非正規社員に賞与や退職金は払わなくても良い?(同一労働同一賃金の原則) ご存じの方も多いと思いますが、今月
運送業における「置き配」のメリットと法的注意点
目次
1 はじめに
宅配需要の増加や運送会社の労働力不足が深刻化する中、「置き配」が普及してきています。「置き配」とは、予め荷受人から指定された場所に配達することで配達完了となるサービスのことをいいます。
運送業者にとっては、置き配を利用することで、荷受人に荷物を手渡す必要が無くなるため、再配達の負担を軽減することができます。令和4年10月の宅配便の再配達率は11.8%となっており、置き配は運送業者の再配達の負担を軽減する手段として有力な方法になります。また、近年では新型コロナウイルスの感染予防の観点から、非接触・非対面による配達方法としても注目されています。
一方で荷物を非接触・非対面で配達する上、指定された場所によっては第三者の目に触れる場所に置くことも多いことから、荷物の紛失、盗難等の問題も懸念されています。
2 置き配を実施するために
置き配は、予め荷受人から指定された場所に配達することで配達完了となるもので、荷受人の同意がないにもかかわらず、勝手に玄関等に置くことはできません。
置き配を実施するためには、何らかの形で荷受人の同意を得る必要があります。例えば、自社のホームページ上で置き配を承諾する旨のチェックボックスにチェックしてもらうことが考えられます。
3 置き配を実施した際のリスク
(1)荷物が損傷する・盗難にあうリスク
置き配を利用する場合、玄関先に置いた荷物が風雨で損傷する、自転車カゴに荷物を入れたら倒れて破損する、など、対面での受け取りでは発生しないような破損のリスクが存在します。
また、置き配を利用する場合、荷物がほかの人の手の届くところに置かれることも多いため、盗難のリスクも発生します。
(2)約款による免責の範囲
通常の宅配便の場合、多くの運送事業者の約款は、標準貨物自動車運送約款同様、不可抗力や荷物の性質や荷受人側の落ち度などに起因する損傷は免責することが一般的です。他方、運送業者側に落ち度がある場合には、荷物の価格を基準として損傷の程度に応じて、荷物の価格の範囲内で賠償し、運送事業者側に故意または重大な過失がある場合には、価格の範囲を超えた損害も賠償することが多くなっています。盗難の場合にも、損傷の場合と同様に、運送業者側に落ち度がある場合、荷物の価格の範囲内で賠償し、運送業者側に故意または重過失があるときには価格を超えた範囲についても賠償することが一般的です。
(3)約款を前提とした場合の帰結
上記のような約款の内容を前提にすると、仮に屋根のない玄関先に置き配をした後に大雨になり、その結果荷物が損傷してしまった場合(特に電子機器等が配達物であった場合)や、玄関先の誰の目にもふれるところに置き配をした後に荷物が盗まれた場合、運送業者に落ち度があるとして運送業者が荷物の価格を弁償しなければならないおそれがあるので、ご注意ください。
4 置き配によるリスクを減らすための方策
置き配の実施による荷物の破損・盗難のリスクを減らす方策として、以下のような方法が考えられます。
(1)利用者から免責の同意を得る
置き配の同意を荷受人から得る際に、配達後の風雨等による損傷や盗難については一切責任を負わない旨の同意を取得する方法が考えられます。
(2)置き配場所を指定する
置き配を認める場所を、屋根の下等に限定して風雨による損傷のリスクを減らす、宅配ボックス等に限定して盗難のリスクを減らす等、置き場所を指定することが考えられます。
(3)置き配の対象物を限定する
仮に、運送会社が責任を負う場合、高価な物が破損したり、盗難されることになれば多額の賠償を請求される可能性があります。高価な荷物を置き配の対象外にすることも考えられます。
(4)配達員による配達完了時の写真撮影
責任の所在を明確にするために、配達後、配達員自らが荷物の配達完了状況を写真に撮り、荷受人に共有することで、間違いなく配達したことを確認してもらうことも考えられます。
5 まとめ
運送業者にとって、置き配は、配達員の人手不足を軽減するという大きなメリットを有している一方で、荷物の盗難や紛失・破損のリスクが対面での配達以上に存します。置き配を新たに実施する際には、上記のような対策を講じることでリスクを一定程度減らすことができるでしょう。
置き配の実施を検討されていたり、置き配による荷物の汚損・紛失・盗難等による法的責任について疑問がある運送業の方は、この分野に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
最新記事 by 弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ (全て見る)
- “働きがいも経済成長も“を目指す企業さまを対象に「SDGs労務コンサルティングプラン」をリリース! - 2022年10月28日
- ベンチャー法務 ~知的財産 - 商標編~ - 2021年12月28日
- 法律事務所瀬合パートナーズ通信 - 2021年3月4日

- 運送会社に対する行政処分
- 運送業における労災
- 運送業の事業承継
- Q.最近、「ホワイト物流」という言葉をよく聞くのですが、具体的にどういった内容なのでしょうか?
- 標準貨物自動車運送約款の概要と運送委託契約で定めておきたい契約条項
- 自然災害が発生した場合の運送業と倉庫業における法的リスクとは~強靱で持続可能な物流ネットワークの構築を目指して~
- グループ会社における貨物利用運送事業と貨物取次事業のメリット・デメリット
- 運送業務委託契約書で定めるべき事項と注意点
- 運送業務委託契約における秘密保持契約の重要性とポイント
- 近年の物流業界と物流関連法規
- 運送委託取引を行う際の法的注意点(下請法、物流特殊指定、独占禁止法の重複適用のおそれ)
- 運送業において荷主と運賃の値上げ交渉をする際のポイントと法的な注意点
- 国内運送保険(物保険と運送業者貨物賠償責任保険)の内容と付保の要否
- 運送業における「置き配」のメリットと法的注意点
- 物流の国際化と外国公務員に対する贈収賄規制
- 他社の製品を輸送する場合における法的注意点と対応方法
- デマレージ料金はどの事業者が負担するの?
- 「倉庫業者が出保管をする場合の注意点」
- 倉庫業と火災保険
- 標準倉庫寄託約款の注意すべき条項
- 倉庫業における保管物の名義変更と注意点
- 倉庫を活用した事業を行う場合の注意点
- 倉庫業における「やむを得ない事由」に基づく再寄託
- 3PL(サード・パーティー・ロジスティクス) 導入の際の法的注意点(物流業者向け)
- 特殊貨物を運送する際の法的な注意点