庫であるとき
・当該貨物の保管に適する場所には自己の倉庫がないとき、又は、自己の倉庫が満庫であるとき
・倉庫業者が自己の倉庫に寄託物を保管することを継続しえないような事由が発生し、かつ、他の適当な倉庫を有しないとき
・倉庫業者が自己の倉庫に災害により被害を受けたとき
をいうと解されています(塩田澄夫(1961).『倉庫寄託約款の解説』.交通出版社)。すなわち、標準約款における「やむを得ない事由」とは、受寄者自ら荷物を保管することが困難といえるような客観的事情が存在することを意味します。
3 現民法658条2項と標準約款18条の関係
⑴ 問題の所在
現民法658条2項と標準約款18条は、どちらも「やむをえない事由」に基づく再寄託を認めています。しかし、標準約款18条は、自己の倉庫が満庫であるなど自ら保管することが困難であるという客観的な状況さえあればよいのに対し、現民法658条2項は、それに加えて、再寄託について寄託者の許諾を得ることができないような事情まで要求しており、再寄託のハードルを高めに設定しているように思えます。
では、倉庫業者が再寄託をする場合、どちらの要件に従えばよいのでしょうか。
⑵ 結論
この点、民法は寄託契約全般についてのルールを定めたものであるのに対し、標準約款は、前述のように、民法の特則として倉庫業者と寄託者の関係を規律するものとして定められています。そうだとすれば、倉庫業においては、例外ルールである標準約款の解釈が適用されるべきといえます。
そのため、倉庫業者としては、自ら荷物を保管することが困難であるという客観的な状況さえあれば、再寄託をすることができると考えてよいでしょう。
第3 おわりに
今回は、再寄託の要件である「やむを得ない事由」の解釈について解説しました。
ただ、事案によっては、「やむを得ない事由」があるといえるかどうか微妙な場合があります。再寄託を考えているが、要件が充足しているかご不安な方は、この分野に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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