倉庫業と火災保険

第1 はじめに

 倉庫業者に荷物を預けようとする荷主の方にとって、倉庫で火災が発生するリスクや火災保険による補償の可否は、重大な関心事といえるでしょう。
 そこで今回は、倉庫業における火災保険の取扱いについて、解説していきます。

 

第2 倉庫証券を発行している場合

 倉庫業法14条は、「…倉庫業者…は、倉荷証券を発行する場合においては、寄託者のために当該受寄物を火災保険に付さなければならない。」と定め、倉庫証券(倉荷証券)を発行した場合には、倉庫業者に火災保険の付保義務を課しています。
 倉庫証券とは、倉庫業者が荷主からの請求によって発行する有価証券で、寄託物の返還請求権を表章するものです。
 そのため、倉庫業者から倉庫証券が発行されていれば、万が一火災が発生し、寄託物が損傷・滅失した場合でも、火災保険による補償を受けることができます。

 

第3 倉庫証券を発行していない場合

1 倉庫寄託約款の定め

 倉庫業者が倉庫証券を発行していない場合には、「倉庫寄託約款」でどのように定められているかによることになります。
 「倉庫寄託約款」とは、倉庫業者と荷主との間で締結される寄託契約に際し、倉庫業者が当該寄託契約に適用される契約内容を予め定めておくもので、倉庫業を行おうとする者全員に届出義務があります(倉庫業法8条)。
 ただ、国土交通大臣は、倉庫業者の標準的な倉庫寄託約款として、「標準倉庫寄託約款」というものを用意しており、多くの倉庫業者は、この標準倉庫寄託約款と同一内容の倉庫寄託約款を定めています。
 標準倉庫寄託約款は、普通倉庫向けのもの(以下「標準約款」といいます。)と冷蔵倉庫向けのもの(以下、「標準冷蔵約款」といいます。)があり、それぞれ、倉庫証券を発行する倉庫業者向けのもの(標準約款(甲)・標準冷蔵約款(甲))と、倉庫証券を発行しない倉庫業者向けのもの(標準約款(乙)・標準冷蔵約款(乙))の4種類があります。
 そこで以下でも、標準約款や標準冷蔵約款と同一内容の倉庫寄託約款が定められていることを前提に、説明をしていきます。

2 普通倉庫

 普通倉庫向けの標準約款は、「当会社は、反対の意思表示がない限り、寄託者…のために受寄物を当会社が適当とする保険者の火災保険に付ける。」(標準約款(甲)32条1項、同約款(乙)29条1項)と定め、原則として、全ての寄託物について火災保険を付保することとしています。
 他方で、「反対の意思表示」がなされた場合、すなわち、荷主の申出によって寄託物に火災保険が付されなかった場合には、たとえ火災によって損害が生じたとしても、倉庫業者は免責されます。また、同様に、荷主と保険会社との間で決定した損害填補額を超える損害が発生した場合も、倉庫業者が責任を負うことはありません(標準約款(甲)40条2号、同約款(乙)37条2号)。

3 冷蔵倉庫

 標準冷蔵約款(甲)33条1項は、「当会社は、証券を発行する受寄物については、反対の意思表示のない限り、寄託者又は証券所持人のために、当会社が適当とする保険者の火災保険に付ける。」と定め、倉庫証券を発行する寄託物について、火災保険を付保することとしています。
 一方で、標準冷蔵約款(乙)30条1項は、「当会社は、受寄物について、寄託者がその寄託価額を明示し、火災保険を締結することを委託したときは、寄託者のために、当会社が適当とする保険者の火災保険に付ける。」と定め、倉庫証券を発行しない寄託物については、原則として火災保険を付保せず、寄託者からの委託があった場合にのみ、火災保険を付保することとしています。これは、普通倉庫と異なり、冷蔵倉庫の料金体系は従価制であることが多く、火災保険を付保する金額の算定が困難であることなどが理由といわれています。
 そのため、「不可抗力による火災…によって生じた損害」については、倉庫業者は免責されることになっています。(標準冷蔵約款(甲)42条2号、標準冷蔵約款(乙)39条2号)。

 

第4 荷主が注意すべき点

 以上の通り、冷蔵倉庫業者は、倉庫証券を発行しない寄託物については、原則として火災保険を付保しません。そのため、冷蔵・冷凍食品の保管を倉庫業者に依頼しようとする荷主の方は、必ず、冷蔵倉庫業者に対して、寄託物の寄託価額を明示し、火災保険契約を締結するよう申し出る必要があります。
 また、仮に火災保険契約が締結されたとしても、「火災による冷蔵(凍)装置又は設備の破壊変調のために生じた損害」については、原則として、火災保険により填補される損害に含まれていません(標準冷蔵約款(甲)33条3項、同約款(乙)30条2項)。そのため、この損害も火災保険の補償範囲としてもらうためには、冷蔵倉庫業者との間で、別途合意を成立させ、倉庫寄託約款の内容を変更する必要があります。

 

第5 終わりに

 今回は、倉庫業における火災保険の取扱いについて解説しました。
 倉庫業者と寄託契約を締結するに際して、火災発生時のリスクについて気になっているが、どう対処すればよいか分からないとお困りの方は、物流分野に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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発行日:2021.03.04

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