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物流の国際化と外国公務員に対する贈収賄規制
目次
1 はじめに
国際的な物流の場面では、日本法のみならず、外国法の規制にも留意する必要があります。たとえば、通関手続の際に現地の公務員から金銭等(賄賂)を要求された場合、これに応じてしまうと、日本の不正競争防止法や現地国法のみならず、米国法や英国法による外国公務員贈賄規制にも抵触するおそれがあります。
以下では、国際物流の場面でしばしば問題となる、外国公務員贈賄規制について解説していきます。
2 国内法による規制―不正競争防止法
(1)概要
日本の不正競争防止法は、第18条で外国公務員贈賄罪を定め、外国公務員等に対する一定の利益供与等(贈賄行為)を規制しています。
(2)域外適用
そして、同規制は、日本で贈賄行為等の全部または一部を行ったすべての者に適用される(属地主義)ほか、海外で外国公務員等に贈賄を行った日本国民にも適用されます(属人主義)。
ですので、海外拠点で現地公務員に賄賂を払った場合についていえば、日本本社が当該賄賂の支払を承認していたときは、日本で贈賄行為等の一部が行われたものとして適用されます(属地主義)。また、現地公務員に賄賂を支払ったのが日本人従業員であれば、日本国民が海外で贈賄行為を行ったものとして適用されます(属人主義)。
3 国外法による規制
代表的な国外法による規制としては、「米国のFCPA」と「英国のUKBA」が挙げられます。
(1)米国法―FCPA
ア 概要
FCPA(連邦海外腐敗行為防止法)は、外国公務員への贈賄禁止等に関する規定と、(贈賄等防止の観点から)適正な会計・内部統制確立を求める規定によって構成されます。
イ 域外適用
米国上場会社といった米国国内関係者のほか、米国内で贈賄行為等の一部を行った者にも適用されます。
従って、米国内の機関を通じて賄賂の送金や連絡がなされたときは、日本企業が第三国の現地公務員に賄賂を支払った場合でも、米国内で贈賄行為等の一部を行った者として、当該日本企業が処罰の対象とされるおそれがあります。
このように、FCPAは日本企業を含む外国法人にも広く適用され、とりわけ近年は外国企業に対して積極的に執行されるようになっています。
ウ ファシリテーション・ペイメント
FCPAによる規制の特徴として、公務員の機械的業務を迅速に遂行してもらうために少額の金員(手数料)を支払うことを、「ファシリテーション・ペイメント」として処罰対象から外す規定を設けている点があげられます。
もっとも、対象となる業務や額の範囲が必ずしも明確でないため、公務員から要求された手数料が少額と思われる場合でも、安易に応ずるべきではありません。
(2)英国法―UKBA
ア 概要
UKBA(英国贈贈賄防止法)は、公務員に対するもののほか、民間人に対するものを含めて、贈賄行為等を処罰する内容の法律です。
広範囲の贈賄行為について企業の厳格な責任を規定する一方で、企業が適切なコンプライアンス措置を講じていた場合に処罰を免除する旨の規定を置いています。
イ 域外適用
英国企業(英国法に基づいて設立された法人)だけでなく、英国内で事業の一部又は全部を行っている外国企業にも適用されるおそれがあります。
2011年から施行されている比較的新しい法律であることもあり、今のところ、日本企業がUKBAによる罰則を受けた事例は確認されていません。
ウ UKBAの罰則
しかし、FCPAと異なり、ファシリテーション・ペイメントの規定はなく、違反行為に対する罰金の上限額も定められていないため、いったんUKBAによる処罰の対象となると、巨額の罰金を科されてしまうリスクがあります。
4 まとめ
従業員等による贈賄行為を防止し、企業として贈賄行為関連の諸規制により処罰されないようにする上では、各規制の特性をふまえ、企業内部でコンプライアンス措置を講じておくことが重要です。
企業の関係者によって贈賄行為等が行われたときでも、適切なコンプライアンス措置を講じていれば、企業への処罰が免除されたり、軽減されたりする場合もあります。
もし、「どのようなコンプライアンス措置を講ずべきかわからない」といったことでお困りなら、国際物流規制に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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